第5話 少女の危機

 月明かりに照らされた夜の道を、まだ年端も行かない少女が歩いている。


 少女の名はセーラ。


 彼女は、スラムに住む兎獣人である。


 粗末な身なりではあるが、その心根は正直で自愛に溢れている。


 もっとも、この国のスラムは一般的なそれとは違い、現代日本の災害復興住宅のような意味合いが強い。

 つまり、国が主体となって何らかの理由で生活に困窮する者たちに住処を与えて、再起するまでの援助をする場だという。

 このため、スラムは公的な立場の者たちにきちんと管理されていた。


 それ故に、仮にスラムとは呼ばれていても、素行不良者たちが跋扈するような場所ではなかった。

 かえって、スラムに戻った方が安全だったりする。



 そんな場所に帰るセーラだったが、彼女自身もトイレの神様との話に夢中になって、帰りが遅れてしまったことに反省していた。

 日が暮れるのは分かっていたが、神様から離れることが名残惜しくて、ついつい帰るという判断が出来なかったのだ。


「遅くなっちゃった……」


 やや小走りでスラムに向かう少女。

 そして幸か不幸か、その姿を遠巻きにして見つめている男たちに気づくことはなかった。


       ★★


「ヒッヒッヒ……、なかなかの上玉じゃねえか……」

「こんな遅くに一人で歩いてちゃダメだよなぁ」

「ああ、可哀想に……。悪い男たちに捕まって慰め者になっちゃうなんて……。心が痛むよ……」

「ギャッハッハ!テメェがその張本人じゃねえか!」

「違げぇねえ」


 そんな会話を繰り広げているのは、スラムにすら住むことを認められなかった男たち。

 強盗、強姦、殺人、誘拐とありとあらゆる悪事に手を染めている破落戸ごろつきたちであった。


 この国では、スラムがある程度秩序ある場所となっているため、そこに加われないはぐれ者たちが集う「真のスラム」とでも呼ぶべき場所が王都の外れに生まれており大問題となっていた。


 そして、この男たちはその真のスラムの住人であり、夜陰に紛れて日々の糧を得るための獲物を探していたところであった。


 そして、その濁った瞳がデッキブラシを抱えて家路を急ぐ少女の姿を捉えたのであった。


「ゲヘヘへへ。なあ、俺が最初でいいよな?」

「ざけんな!テメェはいつも壊しちゃうじゃねえか!」

「そうだそうだ。だから、一番最後な」

「何だとぉ!?ブッ殺すぞ!」

「おう、やってみろや!」


 まだ、少女を攫ってもいないのに、もう先のことで揉めている男たち。

 それを「捕らぬ狸の皮算用」「飛ぶ鳥の献立」「沖のはまち」と言う。


「いい加減にしろ、テメエら!とっととやるぞ!」


 そんな男たちの騒ぎを一喝したのは、顔に大きな傷を持つ禿頭の男。

 仲間たちからは頭領ボスと呼ばれていた。   


「「「へ〜い」」」


 そんな頭領ボスの命令が下りると、それまで騒いでいた十数人の男たちは不敵な表情へと変わる。


 こうして、男たちの汚れた手が心清き少女へと伸びるのだった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


どこにでもクズはいるものです。


果てさて少女はどうなりますか。

次回をご期待ください。




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