空想旅行

ねぷちゅ~ん

☆正義の味方☆

僕の夢は正義のヒーローになること!


悪い怪獣を必殺技でやっつけるんだ!


・・・・・・


小さい頃はそんな夢を持っていた


しかし、大人になるにつれて、そんな夢も薄れていく


現実には、ヒーローなんて存在しない


所詮、子供の頃の夢だ


さっきまでは、そう思っていた


実際に怪獣を見るまでは・・・


その日も、いつも通り仕事をしていた


タバコを吸おうと、会社の屋上に行った時である


遠くで爆発音が聞こえ、黒煙が立ちのぼった


何事かと目を凝らして良く見ると、黒煙の中から、そいつは姿を現したのだ


十階建てのビルにも相当する大きさで、緑色の体、背中にはヒレのような物も見える


そう、それは怪獣以外の何者でも無かったのである


人間というものは不思議なもので、危機的状況になるとパニックになるが、危険が及ばない場所に居ると、その危機を見たくなってしまう傾向があるようだ


この男も例外ではなく、遠くの怪獣を見ても意外と冷静だった


怪獣を眺めながら、煙草に火を点けて、ゆっくりと煙を吐き出す


「怪獣が居るって事は、ヒーローも居るんじゃないか?」


そんな事を考えていると、轟音が鳴り響き、軍の戦闘機が怪獣に向かって飛んでいった


男は少し笑いながら呟く


「怪獣がそんな物で倒せる訳がないだろ」


戦闘機は一斉にミサイルを発射し、それが怪獣に命中


しかし、怪獣には全く効いていないようだ


怪獣は何事も無かったように、街を破壊し続ける


男はおもむろに、ポケットから携帯を取り出すと、ニュースを見始めた


勿論、どのチャンネルも、街の惨状を映し出している


しかし、正義のヒーローは未だに現れていない


男は若干イラついたように呟く


「正義のヒーローは何やってるんだよ」


そうは言ってみたものの、男は正義のヒーローなんて実在しないと、内心は思っているのである


しばらくニュースを見ていた男だったが、突然携帯を空高くかざしたと思うと、大きな声で叫んだ


「変身!!!」



・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「・・・なんてね」


不謹慎にもほどがある


男はふざけて言ってみたようだが、勿論何も起こる筈が無い



そう、何も起こる筈が・・・




「!」




「な、なんじゃこりゃぁぁぁ!!!」


男が驚いたのも当たり前である


なぜなら、男の体は正義のヒーローの如く、みるみるうちに巨大化したのだから


しかし、現実はテレビと違うようで、巨大化したのは体だけ


洋服は破れてしまったようだ


これでは正義のヒーローどころか、素っ裸の大きな変態である


男は焦りながら、近くの工場現場の大きなシートを剥がすと、急いで腰に巻き付けた


「危なかった・・・もう少しで変態になるところだった・・・」


腰にシートを巻き付けた、上半身裸の変態が呟いている


男は自分の体に起きた現象に戸惑いながらも、周りを見回した


体が巨大化したために、見下ろすと言ったほうが、わかりやすいかもしれない


すると、不意に物凄い視線を感じた


その視線の先を見ると、遥か遠くの怪獣が男を見ているではないか!


怪獣はそのまま視線を外さず、ビルを破壊しながら男に向って歩いてくる


「まじかよ・・・

まぁこれだけ目立ってれば仕方ないか・・・」


さてどうしたものか?


男は思考をフル回転させ考える


「落ち着くんだ・・・

何かいい方法があるはず・・・」


そうしてる間にも怪獣は近づいてくる


迫り来る怪獣を目の前に、男は覚悟を決めたようだ


「俺が戦うしかないっ!」


猛然と近づいてくる怪獣に対峙した男は、腕を前に出して構える


構えると言っても、格闘技の経験は無いので、何となく構えてるだけである


そして、助走をつけると怪獣に跳び蹴りを繰り出した


先手必勝である


不意をつかれた怪獣に跳び蹴りが炸裂!


そう・・・炸裂はしたのだが・・・


男は足を押さえて悶絶している


それもそのはず、怪獣はゴツゴツした固い皮膚で覆われているのだ


裸足で蹴ったら痛いに決まっているのである


勿論、怪獣は痛くも痒くも無い


逆に威力が無さ過ぎて、唖然としてる感じさえ漂う


怪獣は男を見たまま動かず、様子を伺っているようだ


その時、不意に怪獣が体を回転させた


「!」


遠心力でスピードを増した怪獣の尻尾が、男の足めがけて迫ってきたのだ


「うおっ!」


不意をつかれた男は両足を後ろに下げるが、間に合わない


尻尾は見事に男の太ももへヒットした


「べちんっ!」


鈍い音が響き渡る


「ぐわぁぁぁっ!超痛ぇっ!」


怪獣の尻尾は思ったよりも破壊力があり、男は叫ばずにはいられない


それもそのはず、巨大化したとはいえ必殺技も何もない生身の人間が、怪獣相手に勝てる訳がないのである


普通の人間が素手で熊と戦うようなものだ


痛みに顔を歪めながら、男は焦っている


焦りながらも周囲を見渡すと、鉄塔が視界に入った


「これだ!」


男は鉄塔を掴むと、力の限り引っ張る


ベキベキと轟音を鳴らしながら、鉄塔が抜けた


抜けた鉄塔は、さながら槍のようで、男も少し満足気だ


「よし!これなら戦えるかもしれない」


さぁ、武器を手にした男の反撃である


男は鉄塔を思いっきり振りかぶり、怪獣の頭めがけて振り下ろした


しかし、振り下ろした鉄塔が怪獣の頭に当たる前に、尻尾で弾かれてしまったのである


「!」


男は想定外な早さの尻尾に驚き、一瞬動きが止まる


それを怪獣は見逃さない


今度は男の脇腹目掛けて尻尾が飛んできた


「バチンッ!」


男の身体は九の字に曲がり、そのまま吹っ飛んだ


「ぐはっ!」


信じられない痛さに悶絶する男


「やべぇ・・・めちゃくちゃ痛いし・・・めちゃくちゃ怖い・・・」


実力の差を思い知らされた男の心は、既に折れていた


痛さと恐怖で体が震えだし、思考が停止する


しかし、怪獣は情け容赦なく近付いてくるのだ


万策尽きた男は無我夢中で、近くにあった車や電車を怪獣に投げつけ始めた


車や電車に人が乗っているかどうかなど、確認してる余裕もない

まるで、駄々をこねる子供のように、何でもかんでも投げつける


もちろん、そんなものが怪獣に効くはずもなく、前進は止まらない


気付けば、怪獣は男の目の前まで迫っていた


「もう無理だ・・・携帯で悪ふざけしたから天罰が下ったのか・・・」


男はうなだれ、覚悟を決めた


その時である!


大空の彼方から、物凄い速さで何かが飛んできた


地上に降り立ったそれは、まさにヒーローとしか言いようの無い出で立ちで、怪獣に向かって構えをとった


人々は叫んだ


「ヒーローだっ!正義のヒーローが来たぞっ!」


怪獣は一瞬怯んだようだが、すぐさま体を回転させ尻尾で攻撃する


それを紙一重でかわすヒーロー


ヒーローなので当たる訳がないのだ


そして、そのまま腕を交差させ、必殺技の名前を叫んだ


交差させた腕からは光が発射され、怪獣に命中する


怪獣は一瞬にして、粉々に吹き飛んだ


人々は大歓声をあげる


うなだれていた男も声を上げて喜んだ


怪獣をやっつけたヒーローは、ゆっくりと男のほうを振り向く


そして、腕を交差させると、必殺技の名前を叫んだ


腕から発射された光は男に命中し、男も一瞬にして粉々に吹き飛んでしまった


更に湧き上がる人々の歓声


それもそのはず、ヒーローは怪獣より街を破壊していた男を倒したのだから・・・


世界の平和を守る為、正義のヒーローは今日も戦う

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る