第4話 厠神の加護

 と、ともかく、セーラが神様だと力説するので俺はそう思うことにする。


 前世じゃ八百万の神様がいる国にいたんだ。

 異世界にもトイレの神様がいても不思議じゃない…………はず。

 まあ、何も出来ない神様だけどね。



 少女との会話が楽しくて、ついつい話し込んでしまい、空には双子の月が輝いていた。

 こんな空を見ると、ああ異世界なんだなって実感する。


 でも、こんな遅くまで少女を引き止めるのは大人として失格だ。

 俺は慌ててセーラとの会話を打ち切ることにする。



「ずいぶんと話し込んじゃったね」


 俺がそう切り出すと、少女は明るく答える。


「ううん、平気だよ。神様と話せるなんて夢みたい」

「いや、そこは大人として俺が早く帰すべきだった。ゴメン」

「このくらいならまだ大丈夫だよ」

「でも、女の子のひとり歩きなんて」


 前世よりも明るい月に照らされているとは言え、街灯もない世界だ。

 そこまで官憲が治安を守れているとも限らない。

 となれば、少女のひとり歩きなんて猛獣の檻の中に手ぶらで入るようなものだ。


 俺が何とかならないかと思案していると、少女はベンチからピョンと飛び降りると、手を振りながら話す。


「それじゃ、私帰るね。また明日」

「あっ、ああ。今日はありがとう。また……また、明日来てくれるの?」

「うん。明日はちゃんとお掃除をするからね」


 そう宣言するセーラ。

 俺の話に突き合わせたばかりに、いつもの掃除が出来なかったようだ。


 ゴメンよ。


「じゃあね」 


 そう言って、小さく手を振って立ち去る少女。

 こんなに可愛らしい少女が、暗い街をひとり歩きなんてやっぱり不安だよ。


 どうか、無事に帰れますように。

 俺はいるのかいないのか分からない神様二そう願う。


 あっ、俺も神様なのか?


 とにかく、俺は遠ざかるセーラの背中を見送りながら、何とかならないかと思案する。


 だってさ、セーラに「神様だ」なんて言われちゃったら、俺だってその気になるじゃないか。

 もしかしたら、なんかすごい力があって奇跡みたいなことも起こせるかも。



 …………そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。


「ダメじゃねえかよ…………」


 前世のラノベ知識を総動員していろいろと試してみた。

 魔力の流れを探ってみたり、ステータスオープンと全力で叫んでみたりした。

 だけど、うんともすんとも言わない。

 

 場の沈黙があまりにも重くて、ガックリと膝をつく。   


 やっぱり、単なる幽霊だったんだ……。

 うらめしや〜って言いながら、漂うしか出来ないんだ……。



「畜生ッ!何でダメなんだよ!俺は……俺はただ、幼気なあの子を守ってあげたいだけなのに!」


 俺が地面を何度も何度も叩きながら、そう叫んだとき、不思議なことが起きた。



 ――――個体名セーラに加護を与えました。

 ――――個体名セーラに『厠神の巫女』の称号を付与します。


 突然そんな声が頭の中に響いてきた。




 …………おい、何があったんだ?



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


ようやく神認定です。

ここまで長かった。


認定がなければ、単なるトイレに出没する地縛霊ですからね。




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