第9話 御厨の作法

 それなりに優秀とされている冒険者たちがトボトボと帰っていく。

 どんなことをしても、見えない壁が壊せなかったのだ。

 

 俺としては他の利用者の迷惑になるから、早く帰って欲しかったのだが、セーラのひとことで思い直して我慢したのだった。


「ああいった人たちは、自分が納得するまではテコでも動きませんから、満足するまでやらせた方がいいです」

「そんなものかい?」

「はい。そして、そんな人たちを寄せ付けない神様のすごさがみんなに知れわたります…………」

「ん?何か言った?」

「い、いえ。なんでもありません」


 セーラが何やらボソッとつぶやいたみたいだったが、男たちの爆裂魔術の音がうるさくてよく聞こえなかった。

 まあ、セーラが問題ないと言うならばそうなのだろう。

 彼女は幼いながらも、この世の中ことを俺よりも知っているのだから。



 こうして、ふたりの心が折れるまで付き合うことになった俺たち。

 最後は、魔力が切れてフラフラになりながら家路につくふたりを見送ったのだった。


        ★★


 話は変わるが、古代ローマの公衆トイレでは『テルソリウム』という古代の道具を使っていたらしいが、ここ異世界であっても同じものを使っていた。

 それは、先端にスポンジを付けた棒で、酢や塩水に浸して使っていた。


 セーラがその棒を水洗いしているのを見ながら、俺は思わずつぶやく。


「う〜ん、やっぱり不衛生だよなぁ。この棒なんてみんなで使い回すわけだし…………」


 前世が世界でもトップクラスの衛生観念を持つ日本人だったせいもあり、不衛生な環境には我慢ならなかった。


「ねえ、セーラ。この世界では、トイレで紙は使わないの?」

「か……み……?」

「そう、白くて柔らかいもので、木の繊維から作られるものなんだけど……」


 そう尋ねるも、どうやらこの世界にはトイレットペーパーどころか、紙の存在すら無かった。

 文字を書く場合、羊の皮を剥いで乾燥させた羊皮紙が用いられているらしい。


「そうかぁ…………」


 こんなに原始的なトイレなんだから、神なんてある訳なかったよな。

 そんなことをぼんやりと考えていた俺は、ふと思いつく。


 あれ?

 もしかしたら、心から願ったら叶うんじゃね?


 それは、ついさっきトイレの中でナニをしようとしたふたり組を追い出したときのことを思い出したのだ。

 あのときは確か、心の底から出ていけって思ってたんだが…………。


 ものは試しだと、俺は早速試してみることにした。


 トイレットペーパー出てこい!

 トイレットペーパー出てこい!

 トイレットペーパー出てこい!


 俺は前世のトイレットペーパーを想像して、目の前に現れることを願う。


 すると、どれくらいの時間が経ったであろうか、いつものあの声が頭に響く。


 ――――『トイレットペーパー』の設置は、利用者ポイントが足りません。


 ん?

 利用者ポイント?


  

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


一万字を超えてしまいました。

もう少しだけお付き合い下さい。



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