Episode 33 リベンジだぜ!!
何はともあれ、ナタリー達の助力によって、一つ目の難関を突破出来たことは大いに喜ぶべきことであった。パウエアが言っていた巨大鮫型アンストロンの発する「独特な鳴き声」と言うのは、おそらく「音響兵器から発せられていた音波」のことで間違いないだろう。近付いた人間を感知すると、音波を投射することにより、聴覚器官や脳にダメージを与え、身動きをとれなくしていたに違いない。とんでもない「メカ・セイレーン」である。
「おっしゃー!! あの厄介な〝音〟さえなければこっちのもんだぜ!! あの鮫モドキめ……今度はぎっちぎちにのしてやる!」
鼻息の荒いやんちゃ坊主を、いなすように無表情な声が飛んで来た。
「あまり油断するな。相手は規模も威力も強大だ」
「分かってるって! もうめまいも落ち着いたし、アイツめ……コケにされた分、そろそろリベンジしてやろぉじゃねぇか……!!」
「……」
相方にしばらく好きにさせておこうと思ったのか、ディーンは口をつぐみ、それ以上何も言わなかった。
すると、エンジンの音とともに、水飛沫の上がる音が自分達の元へと近づいて来た。ディーンがふとその方向へと顔を向けると、ナタリーとロバートを乗せた白のPWCだった。
船体に付着したしずくに太陽の光が反射して、とてもまぶしい。
ナタリーは前方座席に乗ってハンドルを握っている。いつの間にか二人は席を交代していたようだ。ロバートは、気になることでもあるのか、やや訝しげな顔をしている。
「〝リーコス〟。相棒のことが心配か? マイペースな君にしては、随分と珍しいな」
「例え自分が直接手を下していなくても、自分に関わる全てのミッションに対して、僕にも全責任が伴うからな」
「まぁ確かにそうね。バディシステムという時点で、相方と一緒に行うことって、全てが万事〝一蓮托生〟よね。特に誰かさんは、今までの人達より色〜んな意味で
「……なぁんか俺、問題児みてぇじゃねぇか」
「そのまんまじゃないの! まぁ、本人にその自覚があるのは喜ばしいことね♪」
「ちぇっ!」
「〝レオン〟。〝リーコス〟。我々二人も一緒にことにあたるから、心配しなくても大丈夫だ。ヤツが暴れ出したらとにかく〝逃げる〟〝安全を最優先〟としようか」
「……了解した。気遣いに感謝する」
その場の雰囲気を和ませる人格者は、同僚間のコネクターにもなれるため、職場にとって大変有り難いものである。
そんな彼の相方はハンドルを握り、エンジン音をがんがん鳴らしている。そろそろ次の作戦実行へと移りたい様子だ。
「それじゃあ、攻撃に回るのは〝レオン〟と〝スパティ〟。PWCの操縦は〝リーコス〟と私……ということで良いわね?」
「了解した」
「狙うはあの強大な鮫モドキの〝鼻柱〟にある〝コア〟。相手の出方によっては〝目〟を先に狙った方が良いのかもしれんな」
「そこは臨機応変に対応しよう」
意見が一致した黒と白のニ台のPWCは、二手に分かれて勢い良く大きな水飛沫を上げた。
◇◆◇◆◇
水紋が見え始めた。
しばらく身を潜めていた真っ黒な物体が、再び水面に上がって来たようだ。恐らく、彼らの標的だろう。その周囲に立つさざ波が、少しずつ大きくなっていく。
それはやがてばしゃりと音を立て、平べったい三角の形をした黒い物体が、ゆっくりと浮上して来た。
それを目にした四人は再びごくりとつばを飲み込んだ。
「来たぞ」
「おっしゃあ! こちらも準備万端……うあっ!?」
ガッツポーズを取ろうとしたタカトは、危うくバランスを崩しかけて、縋り付くように相方の腰に捕まった。
眼前に大きな波が迫ってくる。
それを見切ったディーンはPWCを大きく右に旋回させ、アンストロンによる体当たり攻撃をかわした。
ザザザザザザザザッ!!
Gがかかるとともに、身体の奥底にまで波の衝撃が伝わって来る。
「うわわわ!!」
「しばらくこの状態だ。振り落とされないように、僕にしっかり捕まっていろ」
「ああ……分かった」
『〝リュラ〟。そちらは大丈夫か?』
ディーンは〝レティナ・コール〟を用いて、もう一組のバディのメインライダーに呼びかけた。先方からは即、明るい返事が歌うように返って来た。
『ええ、こちらは大丈夫よ〝リーコス〟。私はあなた達と反対の方から攻撃のチャンスを狙ってみるわ。それまでやんちゃ坊主のお守り、しっかりね♪』
『……全部聞こえてるぞ〝リュラ〟!! そこでどーして俺をガキ扱いする!?』
『あら? 地獄耳ね。事実を言ったまでよ。抱っこにおんぶまでして貰ってるんだから。出番が来るまで〝リーコス〟にしっかりあやしてもらいなさいなボ・ウ・ヤ! 大人しく出来ないのなら、特別な〝子守唄〟を歌ってあげても良いわ』
ナタリーの半分本気とも捉えかねないジョークに、タカトは背筋が寒くなった。「人間音響兵器」による子守唄だなんて、末恐ろしいことこの上ない。とっさに言い返す言葉が思いつかない彼は、やむなく白旗を上げるしかなかった。
『それは勘弁……!!』
「……来るぞ」
今度は横から大きな波が襲って来た。
水面から大きなヒレのようなものが透けて見える。
尾びれだろうか。
白い泡立ちとともに、波に飲み込まれそうだ。
そこで、ディーンの耳元にロバートからコールが入った。
『〝リーコス〟。このままでは埒が明かないようだ。PWCも燃料の残量を考えると、長時間稼働は不可能だ。長くなれば長くなるほど、その分こちらに分が悪くなる』
『そうだな。それに関しては僕も懸念していた』
『私が先に攻撃をしかけてみる。その反応次第で次の手を考えようかと思うのだが、君はどう思う?』
『やってみてくれ。第一手の判断は君に一任する』
『了解した。君の相方の前座になれるようやってみるよ』
ロバートの口調は、カジノでポーカーを楽しんでいるかのような、どこか余裕のある響きだった。
◇◆◇◆◇
ディーンとのやり取りを終えたロバートは、己のメインライダーへ、今から行うことを簡潔に説明した。
「……と言うわけで、今から私が先陣を切る〝リュラ〟」
「ええ、分かったわ。しっかりね〝スパティ〟」
「標的の〝コア〟を狙いやすくするために一手をうってみる。あえて前方に回ってくれないか」
「囮作戦ね。OK! こちらの操縦は任せてちょうだい」
ロバートがこめかみに指をあてると、左の掌の中に淡い緑色の光が生まれた。それはやがて、一振りの剣の形へと変化する。ブラスターソード――それは彼の得物である。一見して普通の剣に見えるが、使い手による操作一つで光線剣にも変わる優れものだ。鞘を抜かれたそれは彼の手の中で、刀身に淡い緑色の光がまとわりつくように輝いている。
荒波に揺られつつ、ナタリーはPWCを巨大アンストロンの手前に来るように操縦した。彼女の相方は標的を睨み付ける。
「悪いが、その光、潰させてもらうぞ」
彼は迫りくる大きな
巨大な大顎の開閉が繰り返される度に発生する大津波の間を、彼はまるで大波に乗るサーファーのように鮮やかに駆け抜けた。それを逃すまいと、巨大鮫モドキは体当たり攻撃を仕掛けてくる。
彼は右に左に、上に下に斜めへと飛び回りつつ、あっという間に標的のぎりぎりのところへと近付き、その大きな瞳に刃を一気に突き立てた。
「ピギャアアアアアアアアアアアッッッ……!!!!」
まっ白な煙が片方の目から立ち上り、アンストロンはそのまま水面を叩き割るかのように頭を落としてきた。その勢いそのまま、ロバートはレビテート・ボードで反対側へと瞬時に飛び回り、もう片方の目にも容赦なく刃を突き立てる。
両目を潰されたアンストロンは、両方からまっ白な煙を吐き出しつつ、胴を痙攣させ始めた。ビシビシッバチバチッと、真っ白な火花がほとばしる。それを見たディーンは即座に合図した。
「今だ。〝レオン〟狙え!!」
「おっしゃあ!! さっきの落とし前をきっちりとつけてやるぜ!!」
タカトは再び呼び出した赤いレビテート・ボードに両足を乗せて標的の前方へと移動した後、こめかみに指をあてた。
そして、再び静かに目を開けたタカトの瞳は翡翠色から金色に変化した。痙攣を起こしている巨体による体当たり攻撃を空中で瞬時にかわす。
(今度こそ……!! )
彼の視野に映る鮫モドキの鼻柱のあたりに、再び光って視えてくるものがあった。
(出て来い……!! この野郎……!! )
強く念じると、握りこぶしより一回り小さな円柱状の塊が鮮明な画像となって浮かび上がってくる。
(改めて思うが、このデカさに対してあの〝コア〟って随分と小さいものだな……元は人間サイズだったアンストロンが異形巨大化したものとは言え、どんだけ高性能なんだ……)
まともに考えると、計り知れない恐ろしさで身体が動かなくなりそうだ。タカトは頭で考えていたことをさっさと端へと追いやり、再び標的を見据えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます