病院に泊まりたい
玲歌は入院した。当たり前だ。病状が良くならず摂食障害まであっては痩せ細るのみ。点滴で栄養補助しつつ、病の原因を探す必要があった。
入院してからも俺は毎日雨の日も風の日も毎日毎日見舞いに行った。看護師さんからは「また彼氏きたわよー」といじられるからあんまり来ないで!と玲歌に言われるが満更でも無さそうなので無視して毎日来る。
入院当初は寂しかったが、よくよく考えると入院前から病気の玲歌を気遣ってあまり家に長居していなかったし、会う時間は変わっていないと気づいた。
そこからはどれだけ玲歌との時間を確保するかを考えるようになった。少ない小遣いで性能の良い自転車を買い、学校が終わり次第即病院へ向かうという流れだ。
そのため帰宅が遅くなり両親に苦言を呈されることもあった。受験はどうするんだ!と言われても玲歌と学校に行けないなら行く気ないから困る……
病院との往復に慣れた頃俺は油断していた。
それは雨の日。いつもより学校が長引いたせいで面会時間が短くなると焦っていた。
「あー、あの委員長言い始めたら何言っても聞かねえからな。なんだよ先生に感謝を伝えるために何をするか意見を今から集めますって……先に言っとけよ!唐突に言われてアイデアが出るやついるわけないだろ!次の日にしようと言っても聞かないバカ相手に苦労した。適当に、プレゼントでも渡せばいいだろと言い放って教室からでたのはスッキリしたなぁ。」
そんな独り言を言いながら雨の日にいつも以上にスピードを出していれば事故に遭うに決まっている。
ドン!という衝撃と共に視界が真っ白になった。じわじわと痛みが広がり、背中を打った影響か呼吸が上手くできない……頭を切ったのか視界が赤くなってきてよく前が見えない……俺はそこで意識を失った。
目を覚ますと、真っ白な天井があった。体には心電図や点滴、酸素マスクなどさまざまなありとあらゆるものがついていた。俺生きてる……そう感じた。
周りを見渡そうとすると背中に鋭い痛みが走った。背中打ったんだもんなぁ。身体中痛いや……
現状を知りたいのに人がいないため困った。看護師も何故来ない?事故って搬送されたらすぐに目が届く場所にいるだろ普通。仕方なくナースコールをした。
「刃さんどうされました?て、刃さん目を覚まされたのですか!?」
なんだこの驚きようは。ドタバタと病院に似つかわしくない音を立てて走ってくる看護師。なんだこの病院は……患者を放っておくし、うるさく走るし……
「刃さん!目を覚ましてよかったです。あなた全身を強打したせいで1週間も目を覚まさなかったのですよ!」
俺、1週間も寝てたの?玲歌寂しがってるだろうな……自分が怪我しても玲歌のことを考えるバカはここにいる。
「1週間も寝ていれば付きっきりで状況を監視するわけにもいかないので起きた時に一人で寂しかったと思います。すみません。とにかくあなたは目を覚ますだけでも奇跡なくらいの大怪我をしたのです。」
大怪我って……これじゃ玲歌に会うのにどのくらい入院すれば良いのだか。
「俺いつ退院できます?」
「まずはリハビリですよ!というか目を覚ましてすぐに退院の話をする人なかなかいないですよ……」
何故か呆れている。この看護師チェンジで。え?デリヘルじゃないから無理と……この人ナースコスではないのか?騒ぐだけ騒いで看護師らしいことしていないぞ。
俺は玲歌に会えない現状にイライラして脳内で当たり散らかしていた。
俺はリハビリを始めた。何故か早く怪我が治ったので1週間後にはリハビリが開始できた。ナースチェンジしなくてよかった……
点滴の交換のタイミングバッチリ、患者が孤独感を感じないくらいにフランク、身動きが取れなかった数日は恥ずかしいアレを恥ずかしく感じさせない謎のスキル……
うるさいだけの神だったわ。
リハビリも玲歌に会いたい一心で痛いの辛いので心が普通折れるメニューをこなしていった。
ある程度好きなように動けるようになれば玲歌に会いに行ってもいいそうだ。まさか運ばれた病院が玲歌が入院している病院だとは……
そういえばうるさい看護師見たことあったな……玲歌との関係いじってくる看護師だったわ。玲歌と話すことばかり気を取られていたから、あまり顔を覚えていなかったわ。
1週間でリハビリもある程度の段階へ進み玲歌に会いに行くのもリハビリになるということで公認された。
「玲歌〜3週間ぶりに来たぞー」
俺は玲歌に心配をかけた気まずさと久々に会う恥ずかしさを隠していつものようにと意識して話しかけた。
「刃ばぁぁぁぁぁぁ。よかったよぉ。事故にあったって聞いて心配したんだから、悲しかったんだから。私が入院なんかしたせいで事故にあったと思うとすごく嫌だった。」
涙と鼻水ですごい顔になっている。それはそれでかわいいけど(玲歌バカ)
「ごめんな。雨なのに焦って自転車とばして来たら車にはねられた。玲歌に会いたくてリハビリ頑張ったんだぞー。玲歌心配させて悪かった。毎日会えなくて悪かった。俺は玲歌を一人にしないから安心してくれ……」
俺は玲歌に何を話せばいいかわからなかった。とにかく謝った。
「刃……お互いちゃんと治ったらデートする。それ約束ね。今回私を心配した罰でデートしてもらうんだから。もちろん罰だから全部刃の奢りだよ〜」
あー玲歌かぁいいかわいいよぉ罰じゃなくても奢るよぉ。
デートしたくてリハビリ頑張ったら事故から一か月で退院となった。医者が愛の力ってとんでもないんだな……と呟いていたが、俺が重すぎて力が発動したのだろうから一般的には使えないと思うけど……
退院となって気づいた……俺玲歌に会える時間短くなってないか……?俺軽い怪我してくるー。
「おい小僧退院早々に危ない動きするなバカ。この顔お前彼女好きすぎて怪我の治りが早いとか言われてた変なやつじゃねえか。俺、愛の力とか信じないタチでな。お前どうやったか教えろ……」
これが兄さんとの出会いだった。
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