☆タクシーの怪談☆

残業を終えたスーツ姿の男が帰り支度をしていた


仕事は出来る方ではないが、出来ない訳でもない


ただ今日は急な仕事が入り、残業を余儀なくされたのである


男は足早に会社を後にすると、近くの駅へ向かった


「もうこんな時間か、間に合うかな?」


そんな男の心配をよそに、無情にも最後の電車は発車してしまう


「参ったな~、タクシーで帰るしかないか・・・」


男はそう呟きながら、仕方無しにタクシー乗り場へ向かった


タクシー乗り場には、1台だけタクシーが停まっていて並んでる客も居ないようだ


男は素早くタクシーに乗り込む


「どちらまででしょうか?」


男が運転手に行き先をを告げると、タクシーはゆっくりと走り出した


タクシーが走り出してから、いくらも時間が経たないうちに運転手が話し出す


「お客さん、遅くまでお仕事大変ですねぇ」


「えぇ、まぁ今日はたまたま急な仕事が入ってしまったので」


「そうなんですか、お疲れ様です」


どこにでもあるような、普通の会話


少しの沈黙のあと、男が運転手に話し出した


「あのー、運転手さん」


「はい、なんでしょう?」


「突然こんな話をするのは、なんですけど

幽霊とか見た事ありますか?」


運転手は少しだけ驚いた表情


「お客さん、本当に突然ですねぇ

急にそんな話をして怖がらせないで下さいよ」


「すいません、驚かすつもりは全くなかったんですが、最近怖い話とかにハマってましてね

タクシーにまつわる怖い話とかよく聞くもので、本当のところは、どうなのかなと」


「あぁ、そういうことですか」


運転手はそう言うと、続けて話し出した


「お客さんのおっしゃる通り、仕事柄そういう類いの話が多いのは事実ですねぇ

でも、私が体験したのはたった1回だけ、それもよく聞く話なんです

それでも良ければお話ししますが」


「いいも何も、是非聞きたい」


「そこまで言うなら話しますが、あまり期待はしないで下さいね」


「一向に構わないよ」


運転手は少し自信なさそうに話し出した


「三日前の事です

いつも通り深夜の勤務だったのですが、珍しく郊外までという遠距離のお客さんがいました

そして、その帰り道

街灯が少ない道路を走っていると、前方にうっすらと白い何かが見えたんです」


男は真剣な表情で聞いている


「どんどん近づくにつれ、それは白いワンピースを着た髪の長い女性が、手を挙げているのだと分かりました

もちろん怖かったのですが、乗車拒否と苦情がくるのも嫌なので、止まることにしました」


男はこの時点で、よくある話だと少し思いながらも、

こちらから話してくれと言った手前、何も言わない事にした


「そして、その女性を乗せて走り出しました

走り出してから数分だと思いますが、何気なくバックミラーを見たんですよ

そしたら・・・」


ここで男はたまらず喋ってしまう


「そしたら、

女性が消えて後部座席が濡れていたんでしょう!?」


それを聞いた運転手は少し笑いながら話を続けた


「消えてくれたほうが、まだマシでしたよ

なんと、その女性の顔が腐ってまして、バックミラーを見ている私に大きな口を開けて襲い掛かってきたんです」


「マジですか!?」


「はいマジです

なんとか振りほどきながらハンドルを操作したのですが、その皆虚しく電柱に激突し、車は大破しまいました」


「電柱に激突!?マジですか!?」


「はいマジです

これが私の体験した話なんですが、良くある話であまり怖くないですよね・・・」


伏し目がちに運転手に、男が言う


「いえいえ、十分な話でしたよ

電柱にぶつかって車は大破、でも無事だったんですから、何よりそれに感謝ですね」


「いや、無事だったら良かったのですが・・・」


運転手はそう呟くと、少しづつ薄れていき

最後には消えてしまった

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