著作権切れ翻訳劇場
残機弐号
第1章 ウサギ穴を落っこちて その1
アリスは退屈でしかたなくなってきた。さっきから土手でお姉さんのそばに座っているだけで、何もすることがなかったのだ。お姉さんが読んでいる本を何度かのぞき込んでみたけれど、挿絵も台詞もなかった。「挿絵も台詞もない本なんて、何が面白いのかな?」とアリスは思った。
それで、アリスはあれこれ考えをめぐらせた(できる限りの範囲でということだけど。その日は暑いものだから、アリスは眠くてぼんやりしていたのだ)。ヒナギクでくさりをつくって遊ぼうかな。でも、わざわざ立ち上がってヒナギクを摘みに行くのもめんどうだし。そのとき突然、ピンクの目の白ウサギがさっとそばを駆けていった。
そのことはたいして驚くことでない。ウサギが「たいへんだ! たいへんだ! こりゃ遅刻だよ!」とつぶやくのが聞こえたことも、アリスにはどうってことなかった(後から考えると、なんでなんとも思わなかったのかはわからない。でも、そのときはごく当たり前のことに思えたのだ)。しかしウサギがベストのポケットから時計を取り出し、じっと見て、また急いで走り出したとき、アリスは立ち上がることにした。急に気づいたのだ。ポケット付きのベストを着ているウサギも、そのポケットから時計を取り出すウサギも、生まれて初めて見たことに。それでアリスはウサギの後を追って野原を駆け抜け、ウサギが生け垣の下の大きなウサギ穴に飛び込むのをなんとか見逃さずに済んだ。
次の瞬間、アリスもウサギの後につづいていた。後でどうやって穴から出ればいいのかなんて少しも考えもせずに。
ウサギ穴はトンネルみたいにまっすぐに前にのびていた。しかしいきなり行く先が沈み込んだ。あまりにいきなりだったのでアリスは立ち止まろうと考える余裕もなく、気がついたら深い深い井戸の底へまっ逆さまに落ちて行くところだった。
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