第16話 分析力を磨く(人気作品を分析)



 コンテストの傾向とか、求められている作品などを分析する。

 コンテスト受賞には分析力が必要。でも、じゃあ、その分析力はどうやって磨くのか?


 とりあえず、コンテストの傾向を分析するのは置いときましょう。それも大事ですが、求められている作品を狙って書くには、まずは作品の仕上がりや構成をコントロールできないといけないので。


 面白い作品を書くには?

 しかも、人気が出るように書くには?


 はい。流行りの人気作品を分析しましょう。

 自分でそれが書けるかどうかは別にしても、面白さの構造を会得すれば、いつか必ず自作の役に立つ、はず。


 なんて言って、ほんとはですね。最近、近況ノートや創作論エッセイなどで、『葬送のフリーレン』すごくいいって話題をよく見るんですよ。時流に乗って僕も分析してみよう〜


 じつはこれ、一話めを見たとき「うまい構造にしたなぁ」と思ってたんですよ。


 ところで、九月ごろに28年前に書いた自作の恋愛ファンタジーを清書してて、そのころの話は一層構造で書いてるってことに気づいたんですよね。伏線もあるし、起承転結もあるし、順当な作りなのに、妙に展開が遅い。最近の自作にくらべて、ちょっと退屈、と思ってたんですよ。

 で、ストーリーが一本しかない。サイドストーリーもない。完全に一層構造で20万字を書いてるので退屈、と。


 この一層構造の意味、わかりますかねぇ?

 前にも構成力の訓練のために、過去と現在に起こった事件を交互に書いて、ラストで重なる書きかたをしたと話しました。二つの事件が同時進行する二層構造ですね。


 長いシリーズ作品だと、冒頭からシリーズのラストまでを通して進むメインストーリーと、一冊ぶんで完結する事件、連作短編ならさらに一話の話という三層構造。

 メインストーリーが過去の事件、現在の事件などからんでれば、四層、五層なども意図的に作れますね。


 さて、フリーレンです。

 これ、初回を見たとき、すぐに「あ、二層構造だ」と気づいたんですよ。うまいのは、二層の重さを感じさせない、すっと世界観に溶けこむ二層構造ってとこですね。


 このお話、かつて魔王を倒した勇者パーティーにいたエルフの女の子が主役です。フリーレンですね。

 ストーリーは魔王を退治しおわったあとから始まるわけです。かつてのパーティーの仲間たちが(人間なので、エルフにくらべて極端に短命。フリーレンは見ため十五、六の実年齢千歳)老齢で亡くなりそう。なので、死ぬ前に彼らともう一度会う旅に出る……だったかな? このころ九時には寝落ちしてたので、半分寝てました。すいません。あ、これは当時の体力というか生活習慣のせいで抵抗できない眠気だったんです。作品の良し悪しとは無縁です。


 で、フリーレンの目を通して、仲間たちの現在のようすと同時に、魔王を倒す旅をしていたころの過去のエピソードがしばしば出てくる。過去と現在が同時進行するんです。


 これ、設定の勝利ですね。

 最初、魔王を倒したあとの世界で、かつての仲間を……うんぬんを番組説明で見たとき、それでストーリーが成立するのかと危ぶんだんですよ。魔王倒したってことは平和な世の中なわけでしょ? いわゆるほのぼの日常スローライフ系なんだろうか? って考えたんです。ま、これは違ってたんですが。


 その後もこの作品では、過去と現在が回想という形で交錯する。しかも、過去に仲間と話した会話が、現在の仲間との絆になったり、決めゼリフになったり。ただの昔話ではなく、ちゃんと現在進行形でからむ話として入ってくる。


 フリーレンの目を通して、このメンバーは過去、こっちのメンバーは現在って一発でわかるので、視聴者も混乱なく、二層を切りかえて見れる。というか、たぶん、ほとんどの人は一層のつもりで二層を味わってる。なので、静かな展開のように見えて退屈しない。


 うまいなぁ。こういう二層の作りかたもあるのかと、正直、うなりました。


 はい。で、さっきあとまわしにした、魔王倒したあとで事件の作りようがあるのか?

 これはかんたんでしたね。魔王を倒したからって、何も魔物のいない世界にする必要はないんですよね。なんとなく僕は魔王いない=魔物一匹存在しない、だと思ってたんですが、この世界は魔物はふつうにいて、魔王戦を生き残った魔王軍の幹部みたいな強い悪魔も複数存在している。なので、争いはそいつらとさせればいい。


 むしろ二層構造にしてるので、こういう魔物の倒しかたが、過去と今を比較しながらできる。過去にはできなかったけど、今はできる、とか。過去の仲間の思いを今につなぐ、とか。


 じゃあ、フリーレンの成功ってそれだけ?

 いや、もちろん。主役の女の子が可愛いとか、いわゆる合法ロリってやつに近いですかね。ロリというにはハイティーンかもですが。

 キャラの描きかた、作りかたとか。感情表現もうまいですよね。うるさくモノローグでなく、小物を使って表現される。


 つまり、演出法がうまいんですよ。

 もう一つ、コレうまいなと思った回の演出法。

 この前回がアクション回でした。今の仲間である弟子と戦士がそれぞれバトル。派手に体を動かすタイプの戦闘で、からくも勝利。

 さて、その次の放送で、この回は視点がフリーレンに戻ってきて、一話を通しての頭脳戦、ラストに大どんでん返しというオチ。

 頭脳戦なので、動きはないわけですよ。一話を通して、フリーレンと敵方の大将が対峙して、ずっと会話をするだけ。ある一つの魔法を敵方が使う。その魔法の結果がどう出るか、っていう話です。


 これ、アニメで普通にやったら、一瞬で終わるんですよね。


 でもそれじゃ、頭脳戦感がない。おたがいの手札を出しあいながら、「さあ、勝負!」と最後に出しあうポーカーに似てる。

 会話だけで「わたしはこの手札だから、あいつには絶対勝てる」

「と思わせといて、じつはわたしの手札ってコレだから、あいつ負けるんだけどね」と語らせても、つまんないじゃないですか。とくに小説でこれやると、めっちゃ説明くさくなる。説明描写って嫌われるやつですよね。


 で、フリーレンではここで、彼女の師匠を出してきた。一見、今の頭脳戦とは無関係に見えて、フリーレンと師匠の出会いから修行、その別れなどが描かれる。

 でも、じつはこれが、頭脳戦の手札の説明なんですよ。手札だよとは語らずに、最後の最後に「あっ! そういうことか!」と悟らせる。たいへんうまい演出でした。視聴者(読者)が退屈しない方法で説明がされている。それをすることで、フリーレンがどういう生い立ちなのかの一端も見えますしね。一石二鳥。


 フリーレンはわりとこういう演出多いんですよね。何かと過去をからめてくる。さっきの二層構造でも言ったけど、それを演出に使ってるとこが設定の勝利です。


 二層構造、演出のうまさ。とくに対比がうまい。過去と現在、兄と弟などのように。

 この二本柱にキャラクターの魅力がからんでくるのが作品の面白さの基本かな。


 キャラクター造形で言えば、戦士をビビり、弱虫にしたのもよかったですよね。いわゆる勘違い系無双というか。自分を平凡、弱いと思っているほんとは強い人。イキりすぎてないのが今っぽい。


 仲間が今のところ三人っていうのも静かなふんいきをかもしだしてる要素なんでしょうね。


 ところで、これを書く前にネットでちょっと評判とか調べたんですが、なかには「フリーレンつまらない。原作漫画は面白かった」って意見もあったんですよ。

 たぶんだけど、この人はアニメの独特の静かなふんいきが好みじゃないんじゃ? 声優さんたちのメイン三人の会話も、いつもボソボソ、ボソボソボソって感じだし、BGMがなく無音になってる場面もわりと多い。派手さに欠けると感じてしまう人もいるのかも?


 でも、近況ノートに「声優さんたちの静かなしゃべりも作品にあってる」って書かれてる人も以前いたし、やっぱりそこは個人の好き好きでしょうね。僕は充分、面白いと思うけど。


 タイトルとか、エンディング曲のアニメーションの美しさを褒めたたえてる人がいたんですが、そこは面白さには関係ないだろうと。

「わあ、キレイなエンディング」

「このタイトル気になる」

 っていうのは、たしかに「見たい」と思わせる要因の一つではあるけど、ストーリーがそこに左右されるわけじゃないですからね。もちろん人気の一因ではあると思いますが。


 分析力をあげたいなら、作品の構造の秘密を暴く、くらいの気持ちでやらないといけませんね。


 たとえば、今、僕がいくつかあげましたが、いや、フリーレンの面白さの秘密にはこういうのもあるよって考える人はいると思います。それこそが分析力です。とくにふつうの人が気づきにくいとこに目がつく人は、独自の観察力を持ってるのかも。その力、大事に伸ばすといいですよ。


 人気作を研究して、ぜひ、分析力を養ってみよう!

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