Episode 25 カルディファ地区

 カルディファ地区には、ルラキス星中の人々が集まる美しいビーチリゾートがある。どこまでも続く美しい白い砂浜と青い海が、サーファー達のハートを鷲掴みにして離さないのだ。豊富なビーチアクティビティのほか、周辺にはテーマパークもある。その他高層ビルやショッピング街が建ち並んでいて、年間を通して観光客が訪れる人気の場所だ。


 そんな地区に、二人の若い青年が降り立った。

 一人は茶髪の針頭を持ち、白いTシャツに赤い半袖タイプの上着を羽織っており、ネイビーのデニムスラックスと白いスニーカーを履いている。

 もう一人は艷やかな黒髪で、青灰色の半袖シャツに真っ黒なスラックスと黒い靴と言う出で立ちだ。

 二人ともそれぞれスーツケースを持参しているが、話している内容から察するに、観光目的による滞在ではなさそうである。


 先程二人を下ろしたリビテート・バスはドアを閉めると、軽快な音を立てて滑るように次の停留所へと向かって飛んで行った。


「……てぇと、今回の指令は『カルディファ地区に時折現れる凶悪化アンストロンを調査し、正体を見付け次第鎮圧せよ』だったっけ。いつもと違った感じがするのは気のせいか?」

「ああ。そう言えば君は今回のケースは初めてだったか」


 ディーンはちらと一瞬タカトの方に視線を向けた後、相方の為に今回のミッションに関して平板な声で解説し始めた。


「僕達の主な任務は、凶悪化したアンストロンを見つけ次第鎮圧することだ。しかし、それに関係することであれば、現地で調査をすることも任務の一つに入る。つまり今回は後者のケースということだ。たまにある」

「へぇ~。今までは呼びだされて即ドンパチ! のパターンが多かったが、色々あるんだな」


 普段とは異なる任務内容に好奇心をくすぐられたのか、タカトはどこか上機嫌である。

 さざ波の音が聞こえてきた。

 海が近いのだろう。

 湿気の少ない風がそんな彼らの頬を優しくなでるかのように、穏やかに通り過ぎていく。


「まずはうちに連絡を入れた依頼主と接触する。それからどうするかを決めるつもりだ」

「へいへい。主な采配は慣れてるあんたに任せるよ。ビギナーの俺は大人しくついていくぜ」


 二人は上層部から指示された建物へと向かった。


 ◇◆◇◆◇


 上層部から指示された建物までは、降りた停留所から少し距離がある。

 スーツケースをカラカラと引きながら歩いている中、今回は任務期間がどれ位になるだろうと純粋に思ったタカトは、少し前を歩く相方の背中に向かって、それとなく聞いてみた。


「今回は用事を済ませて即帰れる! ……てぇわけではなさそうだな」

「任務に調査が絡むケースだと、日帰りはまず不可能だ。ほぼ泊まり掛けになる」

「……だからか。何故『二・三泊しても大丈夫なよう、着替えも準備するように』と通知が入ったかと思ったら」

「念の為、〝リュラ〟達にも近くで待機してもらうようにしている。何かあったらすぐに連絡を入れられるようにな」

「あ~ぁ。どーせならナタリー達も一緒だと良かったのになぁ」

「? 何故だ?」

「だってよぉ、仕事とは言え、ここはリゾート地なんだぜ? あわよくばそのナイスバディーを拝めるチャンスが……」

「……」


 タカトの不埒な発言に対し、ディーンは即座に口をつぐんだ。

 彼の周囲をまとう気温が一気に氷点下へと急落する。

 相方の機嫌が急降下したのを肌で感じたタカトは、慌てて訂正に回った。全身鳥肌が立っている。


「……じょ、冗談だって!! てめぇ真に受けるんじゃねぇよ!! ったく、クソ真面目なだけじゃなく、おっかねぇヤツだなぁオイ!!」


 こういうパターンは最早日常茶飯事的に起きているのだが、学習能力がないと言うか、懲りてない。彼はこうやって時々ディーンの地雷をわざと踏むようなマネをする。


 (自由に想像する位良いじゃねぇかよぉ……別に実行している訳じゃあねぇんだし! )


 シアーシャも言っていたが、確かに最近のディーンは変わった。感情も表情も表に一切出さないのはぱっと見変わらないのだが、変化があちらこちらに出て来ている。


 彼の漂うオーラというべきか、彼の感情が雰囲気に若干出てくるようになってきているのだ。本人は気が付いていないようであるが、これは彼をずっと見て来ている者からすると、大きな変化と言えよう。ひょっとすると、周囲に対して少しずつ心を開いているのかもしれない。


 (こいつは面白ぇ……色々反応を見てみるか? )


 と、タカトはイタズラを思いついた子供のようにテンションが爆上がりしていた。しかしだからといって、蛇に咬まれると危険なことを知りながらも、蛇にちょっかいを出しているような、下らない方法ばかりしているのはどうかと思われる。


「とにかく、行くぞ」

「へいへい」


 気を取り直し、颯爽と前を歩いてゆくディーンの後ろを、タカトはやや小走り気味になって追い掛けた。二台のスーツケースのキャスターによる音が、透き通るような青空に向かって軽快に響き渡った。

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