第2話 運命の出会

 何だろう、俺は地縛霊なのだろうか?


 このトイレから離れられない。

 

 正確に言えば、トイレの敷地内からは一歩も外に進めないのだ。


 まるでそこに見えない壁があるかのように。


 幽霊らしく俺は飛ぶことも出来るのだが、トイレの敷地内を半円状の何かが覆っているらしく、ある程度の場所まで浮かぶとそこで頭打ち。


 地面に潜ればとも思ったが、トイレの壁は抜けられるのに、地面には潜れない仕様らしい。


 飛べてもトイレの屋根から数メートルまで。

 壁はすり抜けられても、地面には潜れない。

 人に姿や声は届かず、物を持つことも出来ない。 


 オワタ…………………………。


 俺の世界は、このトイレの中だけで終わってしまっているのだった。




 せっかく異世界に転生したのに……。

 そんなことってないだろう。



「ううううう……、酷い……」


 この残酷な事実に、俺は思わずがっくりと膝をつく。


 もう、泣いてもいいよね。  


「えっ……?」


 そんなことを考えていると、うなだれている頭の上から突然、小さな声が聞こえて来た。


 俺が頭を上げて声の主を探すと、そこにはデッキブラシを両手で持っているうさ耳の少女の姿があった。


 前世であれば、絶世の美少女と言っても過言でないほどに整った容姿。

 光彩が赤い瞳と、透き通るような肌。

 真っ白い髪の毛…………シルバーブロンドって言うんだっけ?

 その上にちょこんとウサギの長い耳が乗っている。

 しかも、右の耳はペタンと折れていた。  


 う……う……う……うさ耳少女キターーーーーーー!!!


「…………神様?」

「はぁ?」


 俺がうさ耳少女の登場に狂喜乱舞していると、少女は驚いた様子でそうつぶやいた。

 えっ!?

 俺の姿が見えてるの?


 思わずそう口にすると、少女は俺の目を見つめながらゆっくりと頷く。


「ええええええええええええええ!?」


 ここまで誰にも反応してもらえなかったのに、まさかまさかまさかまさかこんな幼気な少女に気づいてもらえるなんて!

 俺は涙ながらに少女へと近づくと、そのガッツクような圧に負けて彼女はわずかに後退する。


「ああっ……ゴメン、お願い……逃げないで……お願い、お願い……」


 俺は情けなく土下座をすると、そう呼びかける。

 せっかく俺を認識してくれる人に出会えたのに、ここで逃げられてはもう俺は終わりだと、必死に嘆願する。

 

 何度も何度も頭を下げる。


 クスッ。


 すると、俺の情けない姿を眺めていた少女は小さく笑みを浮かべると、やさしく声をかけてくれた。


「あ……あの……、突然でびっくりしただけ。大丈夫……です」

「ホント!?」


 その言葉に喜んだ俺がそう尋ねると、ビクッと身体をこわばらせた少女は、コクコクと何度も頷くのだった。


 これが後に『聖域の巫女』と呼ばれる少女【セーラ】と俺との出会いだった。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


一万字くらいで終わることを予定しています。

まあ、作者的に予定は未定なのでどうなることやら。



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