ラドラ4
一息
「着いたぞ~」
その声に反応して、今にも死にそうな顔を上げる。
「ここがあの化け物との最前線ウガル砦だ。」
静寂さんは爽やかにそう言った。
顔は未だに見ていないが、息切れを全くしていない。
対して俺は、汗だくで、足がパンパンで、呼吸も荒く、腹の虫が鳴っている。何回も吐きそうになったが、静寂さんが多めに休みをとってくれたため、なんとかここまで来れた。本音を言えば、二度とゴメンだね。
「とりィ…ハぁえず中ぁに…行きぃ……」
「わかったから、あんま喋んな、運んでやるから。」
そう言って静寂さんは俺をおんぶしてくれた。
流石に砦の中には人がいるだろうから、またお姫様抱っこされてたら今度こそ顔が真っ赤になっていただろう。
中に入るとこの砦は木材で出来ているようだ。所々に石で補強されているがそれだけでこんな大きな物を支えられるとは思えない。何かしらのスキルだろう。
「あー、今は他の奴らは皆仕事でいないんだけど、この砦の責任者ならいるから顔合わせ行くぞ。」
静寂さんのおんぶにより息も整って少し体調が戻った。
「顔合わせの前に食事と、何か着替えは無いですか?
あまり失礼な格好で行きたくないですし。」
そう、今俺は腹が減っている。十日間も干し肉と水しか摂取していないのだ。育ち盛りからしたら腹も減るが、贅沢は言えないのは承知の上だ。流石に会ったばかりの人の前でいきなり倒れるのは如何なものだろうか。
「んーそうだな、じゃあ隊長に会いに行く前にフォルの所に行くか。」
結局人に会うのか…意味ないじゃねぇか!
「ようフォル~、体調不良の奴に食べさせる食料くれよ。」
「どうしたんだい?君が食べるわ………」
金髪にショートヘアー、緑の瞳に見るからに力の無さそ……優しげな男性と目があった。
「どうしたんだい!?この子!?体中土まみれじゃないか!おいマルト!」
「拾った。」
「拾った、じゃない!今すぐ用意するから待っててね?マルトは、後でゆっくり話し合おうか?」
俺には優しく語りかけ、静寂さんを睨みながら厨房らしき所に入っていった。
「静寂さん…」
「おっ心配するな、あいつの料理は上手いぞぅ」
そう笑いながらなんとも無かったかのように言い放った。
そっちじゃ無いんだけど?
しばらく待っていると何かを持ってさっきの人がやって来た。
「お待たせ。そうそう僕はフォルライト、よろしくね。まずはこれを飲んでおいて。」
「俺は…カンタです。えっと、これは?」
「生姜と蜂蜜を牛乳に入れたものだ。どうせ何日も碌に食べられていないんだろう?誰かさんのせいで。」
その誰かさんをチラリと見ながら言った。
どこ吹く風の誰かさんをよそに俺は口に流し込む。
それはとても甘くて、空腹の胃に優しく溶けていく。自分がまだ生きていると実感できて目頭が熱くなる。
「なに泣いてるんだ?」
間接的に泣かしてきた原因に首をかしげられてしまった。
「そいつの扱いは、もっと雑で良いからね?」
そう言いながらフォルライトさんが持ってきたのはブイヨンのようなスープだった。
「これ、肉入ってますけど今の俺が食べて大丈夫なんでしょうか?」
これで体を壊したら意味ないからね。
「おぉ君は物知りだね。感心感心。」
嬉しそうに俺の頭をなでながら言葉を続ける。
少しこっ恥ずかしいが、悪い気はしない。
「大丈夫だよ。それは鶏の特に消化の良い所を使っているからね。」
そう言われて俺はスプーンを手に取った。さっき会ったばかりの人ではあるが、ここまで優しいのだから信用できるだろう。何よりさっきからスープのいい匂いが俺の鼻腔をくすぐっている。
「うまっ」
「そうだろうそうだろう。なんといってもそのスープにはここら辺でしか取れない貴重なハーブをふんだんに使ったことで食への気持ちを促進させて肉と野菜もじっくり煮て作った……って聞いてないか。」
「お前は料理になるといつも話が長いんだよ。」
「うっ!」
フォルライトさんと静寂さんが何か話をしているが、そんなこと気にしていられない程この料理は美味しい。夢中で食べてしまった。
「最後はこれだよ。」
「おぉ…」
思わず声が出てしまった。どうみてもリンゴ。
いや、まだだ。味を確かめないと…
手を伸ばして口に運ぶ。
「シャクッ」
心地よい歯応えと、さっぱりとした甘い香りが口の中に広がる。
これは、日本の植物がこの世界にもあるかもという、希望に繋がるかもしれない。
「とても美味しかったです。ありがとうございました!」
「こちらこそ、ところでマルト?この子は……」
「大丈夫だよ。これから責任者に会わせるさ。」
「そうか、兄さんに。じゃあ僕もその場にいても良いよね。」
フォルライトさんのお兄さんがここの責任者なのか。やっぱり似ているのだろうかね。
「まぁ良いじゃないか?お前なら口も固いし。」
「おや?わけありかい?それは楽しみだね。」
いよいよ会うとなるとやはり緊張してくる。
食べたもの出さないようにしないと…
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