Episode 52 焔色と黄色の戦い
タカトとディーンが遭遇したモノと対峙していたその頃、シアーシャは兵器型アンストロンと真正面からぶつかっていた。鞭を握った右手を頭上に引き上げ、そのまま思いっきり右斜め前方へ振り下ろし、再び頭上に引き上げては、そのまま左斜め前方へ振り下ろし……を何度も繰り返している。彼女の周囲はまるで、ブラスター・ウィップによる橙色のシールドが貼られている状態だ。ソニックブームによる騒音と、ブラスターによる電気音が通路内に鳴り響いている。
幾体もの機械知性体は、彼女に向かって容赦なくブラスター・ガンを発砲して来る。しかし、その度に焔色の電流のような光線がしなりつつ、全てを絡みとるようにガンそのものを次々と破壊しているのだ。時々、橙色をした蛇の攻撃を避け切れた光線が襲い掛かり、彼女の右肩や左脇腹、左腕や右腿に焼かれるような激痛が走ったが、シアーシャは何食わぬ顔で弾き返した。まとわりつく焦げ臭い匂いに若干顔を顰めながら。
蛇のような動きで這い回るフォールは、音速を遥かに超えるスピードで次々と機械知性体達を薙いでゆく。その度に、彼らの胴体はまるで大根やら人参やらのように真っ二つに割られ、そこからコアが弾きだされては床を転がった。循環剤にまみれたそれは、べたべたと床にまとわりつくように汚染している。
「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
シアーシャが肩で息をしながら周囲を見渡してみると、兵器型アンストロン達の成れの果てが無惨にもあちこちに転がっていた――目に映る範囲内でのことだったが。
《〝スコルピオス〟! 伏せろ!! 》
「!?」
その時突然、レティナ・コール越しに相方の声が彼女の耳に飛び込んできた。刹那、大きな爆発音が鳴り響き、その爆風で彼女の身体が耐えきれず、後方に向かって吹き飛ばされた。
「うあっ……!!」
身体をひねり、何とか衝撃を和らげようと努めたが、身体のあちこちに走る激痛で、思うように動けない。
(叩きつけられる……!! )
すると背中に走る温もりに似た痛みが走るのを感じた。シアーシャが閉じていた目を開けると、月色に煌めく銀髪と、空色に輝く眼光の鋭い顔が実体で見えた。
彼の見える右腕が彼女の身体を抱き抱えるように支え、左肩から先の見えない腕は、一基のアンストロンの胴体を真っ直ぐに貫いている。
その瞬間、真っ黒な循環剤が天井に向かって噴水のように吹き上がり、その胴体は彼の腕から抜け落ちるようにして床に転がり落ちた。その傍で、ひしゃげたコアが床へと張り付いているように見える。
アイドルのように形の良いその顔に、真っ黒な飛沫が飛び散り、金属のような冷たい音が周囲に響き渡った。
「……ちょっと遅いぞ。〝ディアボロス〟」
ドウェインの腕の中で眉をひそめてやや憎まれ口を叩く彼女に対し、彼は申し訳無さそうな視線を送りつつ、口元には安堵の笑みを浮かべていた。
「すまないな。これでも全力で戻ってきたんだ。君のためにな」
「……それでも、君は必ず来てくれると信じていたよ。あたしをずっと見ていてくれているのも、分かっていたし」
「他でもない我が義女殿のためなら、俺は野でも山でもどこからだって駆け付けるさ」
ドウェインは、彼女の額に労いの意を込めて軽く口付けた。くすぐったいような顔をしたシアーシャは彼の頬を両手で掴んで自分の方へと引き寄せ、仕返しとばかりに彼の右頬に軽く口付ける。
「……ありがとな。ところで、そちらは何か分かったかい?」
「……大半の部屋は手がかりなしだ。恐らく、今回のオオモノの近くに閉じ込められているのではないかと、俺は睨んでいる」
「そうか……どうやら今のところここは静かになったから、続きの偵察に行こうか」
「そうしよう……と言いたいところだが、傷は大丈夫か?」
「ああ……何とか。かすり傷程度だから、何ともない」
「具合が悪かったら早目に言えよ」
「そうするさ」
二人は体制を整えると、ドウェインが向かっていた先へと歩いて行った。
◇◆◇◆◇◆
一方その頃、タカト達と反対の通路へ向かったナタリーとロバートは、突き当りにあった部屋内にて、ディーン達と違ったモノに遭遇していた。それは、真っ黒でごつごつとした岩肌のような胴体を持ち、恐らく〝ジュウキャクルイ〟と分類される生物に似た形態をしている。
子供の頃、エレメンタリースクールにて習ったことはあるものの、嘗ての〝チキュウ〟に存在した〝カセキ〟といったシロモノは画像でしか見たことがなかった。それでも、有名種であるため、彼らはすぐにそれに模したアンストロンだと分かった。
「これは……ティラノサウルス型……というところか」
「建物内というだけあって、流石にこの前のあの巨大鮫まではいかないわね。それでも何て大きいのかしら……!!」
「流石に本拠地というだけあって、最初から異形化させたものを仕込んでいるところを見ると……我々を誘い込んでいるとしか思えないな」
「でも、敢えてその手にのらないと、先に進めないというわけね」
ティラノサウルスは爬虫綱の化石動物で、全長約十五メートル位。体重が十トン位だと聞く。これも恐らくそれ位はあるだろう。身体中を何百匹ものミミズが這い回るような緊張感が彼らを襲った。標的物を前に、ロバートは睨むかのように目を細めている。
「あの大きな顎でやられたら一巻の終わりだろう」
「そうね。あの顎には気を付けなくちゃ。私達スナックにされちゃうわ」
「我々はツマミになるために来たわけじゃあないからな……」
緊張感のあまり、ジョークを飛ばし合っていた二人だが、奇声をあげたアンストロンがズズン、ズズンと地響きを立てながら突進してくるのを見て、その場から即座に離れた。
「危ない!!」
二人は左右に分かれて飛び退った。巨大な機械知性体が唸り声を上げ、頭部――恐らく全長が約一・二メートルはあるだろう――を突き込んでくる。最低五百キログラムはあるだろう頭だ。まともに喰らって無事なはずがない。
「これにもアレは効くかしら?」
自分の技を試してみようと思ったナタリーは、こめかみに指をあてると、灰色をしたスケルトンタイプのゴーグルがあっという間に彼女の目を覆った。右耳の付近に黄色のインカムマイクが出現する。ゴーグル上に丸や三角や四角と言った、様々な模様が現れる。どうやら狙いのものの場所を定めたようだ。再び目を開くと、標的とする巨大な機械知性体を睨み付けた。
(目標を射程圏内に捕捉。照準完了! )
彼女は大きく深呼吸し、赤い唇を縦に大きく開こうとしたその瞬間、突然向きを変えたアンストロンが、ナタリーの視界に目の前に大きな尾が振り落とされるのが入り込んできた。
「きゃあっ!!」
凄まじい地響きとともに、ナタリーの身体は灰色の煙幕に包み込まれ、見えなくなった。
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