☆三つの願い☆

ある所に、とても真面目な少年がいた


勿論、悪いことなど一度もしたことがない


しなかったのか、出来なかったのかは分からないが、兎に角真面目なのである


この日もいつも通り学校が終わり、自宅で机に向かって勉強をしていたのだが、ふと気が付くと背後に人の気配を感じた


両親は出掛けていて、家には誰も居ないはずなのだが、確かに気配を感じるのだ


一瞬幽霊かとも思ったが、少年は幽霊を見たことがなく、何よりも気配に悪い感じが全くしなかった


幽霊じゃないとしたら何?


色々考えるが最後は幽霊という結論に達する


そもそも幽霊を見たことが無いのだから、気配だけで判断するのは、おかしな話なのだが


そんな事を考えている間も、その気配は消える事が無かった


あれこれ考えても仕方がない


少年は勇気を振り絞って、振り向く事にした


恐怖と好奇心の入り交じった感情で振り向くと


そこには、白髪で長く立派な髭を生やした、仙人のような老人が立っていたのだった


勿論、少年は驚いたが、驚くのも束の間


老人はゆっくりとした口調で話し出した


「驚くのも無理はないのぉ


神と会うのは初めてか?」


老人の問いかけに、少年は返答出来ないでいる


それはそうだろう


知らない老人が部屋に上がり込み、神と言い出しているのだ


頭の中を整理しようとしてる少年をよそに老人が続けて話し出す


「少年よ、お前さんは生まれてから今まで、悪いことを全くしなかった

その褒美として願い事を三つ叶えてやろう」


この老人、神と言うだけでは物足りず、願い事まで叶えると言い出したのである


頭のおかしな老人が、勝手に他人の家に侵入している状況


普通なら、何かしらの対処をしなくてはいけないのだろうが、不思議な事に悪い感じが全くしない


言葉には言い表せないが、大丈夫と思えてしまうのだ


少し落ち着きを取り戻した少年は考えた


家から出ていって欲しいと願えば、老人は出ていってくれるのだろうか?


刺激しないように、願い事を三つ言えば満足して帰ってくれるのか?


万が一、本当の神様で、本当に願いを叶えてくれる・・・


そんなわけないか・・・


少年が色々考えてると、再び老人が話し出す


「少年よ、願い事は決まったか?


神とはいえワシも年老いた老人じゃ、長く立ってると結構辛いのじゃよ


まだ信じられんかもしれないが、ここはひとつ、願い事を言ってみたらどうじゃ?


そうすれば、ワシが神だと信じる筈じゃ」


確かにそうかもしれない


願い事を言って、叶えば本物


願い事を言って、叶わなければ偽物


至極簡単な事だ


少年はそう考え、試しに願い事を言うことにした


「使いきれないほどのお金が欲しい」


するとどうだろう


少年の目の前に、使いきれない程のお金が一瞬にして現れたのだ


頭のおかしな老人が神になった瞬間である


「どうじゃ?信じてくれたかの?」


信じるも何も、一瞬で大金を出現させる事など、人間に出来る訳がない


老人を神様と認めるには十分な出来事であった


本物の神様と分かった以上、願い事を慎重に考えなければ・・・


少年はそう思い、思考をフル回転させた


使いきれない程のお金は手に入った


お金で買えるものは全て手に入る


それならば・・・お金で買えないもの・・・


色々考えた少年は、小さな声で二つ目の願いを言った


「理想の彼女が欲しい・・・」


すると、一瞬で少年の目の前に理想の女性が現れた


少年は女性とあまり話したことが無かったため、緊張はしてるが、一瞬で現れた事には驚いていない


老人を神様と認めているからである


「さて、二つ目の願いも叶えたぞ、残りはあとひとつじゃ」


とうとう最後の願いである


使いきれない程のお金は手に入った

お金では買えない、内面も外見も理想の彼女が出来た


少年は色々考える


あと欲しいものと言ったら、大体のものはお金で手に入るだろう


それよりも、せっかく手にいれた大金と理想の彼女を誰かに奪われるほうが可能性としては高いのではないか?


それらを守る為にはどうしたらいいんだろう?


誰にも負けない腕力を手にすれば・・・


いや、どんなに腕力があっても、拳銃で撃たれたらひとたまりもない


だったら、不老不死になれば・・・


いや、万が一彼女を失ったとき、死んでも死にきれない


どうやっても完全に守る事は出来ないのだろうか?


どうすれば何事もなく平和に過ごせるのだろう?


そもそも、この世界に悪い奴が居るから、色々心配しなくてはいけないのではないのか


悪い奴さえ居なければ・・・


そして、少年はゆっくりと口を開き、三つ目の願いを言った


「この世の中から悪いやつを全て消してくれ!」


そう言った瞬間に少年は跡形もなく消えてしまった


老人が言う


「悪人とて一人の人間じゃ


それを消し去ってしまうお主もまた悪人よのぅ」

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