ラドラ5
増える知識
目の前に筋骨隆々のフォルライトさんがいた。
しかし、フォルライトさんはそんな体格ではない。
そこにいたのはこのウガル砦の責任者でありフォルライトさんのお兄さん、カーライトさんだ。
カーライトさんは、静寂さんがあれこれ話しているのを目をつぶってじっと聞いている。
最初よりは、緊張しないでいるため静寂さんの問いにはい、かいいえは言えるようになった。
ちなみに最初の自己紹介で噛んでしまったため、ソファの端に縮こまっている状態だ。
「とりあえず今聞いた情報は上に報告するとしよう。」
「いやぁー、俺の推測も入っているから全部そのままってのは、ちょっと…」
「なぁに、国一番の斥候と言われた者の推測だ。一考の余地はあるだろう。」
「ではカンタ、君を受け入れることは私では決められないが、この砦に逗留する事を許そう。君のことはこの場にいる三人ともう一人、そして我がレグルス王国の偉い人たちにしか知られないようにしよう。そして後は君の意思表示をしてもらいたい。」
「はい。(言えたぁ。)俺は……戦闘の経験もないし足引っ張るだけかもしれないですけど、皆さんの敵には一応顔見知りが何人かいます。たとえ少しの数でも助けられる命は助けたいです。」
あいつらも好きで戦争するわけではなく騙されているんだ。せめて真実を伝えられれば良いが…
「良いだろう。その言葉があれば国でも君の存在は確保しておきたい存在だろう。」
それはそうだろうな。ただでさえ最前線、人手はいくらあっても困らないだろうし、なにより、敵の戦力を落とせるかもしれないともなれば願ったり叶ったりだろう。
「そういえば一つ、質問があるのですが。」
この場にいる三人は首を傾げた。
「何だ?言ってみろ。」
「この世界でのスキルについて知りたくて。」
「あぁそうか、カンタはあまり知らないのか。
おいマルト、説明してやれ、ついでにお前のスキル の詳細も。」
「えぇー、何でぇ。」
明らかに嫌そうに静寂さんが答える。
それはそうだろうなぁ。自分の強みと弱みを晒すようなものだ。まぁ一つはなんとなく分かるが。
「別に良いじゃないか。マルトのスキルは分かった所でどうしようもないんだからさ。」
「なっ、フォルまで?
………はぁ、しょうがない教えてやるよ。」
「「流石マルト!」」
「こういう時だけ兄弟しやがって。」
カーライトさんとフォルライトさんの息ピッタリの台詞を払い除けるように手を振ると、静寂さんが俺に目を向けた。
「まぁ、なんだ俺たちも詳しく分かってるわけじゃねえがスキルには二種類あってな?第1スキル、第2スキルって種類があるんだ。
第1スキルは、自己完結するもの、第2スキルは自分以外にも影響がでるもの、これが基本だ。例外もいっぱいあるけどこれが基本だ。」
なるほど、俺の第1スキル【状態異常無効】は自分だけが対象で、第2スキルの【投擲】は、投げて相手に物を当てるからってとこか?俺のスキル分かりやすくて助かるわぁ。
「そういえばこのスキルの横にある1って数字は何ですか?」
「それはスキルの強さだよ。」
そう言ったのは、フォルライトさんだ。
「ちなみに僕の第1スキルも10が最大だと思ってたんだけど、この砦に来て11になったんだ。」
「お前の第1スキル言ったって問題無くないか?」
「まぁ良いか。僕の第1スキルは【味覚強化】だよ。ここら辺でしか採取できない食材を試していたら11になったんだ。」
フォルライトさんが自分の舌を指差しながら答えた。
結局言うのかと思ったがまぁこれは言っても問題ないなと、思ってしまった。
「さあマルト?」
「分かってるよ。
カンタよく聞けよ、俺の第1スキルは【満腹】だ。七日間なにも食べなくても活動が出来る。それに、スキルを使っても食べる量が増えるわけじゃないから便利だぜ。」
何だその当たりスキル……いいなぁ。
「んで、第2スキルは……まぁ原理はよく分からん。自分を中心にした視認できる範囲だったか?の音を消せる。細かく調整も出来るぜ。初めて会ったときもそれを使ったんだ。」
……静寂さんが犯罪者にならなくてよかったな。
俺は静寂さんを少し見直す。
「おいカーライト、お前も言わなきゃ不公平だろ。」
いや、やっぱ嘘だわ。
口元をニヤニヤさせながらカーライトさんに話しかける。
「…そうだな、俺の第1スキルは【拡声】だ。声を大きくしたり拡散できる、戦場で色々便利だぞ。」
一見強くはないが、確かに便利そうだと思った。これは第2スキルも気になるが(特にフォルライトさん)流石に言ってはくれないだろう。
「ありがとうございました。では俺のスキルも言いますね。」
--マルト--
「さて件の、カンタの人間性はに関しては問題なさそうだが…。」
カーライトが歯切れの悪そうに言う。
「あぁ、お前の気持ちは分かるぜ。【状態異常無効】 なんて明らかにヤバいだろうな。何を何処まで無効化するのかも把握しないとな。」
「……別に彼が持っているのが悪いのではない。彼と同じ所から来た敵側のものたちもこれと似たくらい強烈なスキルを持っているとなれば……ハァ…国にどう報告すれば…」
流石に俺も良い案は浮かばないな。
「まぁまぁ兄さん、落ち着いて…」
「あぁぁ!フォル!酒の用意しといてくれ!」
あぁっ、カーライトが爆発した。これじゃ今日は使い物にならないな。
「まだ職務中じゃ…」
「良いんだ!!」
カーライトがドスドスと音の鳴らして出ていった。
俺の報告まだ書状に記して無いのになぁ。
「全く、兄さんは仕方ないんだから。」
優しく微笑みながらフォルライトが食堂に足を向ける。
「俺にもそんな優しさが欲し~なぁ~。」
そう言うとフォルライトは振り返る。
「じゃあもっと働いてよ?」
そう言うと、足早に行ってしまった。
「兄さん~」までは聞こえたが、俺は動かなかったからその後は聞こえなかった。
ソファに身を落とす。
体の力を抜く。
ゆっくりと目を閉じる。
「ハァーー、一生寝ていたい。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます