昔の玲歌とつわり

 俺と玲歌は物心つく頃からの幼馴染だった。

 家が空き地を挟んで隣同士だったこともあり、いつも玲歌と遊び、大きくなったら結婚しようね!という約束をしていた。大きくなるにつれ疎遠になるという人もいるが俺たちはいつもべったりだった。

 両家とも結婚するものだと思いつつ、デキ婚とか学生結婚は流石に勘弁して欲しいから家でイチャイチャしていたら邪魔するかゴムを渡しておくほど気を配らなければいけないくらいイチャイチャしていた。

 二人としてはキスもしていないくらいのピュアな交際だったが周りとしてはいつ一線を越えるか心配だった。


 中学生にもなると忙しくてなかなか遊べない日もあったがその分俺たちは会える時に手を繋いで話をしたり、デートに行ったり、一緒にゲームしたりした。

 恋人であり親友のように遊び笑い月日は流れていった。


 俺達が中学2年の時、玲歌が体調を崩した。授業中のことであったため、保健室へ公認カップルな彼氏である俺が連れて行った。

 玲歌がなるまでそばにいる、多分遅いと怒られるかもだけどwと軽口を叩くと

「そんなことしたら気まずくなるからやめて!」

 と怒られる。

「じゃあ早く寝て元気になることだなー」

 そんなめんどくさい絡みをしているうちに寝たようだ。玲歌の寝顔はいつ見ても綺麗だ。朝露に濡れた花のように艶やかな髪、新雪のような白さとわたあめのような無害さの塊のような愛おしい顔。

 そんな全てが好きでいくらでも見ていられそうだが、流石にこれ以上はダメだと我慢して教室に戻った。

 案の定遅いと苦言を呈され、友人達には襲ってないよな?と揶揄われた。俺としては玲歌といられれば少しくらい怒られても気にならないし、揶揄われても玲歌との関係が深いからこそそんな話になるから逆に嬉しいまであった。

 少し調子が良くなった玲歌と帰るため、玲歌の荷物も準備して保健室へ向かう。すると玲歌のお母さんが迎えにきていた。

「あ、刃くん」

「玲歌のお母さん。こんにちは」

「こんにちは。聞いたわよー玲歌のこと保健室に連れてって何かしたとかしてないとか」

「何もしていませんよ!」

「わかってるわよ。あなた達がどれだけ健全な交際をしているかなんて。でもそんな雰囲気になったら気をつけなさいよ」

 彼女の母親に避妊だの健全な交際だの言われる中学生がどこにいるんだか……しかも幼い頃から玲歌といる分お世話になっているから第二の母みたいなものなのに……恥ずかしい。

 玲歌の迎えに来たわけだし、家がほぼ隣だから乗ってきなと車に乗せてもらい帰る。帰る間も玲歌が吐き気を催すたびに袋を用意して背中をさする。吐くわけではなかったが、辛そうな玲歌を見ているとどうにもできない無力さも相まって心が締め付けられるような悲しさがあった。


 次の日、玲歌は学校に来なかった……

 別に学校に来ないのは前もって連絡もらっていたがそれでもいないと寂しい。家に帰ったら見舞いに行くわけだし会えないわけでも無いが、寂しい。いつも一緒にいる場所ほどいないと寂しいものなのか?と考え、痛感していると放課後になった。授業の内容も給食も覚えていない。バカじゃないかと思われるかも知れないが、そんなことに集中しろという方がバカだ。玲歌がいないのが寂しいだけだ。

 全速力で帰宅して見舞いへ行く。

「玲歌〜失礼するぞ〜」

 小さな声でそう言って部屋に入ると辛そうにしつつも笑顔で迎え入れてくれた。

 今日学校で玲歌がいないせいで何も頭に入ってこなかった事を話し、玲歌は病院でどう言われたか話す。本当ならたくさん話したいが病気の身だ。早く退散することにした。10分も話せなかったなぁと、落ち込みつつ部屋を出る

と、玲歌のお母さんに呼ばれた。

「ありがとう来てくれて。あの子も嬉しいと思うの。」

「いえ、彼氏として当然の務めです。今度は玲歌が好きな物買ってきますね!」

 そう言って帰宅した。


 1週間学校に来なかった。最初の数日は玲歌は風邪では無さそうだという話と少し気になることがあると玲歌母に言われていた。1週間後いつものように見舞いをして、帰ろうとすると、玲歌母に呼び止められた。

 玲歌のお母さんは何か焦ったような、そして俺を少し睨むような顔をしていた。

「あのさ、刃くん。玲歌の症状がつわりみたいなのよ。」

 俺は驚いた。そんなこと俺はしていない……していないはずだ。それに玲歌も浮気なんてしない。何かの間違いだろう……

「1週間同じ症状で、嗅覚過敏で吐き気、ほとんど食べ物を受け付けない。眠気頭痛……ほとんど妊娠初期症状なの。本当のことを言ってちょうだい。」

「俺は玲歌とそういうことをしたことはありません。したいと思ったことは多々ありましたが、玲歌を大切にしたいと思っています。高校を卒業するまでは一切そういうことをしないつもりです。いくら避妊をしても100%大丈夫なわけではないですから。俺は玲歌に悲しい思いをさせるような事は前もって対策するくらいの覚悟ですから。」

 俺の話を聞いて感心しつつ疑念が晴れない、そんな表情をしている玲歌母。それはそうだろう。恋人で、いつもベタベタしていて、お互いの家に遊びに行く関係。これでつわりみたいな症状だったら流石に疑うのも仕方ない。

「では産婦人科にでも玲歌を連れて行ってあげてください。俺は一切していないので何かしら違う病気かもしれませんが。俺としては変な病気より妊娠してくれていた方が安心なのですが、そんな覚えないので……」

「わかったわ。刃くん疑って申し訳ないわね。一応連れて行くわね。」

 疑いが完全に晴れたわけでは無さそうだが、一応安心か。いや、玲歌の体が心配で安心なんかできない。


 そんな病気の初期だった。

 


__________________________


読んでくださりありがとうございます。

専門家ではないので間違っている部分があるかもしれませんがその時は是非教えてくださると嬉しいです。

玲歌の症状がつわりと言っていますが、世の中には食べづわりという症状の人もいるみたいですね。食べづわり自体は知っていましたが結構多いのには驚きました。


これからどんどん玲歌が弱っていきます。弱くなって行くヒロインを見ていられないという方は過去編が終わるまでそっ閉じでも大丈夫です。

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