☆小瓶の妖精☆

日が沈みかけてる帰り道


青年にとっては毎日のように通る帰り道である


勿論、普段と何ら変わらない風景なのだが、この日は違ったようだ


もう少しで家に着くという時、街頭の下でうっすら光るものが目に入る


なんだろう?


そう思いながら、光るものに近付いていくと、ガラスで出来た小瓶であった


「なんだ、只の瓶か・・・」


小瓶のガラスが街頭の光を反射していたようだ


普段ならそのまま通り過ぎる所だが、少し洒落た小瓶だったので、何となく手に取ってみる


丁度、手のひらぐらいの大きさのようだ


「わぁっ!痛っ!」


小瓶を持ち上げようとした時、何処からともなく声が聞こえた


驚いた青年は、周りを見渡してみるが誰も居ない


「空耳かな?・・・」


首を傾げながら、再び小瓶を持ち上げようとすると、再び声がした


「ちょっと、痛いじゃないですかぁ!

もっと優しく扱って下さいっ!」


今度は空耳ではない、確かに女の子の声でハッキリと聞こえたのだ


勿論、周りを見渡すが誰も居ない


ということは・・・


青年が恐る恐る小瓶を覗くと、中に小さな女の子が入っているではなか


驚く青年に、お構い無しで女の子が話す


「そんなに驚いてどうしたんですか?そりゃ、こんなに可愛い女の子を見たら驚くのはわかりますけど、驚き過ぎじゃないですか?」


いや、問題はそこじゃないんだよ


と思いながら、青年は小さな女の子に話しかけた


「えーと・・・?君は・・・?どうして・・・?」


聞きたい事はいっぱいあったが、衝撃のせいで中々質問がまとまらない


それならと、とりあえず家も近いので、人目に触れないように持って帰る事にした


慌てていたせいか、玄関でつまづき足の指を強打したが、今は痛がってる場合じゃない


家に着いた青年は、テーブルの上に置いた小瓶を覗き込む


やはり、そこには小さな女の子が入っている


夢ではないようだ


小瓶の中では、小さな女の子が腰に手を当て、ほっぺたを膨らませている


少し、怒っているようだ


「ちょっと運び方が乱暴ですよ!

そんなんじゃ女の子に嫌われますっ!」


何度も言うが、問題はそこではないのだ


少し落ち着きを取り戻した青年は、女の子に話しかけてみる事にした


「君は一体何者なの?」


それに対して女の子は、どや顔で答える


「ふふ~ん、私は妖精です」


「妖精?」


「はい、妖精です

ちゃんと羽もありますよ」


改めて見ると、確かに背中から羽が生えているようだ


漫画やアニメでは見た事はあったが、実際に見ると普通の人間にしか見えない


勿論、大きさを除いた場合だ


「なんで、瓶の中に居るの?」


「前の持ち主さんに捕まえられて、瓶に閉じ込められたんです」


「なんで捕まえられたの?」


「多分、私が不幸の妖精だからだと思います」


木の妖精や水の妖精とかなら聞いたことあるが、不幸の妖精なんて聞いたことがない


「不幸の妖精?

ということは、君と居ると不幸な事が起きるって事?」


「はい、そうです

さっき、玄関で足をぶつけたのも多分私のせいかと・・・」


「そう言われれば、玄関で足をぶつけた事は1度も無かったけど・・・」


不幸と言えば不幸だが、正直この妖精によって起こったのかは定かじゃない


第一、不幸の妖精なんて聞いた事がない訳で・・・


もしかしたら、ここから逃げたいから嘘を言ってるのだろうか?


考えていても、埒が明かない


そう思った青年は、携帯電話で妖精を調べる事にしたのだが、今度は携帯電話が見当たらない


「どうしたの?」


ズボンのポケットに手を入れている青年に、妖精が話し掛けた


「いや、携帯が見当たらないんだ・・・

ポケットに入れた筈なんだけど・・・」


「多分、それも私のせいです」


確かに、偶然にしては出来すぎである


立て続けに、こんな事が起きるだろうか?


そうこうしてると、今度はテレビのコンセントがショートし、コードが燃えだした


青年が急いで消火した為、大事には至らなかったが、この子は本当に不幸の妖精なんだと確信した瞬間だった


このままでは、まずい


青年は無造作に瓶を掴むと、部屋を飛び出した


少しでも早く、少しでも遠くにこの妖精を捨てなければ


青年は無我夢中で走り続ける


しかし、時既に遅し


青年は、交差点から出てきたトラックに跳ねられ、帰らぬ人となってしまったのである


道路に落ちた小瓶は、何事も無かったかのように、街頭の光を反射していた・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る