☆ある日の出来事☆
その日、高校の文化祭の準備で遅くなった少女はバス停に急いでいた
バス停でバスを待っていると、初老の女性が後ろに並んだ
買い物袋を重たそうに持っている
親切で持ってあげようとも思ったが、もうすぐバスが来るので、声は掛けなかった
そんなことを考えていると、バスが到着する
二人が乗り込むと、バスはゆっくりと走り出した
車内には、運転手と元々乗っていた初老の男性1人しか居ない
いつもは高校生で満員のバスも、少し時間が違うだけでこんなにも寂しいのかと思わされる
しばらく時間が経ったとき、前の座席に座っていた初老の男性が後ろを振り向いた
そして、後ろの方に乗っていた少女と目が合う
少女は少し怖くなり、すぐに目を反らしうつむいた
幾らか時間が経ち、再び顔を上げると、あろうことか男はまだこっちを見ている
見ているだけではなく、少し笑っているようにも見えた
少女を恐怖が襲う
関わらないようにと、目を反らしてうつむくが、その願いも虚しく、その不気味な男はゆっくりと立ち上がり、こちらへ一歩また一歩と近づいて来る
少女は恐怖で動くことも、声を出すことも出来ない
そして、とうとうその男は、微かに震える少女の目の前までやって来た
少女はうつむいているので、男の足元しか見えないが、笑っている顔は容易に想像できる
もう駄目だ・・・
その時だった
「あんたっ!何やってんだいっ!
こんな若い子怖がらせてっ!
大人のくせに!もっと他にやることあるだろっ!
とっととバスから降りなっ!」
少女が諦めかけたその時、後ろに座っていた買い物帰りの女性が、大声で男に叫んだ
男も、その女性の大声に圧倒され、そそくさと元の席に戻り、次のバス停で逃げるようにバスを降りていった
「大丈夫かい?」
女性が優しい笑顔で話しかけると、少女も少し安心した様子で答えた
「助けてくれて、ありがとうございました」
「お礼なんていいのよ、それよりも最近は物騒だから気を付けなさいね」
「はい、本当にありがとうございました」
話をしながら女性がバスの降車ボタンを押したので、
次のバス停で降りる事がわかる
少女が降りるバス停は更にその先であったが、女性に何かお礼がしたいと思い、一緒に降りることにしたようだ
「あら?あなたもこのバス停だったのね」
笑いながら話す女性に、少女が言う
「私は次のバス停なんですけど、助けて貰ったお礼をどうしてもしたくて、良かったら家まで買い物袋を持たせて下さい!」
「あら、そんなの気にしなくて良かったのに・・・
でも、せっかくの親切を断ったらバチが当たりそうだわ
申し訳ないけど、お願いしようかしら」
「はい!是非持たせてください!」
こうして、少女は女性の家まで買い物袋を持ってあげる事にしたのであった
女性の家は、バス停から近かったようで、自己紹介も終わらないうちに到着したようだ
「本当にありがとう助かったわ」
「いえ、とんでもないです、こちらこそ助かりました」
お辞儀をして帰ろうとする少女を女性が呼び止める
「あ、待って!
重いもの持って喉乾いたでしょ?
良かったらお茶でも飲んでいきなさい
お茶っていう歳じゃないかな?」
自己紹介も出来なかったし少し位ならいいか
少女はそう思いながら、お茶を頂く事にした
「何か呼び止めてごめんね」
「いえ、親切を断るとバチが当たるので」
少女がそう言うと、女性は笑いながら少女を家に招き入れた
「遠慮なくどうぞ」
女性に促され、キッチンの大きなテーブルに腰掛けると、ジュースやお菓子をこれでもかと出してくれる
「あ、もう、そんなに気を使わないで下さい」
「気を使ってる訳じゃないのよ
普段お菓子を食べないから、どんどん増えてきちゃって
だから、遠慮しないで食べてね」
最初はお菓子を食べながら話していた二人だったが、話が盛り上がっていまい
最後には二人で手作りケーキを作っているようだ
すると、不意にチャイムがなった
ピンポーン、ピンポーン
「あら、誰か来たみたいね
今、手が離せないから、かわりに出てくれる?」
「はい、わかりました!」
少女は玄関へ行くと、ドアを開ける
「どんなご用件で・・・」
!!!
!!!
!!!
なんとそこに立っていたのは、バスで少女に近づいて来た不気味な男だったのだ
少女は腰の力が抜けて、その場にしゃがみ込んでしまう
つけられた!!!
そう思って必死に逃げようとしても、腰に力が入らない
そう考えているうちにも、男が不気味な笑みを浮かべながら近づいてくるではないか
少女はなんとか全身の力を振り絞り叫んだ
「助けて!」
しかし、その声も小さく弱々しい
男はもう目の前まで来ている
その時、奥から声が聞こえた
「どうしたんだい?やけに時間が掛かってるね」
少女が振り向くと、クリームを手に付けたままの女性が廊下に立っていた
一瞬助かったとも思ったが、よく考えてみると、バスの中とは状況が違う
バスの中には男性の運転手も居たが、今は女性が二人だけ
しかも、一人は腰を抜かしている
でも、もしかしたら、あの時の様に女性が叫んだら、逃げるかもしれない
薄い望みかもしれないが、今はそれしか考えられなかった
しかし、いくら経っても、女性は何も喋ってくれない
少女は耐えきれなくなり、たまらず女性に叫んだ
「助けて!」
弱々しい声で必死に訴えたが、女性は動かない
その間にも、不気味な男が少女に手を伸ばしてきた
「助けて!
どうして何も言ってくれないんですか!」
すると女性は、不気味な男性のような笑みを浮かべ言った
「どうしてって・・・私達夫婦なの・・・」
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