第8話 傷心の厠神
「私は何の神様だろうと、こうしてお話ししてくれるやさしい神様が大好きですよ」
そんな嬉しい事を言ってくれるのは、今日も今日とてトイレ掃除にやって来てくれた兎獣人のセーラ。
女子トイレの掃除が終わったので、今度は男子トイレの清掃をすべく利用者がいなくなるのを待っているところだった。
そんな彼女に俺は厠の神…………つまりは、トイレの神様の認定をされていた事を話したのだ。
ホントならもっとカッコいい神様になりたかった、と。
「それに、トイレにいる神様なんて、天上界なんて遠いところにいる神様と違って、すごく身近に感じます。だから、私はすごく嬉しいですよ」
だけど、セーラはそんな俺を、どんな神様でも構わない、身近に感じてすごく嬉しいと言ってくれた。
「そうか…………、じゃあ俺も少しは自信をもってもいいのかな?」
「自身も何も神様なんですから。すごいんですよ」
「だってさぁ、トイレに関することなんてさ、あんまり大したことは出来なそうじゃない?」
「それはこれからのお話ですよ。それに…………」
セーラが視線を向けた先にいるのは、俺が出禁にしたふたり。
どうやらあのふたりは、かなり高位の冒険者らしい。
ふたりはトイレから追い出されたのを、何かの攻撃を受けたものと勘違いして今は中に入ろうと躍起になっている。
プライドが許さないと叫んでいたからそうなのだろう。
だけど、どんなことをしてもトイレには入れずにいた。
竜を両断する魔剣や、上級の魔術を用いるも目の前の透明な壁はびくともしていない。
ホントに魔術ってあるんだと、感心しながら見ていた俺だったが、見えない壁を壊せないなら大したこともないのかなと少し残念にも思ったりした。
「何か勘違いしてるみたいですけど、あの人たちって戦争に参加すれば敵兵の死体の山を築きますし、魔物の討伐ともなれば複数の竜を倒すって有名な人たちなんですからね」
「へーそりゃーすごいわ」
トイレでアレをしようとしたふたりが、そんなにすごい者たちだったなんて驚きだ。
その強さから、冒険者のみならず一般の人々からも尊敬されるふたりらしい。
…………だけどさぁ、トイレでナニしちゃダメだろうよ。
「そんな人たちが、何をしても立ち入れないようにする神様は、それ以上にすごいんです
よ」
俺を見上げるようにして、両手をぐっと握りしめるセーラ。
ああ、この子は俺を力づけるためにわざわざこんな話題を出したのだなと理解する。
俺は良き理解者のいる世界に生まれ変われて幸せだなと感じて、セーラの頭を撫でる。
触れることは出来ないけど、なんとなくそうするのか正解だと思えたのだった。
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