第19話 癖を知る



 癖を見つめよう……。

 前回、そう言いました。


 じゃあ、僕の癖って?

 いや、好きで書いてる小説は好きなものがギュウギュウだって自覚はあるよ?

 今まであんまりそれを個別で考えてみたことなかったな。要素としてっていうか。


 なくて七癖っていうじゃないですか。まあ、あれはほんとの意味でのクセのほうだけど。たぶん、ヘキのほうも最低七つくらいは誰しもあるのかなと。


 これはもしかしたら、よく知っといたほうが自分的にお得なのかもしれない。

 たとえば、自分が好きなものと世間の人気とのズレを検証したりもできるし。


 みなさんも自分の性癖をじっくり煮詰めてほしいんですが、人に勧める前に自分でやってみよう〜


 1、金髪フェチ!

 これは外せない。とにかく金髪が大好きだ。出てくる美男美女は、ほぼ全員金髪。とくに巻毛。巻毛は至高。金髪碧眼至上主義。プラチナブロンドふくむ。次点で銀髪。一作に一人は出てこないと悲しい。いないと書く気力が三割そがれる。そうとうにモチベにつながってる。


 2、グロ好き

 好きだね。グロ。描写するのも読むのも好き。でも、カクヨムはR15なので、それを超えるほどの描写はしてない。たぶん、自分的にはこのていどがほどよい。ほかの人の作品であまりにも生々しいグロがずーっと続くと、しんどい。でも読むけど。そして「スゴイなぁ。こんなの思いつくなんて」と感心する。

 たぶん、僕の場合のグロテスク好きは、その前提として、美しいものが壊されるところに焦点が当たってる。美醜の対比。失われたものへの痛みと悲しみ。あしべゆうほさんの『悪魔の花嫁』ですね。子どものころ、さんざんアレ読んだから?


 3、美青年が葛藤する(美青年を痛めつける。ほれ、泣け、わめけ。苦しむがいい……ヒヒヒ。だいぶアブナイw)

 ゆえにさんざんなめにあう美青年が多い。うちのキャラ。この場合の苦痛は精神的でも肉体的でもよし。葛藤の一部として、孤独、悲劇的な死も好物。

 女の子も悲惨な状況になる場合があるけど、かわいそうなので、つい手かげんしてしまう。

 なぜ男限定かと言えば、葛藤のすえに、それを自力で打破する強さを持つキャラが好きだから。葛藤はそこへ行きつく過程。女の子は弱いのもまた可愛い。


 4、耽美

 とにかく美しいものが好き。人間もだけど、美術品とか宝石とか花とかゴージャスな建物とか、カラフルな色とか、物悲しいお話とか。幼少期からこのへんの感受性がやたらと鋭敏だった。たぶん、HSPだから。なので、物語の舞台や背景に華麗なヨーロッパを好む。

 中学のころから小説書いてるけど、最初は「トイレ行ってくる」って書けなかった。汚いものを自分の話にまぜこむのがイヤでしかたなかった。今は平気。物語をつむぐには汚いものも必要なんだと理解したから。小説は詩ではない。


 5、退廃

 上記からの流れだろうけど。本人が道徳的なせいか、作品では不道徳なのが好き。自分は一生やらないことをキャラにさせてる感。


 6、プロットがパズルゲーム

 急に頭脳労働に。話を書くとき、伏線をたくさん使って、ジグソーパズルを作ってく感じが好き。じつはこれかなり重要要素だと思う。プロットが単純すぎると、つまらなくて書けない。複雑なものを編みこんでく感覚が好き。結果的に重構造、起承転結ハッキリしたエンタメ作品に。


 7、BL好き

 ただし、あれなんです。今、流行ってるBLじゃないんですよね。ごく初期の必ず登場人物全員が死ぬような悲恋物としてのBLが好きです。エロも今ほどじゃなくて、アクセントとしてあるていどでいい。というか、むしろ、今のBLはつまんない。ストーリーが単純すぎて楽しめない。


 そもそも、なんで僕がBL好きなのかというと、それが禁じられているから。今でこそLGBTに理解をって言われてるけど、ちょっと前まで、やっぱりそれは世間的に隠すべきもので、ふつうではないと思われていた。そこに惹かれた。


 世間的に祝福されない禁忌であるからこそ、それを超えた二人の愛が純粋。その深くて強い何者にも妨げられない純愛が書きたかったんですよね。生まれ変わっても、必ずおまえを愛すと誓う、みたいな。


 ちなみに禁忌としてのBLが好きだってことは、禁忌じたいも好き。人間と悪魔とか、兄妹とか、家が敵同士とか。人に言えない秘密とか。ハードルは葛藤にもつながるし。


 ところでBL界隈って一時期、ふつうの学生同士とか、サラリーマンとかの話がほとんどだったと思うんですが、最近ってBLもファンタジーがまた主流に変わりつつあるんじゃないですか?

 それってたぶん、以前は同性愛ってだけでハードルがあったけど、昨今それが禁忌じゃなくなってきたからじゃないですかねぇ? 身分差とか、奴隷と王子とか敵対関係とか、そういうものでハードルを作らないといけなくなったからじゃないかなぁと。


 8、狂気

 狂おしいものに惹かれますよねぇ。なぜなら、狂気の裏には葛藤があるから。葛藤をかかえた人が、それを受けとめきれなくなって壊れた姿。それが狂気。僕は葛藤の状態が好きなんですが、その結果としての狂気も好き。それに気づく前は狂気が好きなんだと思ってた。読むのも狂気的な話が好きだし。でも、それだけでもないぞと気づいて、よくよく考えてみたら、どうも、おおもとは葛藤が好きらしい。


 ああ……いろいろ書いてきたけど、ヤバイのばっかだなぁ。

 これは僕の好きなまんまを書いた作品じゃコンテスト残らないわけだなぁ。


 これで一般ウケに持っていけるのは、1の金髪フェチと、4耽美、6プロットがパズルだけですね。ホラーなどジャンルによっては2のグロもイケる。3美青年の葛藤もていどによっては入れこんでも大丈夫。


 ただ最近、BLは封じてる。なぜなら、僕の場合はそれが武器にならない。流行りのBL書けるんならいいけど、そうじゃないので、むしろ、ふつうのミステリーとかではマイナス要素にしかならない。でもなぜか、ブロマンスはそこそこ一般にウケる。代替案としてブロマンスは使う。


 こんな感じで自分のヘキを理解しておけば、じゃあ、コンテスト用作品を書くとき、どのていどそれを使えるのか計算できる。


 僕が前々から、コンテスト用と自分の楽しみのためだけに書いてる作品をわけてるって言ってるのは、それですね。


 たとえば、グールゲームで使ってる上記の要素はプロットパズルとグロだけ……いや、違った。アリスちゃんが金髪だ。やっぱ外せないんだ。金髪フェチ……。

 まあ、世間で受け入れられやすいヘキだけを使ってます。


 去年、カクヨムコンのために、カクヨムでの読者層ウケを狙って書いた『ヒロインが増殖する世界で』は、金髪フェチ、グロ、プロットパズルだけですね。そのほかにヘキってほどじゃないけど、ゲーム要素(レベルとか、バトルとかスキルとか)もけっこう書いてて楽しいんで、これを使って書いた。


 こういうコンテスト用のやつは、なので性癖としては20〜40%しか出してないと言えるんじゃないですかねぇ? プロットパズルはどの話でも必須なんで、これだけはつねに全開。これ、作品じたいを面白くする要素でもあるんで、僕の最大の武器と言える。


 逆に楽しみだけで書いてる話はと言えば、この前完結したジゴロ探偵『ワレスと十二人の恋人』を見てみましょう。

 金髪フェチ(主役がもろコレ)、耽美、退廃、連作短編なんでプロットはゆるめではあるけど、いちおう二層構造にはしてるんで、パズルもですね。ジゴロ探偵はミステリーなので、グロはなし。狂気もないけど、主役が過去を悔いて苦悩するから、3の美青年の葛藤もあり。葛藤があるから狂気はなくてもかまわない。BLも要素あり。

 ないの、グロと狂気だけかぁ。しかも、ジゴロ探偵も長編の場合は犯人側の動機として狂気が出る場合はある。

 つまり、80%くらい趣味の話。ワレスさんへの愛が強いので、たりない20%はそこでおぎなえる。


 文字数ちょうどいいから、カクヨムコンにも出してる『コルヌレクス・サーガ』は、じつは楽しみで書いたやつ。コンテストに勝つために書いたわけじゃない。

 で、金髪美形は出てる。耽美、退廃的。ブロマンス。グロもあるね。ややゆるめだけど、プロットパズル。あ、狂気は出たな。あんまり長々、心理描写はしなかったけど、葛藤する美青年も出てくる。

 あれ? 全部盛りじゃん。グロが入ってるぶん、ジゴロ探偵より趣味に忠実だ。趣味全開。


 これですよね。

 コンテスト用20〜40%、楽しみ用80〜100%。

 この違いが重要。


 自分の趣味をみなさんもぜひ箇条書きであげてみてください。で、そのヘキが世間で共感を得られるかどうか吟味する。得られそうになければ抑える。


 なかには奇跡的に、全要素出しきっても一般ウケする人もいると思いますよ。恋愛物が得意で、職場恋愛、アラサー女子とワンコ系後輩男子のカプが好きだ、とかね。なんなら、年上スパダリ上司とワンコ後輩でとりあいになるとさらによし、とか。靴フェチなんで、職場はオシャレ靴屋がいいとか。外食も好きだから、スパダリに奢ってもらおう、とか。


 残念ながら、僕は世間的に受け入れてもらえないヘキがあるんで、そこを抑えないといけないんだけど、趣味全開で問題ない人は、全力で王道書けるよねぇ。いいなぁ。


 今の流行のテンプレラノベ書いてる書き手さんは、ゲーム要素、可愛いヒロイン、ちょいエロ(Rレイティングは守ろう。作品消されたらコンテスト残れない)など、そのへんはたぶん、おおむねヘキとしてテンプレとかぶるんじゃないかと思う。

 ただ、かぶらない部分も確実にある。その部分が作品の個性になるんで、そこをどう料理して出すかが、選考者の目に止まるかどうかに大きくかかわってくる。ほんとにドン引きされる要素は出しかたに気をつかうし、ちょっと変わってるくらいなら、そこを個性として戦力にする。


 自分がどんなものが好きで、その趣味が前面に出せるのか、出せないなら、どう使いわけるか。そこらへんを自己制御できる人になろう。コンテストに強くなるには必要な能力かなと。


 あと、たぶんだけど、僕なんかも自分で気づいてないヘキがまだあるんでしょうね。折にふれ、自分を見つめるのは大事なんだろう。


 ん? 自分の性癖をここまでさらして恥ずかしくないのか?

 ないですよ? 恥ずかしかったら、小説なんて書いてない。

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