Episode 49 眩い建物
タカト達が向かうマブロス星へは、ルラキス星から宇宙航空線で向かうことが出来る。その他惑星へも右へ同じだ。
ルラキス星マブロス星間の交通路は、戦時中は途切れていた。非戦時中(ほぼ終戦状態)である現在は、双方自由に往復可能である。宇宙航空の利用方法は、チキュウで言う飛行機と似たような感じだ。旅行や仕事で利用する者もおり、一日に大体五から六便ほど出ている。ただし、一般の宇宙航空では融通が利かず、何かと時間の制約がかかるのが難点である。
そこで、セーラス本部は宇宙航空会社に依頼して、奪還者用と、エージェント達専用の宇宙航空線を二機準備した。例えるなら俗に言う、一種のチャーター便のようなものである。こちらの宇宙航空線は特殊型で、何とワープ機能もついている。この機能を発動させると、飛行時間を通常の百分の一に短縮出来るのだ。距離によっては一分もかからず目的地まで辿り着ける優れものである。(これは有事用だからこそついている機能である)
タカト達はこの特殊型宇宙航空線を使って、母星・ルラキス星を飛び出して行った。
◇◆◇◆◇◆
マブロス星の中心都市、アデッサ市にある宇宙航空の終着地点には、驚くほど早く辿り着いた。ルキラス星を出発してから、船内時間で六時間しかかかっていない。通常だとルキラス星時間で約二十日はかかる道程なのに。到着したマプロス星の現地時刻は、十三時になるらしい。
アデッサ市の駅から降り立ったタカト達は、周囲を見渡していた。エージェント全員が初めて訪れる惑星なので、正直言って右も左も分からない状態である。彼らは土地勘に少し慣れるため、まずは街を歩いてみることにした。
中心都市というだけあって、人が多く、大変賑やかだ。見た感じ、市民の着ている服と言い、利用している乗り物と言い、母星と大差ない。ただ違うのは、時々迷彩柄の戦闘服を着込み、アサルトカービンを抱えた兵隊が往来しているのがちらちらと見える位だ。普段軍人が街中を闊歩していない母星と比べると、随分と物騒に見えるが、別に空気がかたいわけではなさそうである。
「ほえ〜! この星に来るのは初めてだが、ルラキスと大して変わらないようだぜぇ! 良かった〜!」
街中を往来している人々の様子を見ていると、言葉はルラキスの公用語とほぼ同じようだ。他の小惑星では言語の違いのみならず、その星特有のなまりがあったりするので、厄介である。非常事態である今、言語の壁がないだけでもストレスが減るので、大変ありがたかった。(彼らは他の小惑星の別の公用語を含め、五ヶ国語の言語を操れるように訓練されている。翻訳に関してそこまでストレスではないのだが、程度がどうであれ、ストレス自体少ないに越したことはない)
「でも、私達怪しまれないかしら? 妙に気になるわ」
「そうだな……怪しまれないようにするなら、ツアー客のふりをするのが一番じゃない? 何なら俺、ツアーガイドのふりをしても良いけど?」
ドウェインが旗を振るジェスチャーをしていたが、彼らは観光に来ているわけではない。しかし、まるで未開拓地に足を踏み入れた探検者のようで、ディーン以外のメンバーはどこか興奮気味だ。
「目指すのは……〝アデッサ〟にあると言われている研究所だな。調査部門の調べによると、アデッサ市内に点在している研究所の内、一箇所だけが生物と機械知性体に関する研究に特化した研究施設らしい。うちの市民が連れて行かれたのは、恐らくそこだろうと、彼らは目星をつけている。まずはその建物がどこにあるかを探さねばなるまい」
ロバートは亜空間収納よりタブレットを出した。その画面には、地図のようなものが映っており、現在地を示す黄色の点滅が見えた。赤い点滅――拉致被害者の一人が持つUPSから発信されている――も見えるが、自分達が住んでいる星と勝手が違うため、場所がイマイチ把握しにくい。
そこでシアーシャが突然、何かを思いついたような顔をして、タカトの肩を人差し指でつついた。
「なァタカト、君の〝目〟は、アンストロンの〝コア〟や〝カルマ〟にしか反応しないのか?」
「ん〜それが良く分からねぇ。有事の時しか使ったことがねぇから……って、突然何?」
「せっかくの機会だ。他に何が視えるのか、是非試してみて欲しい」
「あ……ああ、分かった。それじゃ試してみる」
タカトはこめかみに指をやり静かに目を閉じ、いつものあの〝感覚〟を呼び覚ました。数分後で再び目を開けると、両目が翡翠色から輝く金色へと変わっていた。ゆっくりと辺りを見渡してみると、まるで砂のようなものがあちこち点在しているのが視えるのだ。
「どう?」
「……何か見えるぜ。白く光っているんだが、小さな砂のようなものが見える。何だこりゃ?」
「ほう。それは、私達には全く見えないな。タカト、それはどのように見えるかい?」
「ん〜……どう表現したら良いのか……」
しばらく首を傾げながら、タカトは道路の周囲を探知するように視線を動かした。
(光る砂が道路にまかれているような感じにも見えるが……これは一体どういうことだ?)
光る砂がより集まっている部分を見抜いたタカトは、吸い寄せられるかのように、その方向へと歩き出した。それを見たナタリーは慌ててその後をついてきた。
「タカト? 一体どうしたのよ? どこへ行くの?」
「何か、この砂っぽいヤツ、濃い部分と薄い部分があって、その濃度差がすげぇ気になる。何故濃度差をつけるのか、検討がつかない。取り敢えず、濃い所に向かって歩いてみる」
「ひょっとすると、手がかりの一つかもしれんな。罠の可能性もあるが、敢えて乗ってみても良いだろう。タカト、私達を誘導してくれ。目的地と思える場所とあまりにも大きくズレがあるようなら、即座に知らせるから」
「分かった。それじゃあ、みんな俺の後をついてきてくれ」
タカトが、光る砂(本人にはそう見えている)を道標にして歩きだすと、他のエージェント達はその後を従うように歩き出した。この砂は詳細不明だが、何故かタカト本人にしか見えなかった。
ロバートはタブレットとに示されている黄色の点滅が、赤い点滅へと少しずつ向かっているのに気が付いた。この光る砂の正体はイマイチ良く分からないが、このまま彼の向かう方向へ進んでも大丈夫だろうと判断し、口を出さないでいた。
◇◆◇◆◇◆
それからどれ位歩いただろう。途中
座席に座り、目的地を見定めるために車窓から外を眺めていたタカトは、自分の肩に重みを感じた。疑問に思い、その方向へと視線を動かすと、腕を組み、自分の肩にもたれかかりながら眠っている相方の姿が、視野に飛び込んできた。奇跡のように整った美しい寝顔を間近で見てしまった彼は、心臓の鼓動と呼吸とが、同時に止まったかと思った。
(ディーン……?)
静かにまぶたを閉じているところを見ると、よほど疲れているのだろう。ディーンは今までそんな姿を他人に見せたことなどなかった。退院してから間もない状態だ。恐らく、体力が完全に戻りきっていないに違いない。しばらくそっとしておこうと思い、そのまま視野を車窓の外へと戻した。
賑やかな街並みを通り過ぎ、段々過疎地域へと向かっていると、大きな工場のような白い建物が車窓から見えた。それを目にした途端、タカトは瞬きをし、訝しげな顔をした。
「……あの建物が何だか怪しいぜ。眩しい光をまとっている……ところで、ディーン。大丈夫か?」
「……大丈夫だ。少し仮眠をとっていただけだ。体調は問題ない」
「あの建物か。確かに何かありそうだ。それなら次の駅で降りようか」
ディーンは病み上がり状態な分、普段より疲れやすいのだろう。そう言えば、宇宙航空線の中でも、壁により掛かるようにしてずっと眠っていたのを思い出す。無理をしていないと良いのだが。
「何かあったら、俺達に言えよディーン。今回は六人掛かりでの大仕事だ。他四人がサポートに回れるからな」
「分かった。その時はそうさせてもらう」
そう言う彼は、すっかりいつもの調子に戻っていた。
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