一筋の光にすがって生きている

雪月

第1話 出会い

 今まで我慢していたが、もう限界だ。そう思い、私は学校の屋上に来た。ブレザーとベストは綺麗に畳んで置いておく。着たままでも良いが、どうせなら真っ白のカッターシャツだけを血の色で染め上げたい。覚悟を決め、フェンスに足を掛けた。スカートが引っ掛かって登りにくい。

 「思ったよりも高いな......」

 皮肉のように美しい夕日を眺めて呟いた。顔に当たるそよ風が心地良い。想像以上に私の心は落ち着いていた。

 ここは7階だ。しかも、下はアスファルト。ほぼ確実に死ねるだろう。やっと楽になれる。

 「3、2、1......」

 飛ぼうした次の瞬間、屋上の扉が勢い良く開いた。

 驚き過ぎて飛ぼうとしていた体も動かない。

 「あれ?先客がいる」

 どうしよう、見られた。人が来るとは思ってなかった。予想外の出来事に私はパニックだ。

 「まぁいいや、とりあえずこっちにおいで。ちょっと話そうよ。」

 パニックになっていた私は、その人の言いなりになってしまった。この判断が正しかったのかは分からない。だが、少しだけその人に縋ってみたくなったのだ。



 「私、3年の五十嵐 類。君は?」

 「に、2年の山本 悠希です」

 3年生、ということは先輩か。五十嵐先輩は、綺麗な黒髪のショートカット、しかもイケメンだ。いわゆる王子様系。陰キャの私とは一生縁のないような人物だ。

 「で、悠希ちゃんは何してたの?」

 その質問に私は俯く。何と答えれば良いか分からない。

 「もしかして、死のうとしてた?」

 私は、図星を指されて激しく動揺した。きっと、顔は耳まで真っ赤だろう。

 「だ、誰にも言わないでください」

 やっと絞り出した言葉がこれだ。しかも、声が上手く出せない。そんな自分が惨めに思えてきた。

 「大丈夫、誰にも言わないよ」

 私は、ほっとした。だが、これ以上自分のことを話したくはない。そこで、私は五十嵐先輩に質問を投げかけた。

 「五十嵐先輩は何故ここに?」

 私が言えた義理ではないが、ここは立入禁止のはずだ。しかも、鳥の糞や虫の死骸がそこら中にあり、とても汚い。こんな所に好んで来るのは物好きくらいだろう。

 そう考えていたら、先輩が口を開いた。

 「実は、私も死のうと思って」

 驚いた。こんなにも容姿が整っていて、私と真逆の勝ち組のような人が死にたいなんて。何と答えれば良いか分からなくてオロオロしていると、先輩からこんな提案をされた。

 「ねぇ、1ヶ月後一緒に死なない?」

 言葉の意味が理解出来ない。五十嵐先輩と1ヶ月後一緒に死ぬ?

 「ここで会えたのも何かの縁だしさ。それで、死ぬまでの1ヶ月間毎日一緒に遊ぼう」

 私からの返事を聞くこともなく、五十嵐先輩は話し続ける。

 「友達と買い食いとかするの夢だったんだよね〜」

 断らないとヤバい。流される。私は急いで口を開いた。

 「あ、あの」

 「ね、お願い」

 言葉を全て発する前に、五十嵐先輩に遮られた。そんな子犬のような笑顔でお願いされたら断れない。私は、そのお願いを了承してしまった。

 「やった~!!じゃあ、明日校門集合ね」

 そう言って五十嵐先輩は屋上から出ていく。

 五十嵐先輩のせいで死ぬ気がなくなってしまった私は、フェンスにもたれ掛かり夕日を見上げてボーっとしていた。

 「くしゅんっ」

 そういえば、ブレザーとベストを脱いだままだった。道理で寒い訳だ。

 ブレザーもベストも着て、そろそろ帰ろう。そう思った瞬間、また屋上の扉が勢いよく開いた。五十嵐先輩だ。呼吸が荒い。走って来たのだろう。忘れ物かな、と思っていると五十嵐先輩は

 「悠希ちゃん、スマホ持ってる?」

と聞いてきた。

 「持ってますけど......」

 私は答える。

 「じゃあ、LINE交換しよ!!」

 しまった。持ってないと言えば良かった。そう思ったがもう遅い。私は、五十嵐先輩とLINEを交換してしまった。五十嵐先輩は、私とLINEを交換すると、

 「後で連絡する!!またね!!」

と言って、走って帰っていった。

 嵐のような人だな、と思いながら、屋上に用がなくなった私は家に帰ることにした。

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一筋の光にすがって生きている 雪月 @snow_moon_

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