第157話 第一回センター試験
─わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
大瀑布の様な地鳴りの様な轟音が、世界一大きなドーム『帝国ギガアリーナ』を揺らしている。
前面に大きな特設ステージが設けられてメインステージから中央のセンターステージまでランウェイがのびている。
巨大なメインスピーカーを中心にところかしこに設置されアレイスピーカーやサブウーファー。 それらに出力する為のパワーアンプリファイアーの数も尋常ではない。
いったいこの設備にどれほどの予算が注ぎ込まれているのか、想像もつかないほどだ。
マグヌスは抽選で当たった最前列席で目をキラキラと輝かせていた。
頭にリルハチマキ、リルハッピにリルうちわ。 まあまあの注目を集めながらも彼は羞恥心などは持ち合わせてはいない。
「さあさあさあさあさあさあ!
次で最後の曲となります! これで今年のセンターが決まりますが、皆さん準備は良いですか────────っ!?」
─うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
「はいっ! 凄い気合が入ってますね!! 良いですよ────っ!!
私もMC歴五年目ですが、こんなに興奮したのは初めてです!! それでは今一度、メンバーの皆さんを紹介しましょう!!」
暗転して、ドラムロールからの、スポットライト!
「ビスケット大好き、クリクリオメメのプチさ────ん!」
─うおおおおおおおおおお!!
華奢な体躯で舞台袖から元気よく現れたプチは、両手で客席に向かって大きく手を振りながら、ランウェイを歩いてセンターステージに立つ。
大きな瞳を片目瞑ってウインクしながら客席にアピールすると、クルッと回ってメインステージへと戻る。
「さあ、どんどん行きますよ────っ!! 次は鈴みたいにコロコロと声が可愛らしいナノさんDA────っ!!」
─うおおおおおおおおおお!!
ナノは小股でテトテト歩いてとても可愛らしい笑顔を振りまきながら、センターステージへ続くランウェイを歩く。
センターステージへ着くと深く深くお辞儀をして、満面の笑顔を咲かせた。 ランウェイ近くに座っていた人はキュン死しない様に必死に耐えている。 そんなファンを横目に手を振ってセンターステージへと戻った。
「さあ次はこの人! クルッと癖っ毛ポニーテールがチャームポイントの褐色美少女ウクさんディ─────ッス!!」
─うおおおおおおおおおお!!
紹介されたウクはピョンピョンとスキップしながらランウェイを往く。 跳ねるたびにポニーテールがピョコピョコ揺れてとても可愛らしい。
センターステージに立つとこれでもかってくらいクルクルと回ってビシッと止まると、ポニーテールが顔にあたって少し痛そうにする。 会場からクスクスと小さな笑いが生まれて、それを見たウクがニッカリ笑うと会場から変な歓声が生まれる。
そのままウクは元気よくスキップしながらメインステージへと戻った。
「さて、ここで事前投票人気二位のリルさんです!!
おお──────っと!?
彼女の歩いた後に次々と花が咲いて行きます!! 花は咲くと花びらになって会場へと舞って行きます! なんて幻想的なのでしょう!!」
─うおおおおおおおおおお!!
色とりどりの花弁を撒き散らしながらランウェイを往くリル。 ただ歩いているだけなのに歓声が渦のように
センターステージまで来るとリルは何かの種を観客席へと放ると、これまで以上の小さな花々がセンターステージ一体を包み込み、一吹きの風がそれらの花弁をアリーナ全体へと運ぶ。
会場は思わぬサービスに大歓声が轟く。
もはやため息しか出ていないマグヌスは感極まって涙すら流している。 「尊い」と何度も呟きながら。
リルは会場から押し寄せる大歓声を浴びつつ、爽やかな笑顔とともにメインステージへと戻った。
「凄いです!! なんてファンサービス!! そしてラストは事前投票人気ナンバーワンのこの人。 今、最もセンターに近い人! ミクさんですよ──────っ!!」
─うおおおおおおおおおお!!
会場が割れんばかりの大歓声の中スポットライト受けて現れたのは、ツインテールがとても愛らしいミクだ。 事前投票人気ナンバーワンとあって会場の熱量が最高潮に達している。
彼女がランウェイを歩いているだけだと言うのに、一挙手一投足に歓声が湧き上がる。
マグヌスは顔を赤らめて、目を輝かせてはいるが、リル推しのファンとしては少し歯痒い気分でそれを見ていた。
彼女がセンターステージへ立ち右手を高々と掲げると、そこを中心に席の後方へ向けてサイリュームのウェーブが広がる。 凄い連帯感だ!
押しては引いてを繰り返すサイリュームの波は、後方からセンターステージへ到達すると、ミクは右手を顔の前にかざし、指の隙間から目を出してニヤリと笑った。
─どわあああああああああ!!
地響きのような歓声が生まれる。 これはミクのお決まりのポーズとなっていて、ファンにはたまらないポーズらしいのだ。
マグヌスは歯噛みしながらも顔はニヤけている。
「クッ! 可愛い!! 不覚にもキュン死しそうになってしまった!! しかし、俺はまだ諦めんぞ!! まだ曲は始まってすらいないんだ!!」
メンバー全員がセンターステージに揃い、会場は大盛りあがりだ。 ステージに上がろうとする者を警備員が次々に引きずり降ろしている。
「は────い、みんな────っ!! 落ち着いてね────っ!!」
プチがそう言うと会場から、は──────いっ!と返事があるが、まだよじ登ろうとする
「ほらっ! そこっ! ステージに上がらないっ! めっ!!」
─ドタドタドタタ……
ミクがそう言うと、ステージに上がろうとしていた者がキュン死した。
「みんな! この曲が最後になります!!」
─えええええええええええ!?
不満の声があがる。
「この曲は私たちメンバーみんなが歌詞を考えた思い入れのある曲なんだ!!」
─おおおおおおおおおおお!?
「それぞれのパートを心を込めて歌うから!!」
「みんな、私たちの想いを受け取ってください!!」
─ぎゃあああああああああ!!
もはや叫び声の様な歓声だ。
「聴いてください! 『小さな恋の魔法』!!」
『小さな恋の魔法』
作詞:プチ・ローグ
作曲:モカ・マタリ
編曲:メイガス
─チッチッチッ…
シンバルでリズムをとる音が響く
私は小さな魔法使い
使える魔法はひとつだけ
ちちんぷいぷい
pui♪pui♪ pui♪pui♪
自分の手のひらにハートを描いて
あなたに声をかける勇気の魔法
あのお……何でもないです
DAMEDAMEDA!
えっと……やっぱりごめんなさい
DAMEDAMEDA!
今度こそ 今度こそ
次こそは 次こそは
あなたを振り向かせてみせるから
私は小さな魔法使い
効果の時間は少しだけ
ちちんぷいぷい
pui♪pui♪ pui♪pui♪
偶然転んだフリをして
あなたに手を握ってもらう魔法
あわわ……イタイ躓いちゃった
DAMEDAMEDA!
ん〜ん……私は全然大丈夫
ほんとDAMEな私
今度こそ 今度こそ
次こそは 次こそは
あなたにそっと手を触れたい
私は小さな魔法使い
おっちょこちょいの魔法使い
ちちんぷいぷい
pui♪pui♪ pui♪pui♪
本当は魔法なんて使えない
遠くであなたを見てるだけ
魔法にかかっているのは私の方
キュンと……胸が苦しくて
DAMEDAMEDA!
ポロリ……涙が零れ落ちた
DAME女確定
今度こそ 次こそは
明日こそ ホントに明日?
明日あなたは誰かの名を呼ぶ
私ではない誰かの名前
明日あなたは誰かの手を取る
私ではない誰かの手
あなたは私の魔法使い
私の心に小さな恋の
魔法をかけて熱くする
ちちんぷいぷい
pui♪pui♪ pui♪pui♪
もう止められない 止まらない
もうあきらめない あきらめられない
あなたは私の魔法使い
私の小さな恋の炎は
いつしかこんなに大きく燃え上がり
たとえ世界を焼き尽くしたとしても
決して絶えることのない不滅の炎
たとえこの身を焼き尽くしたとしても
あなたの心に燃え移るまでは
恋の呪文を唱えるわ
ちちんぷいぷい
pui♪pui♪ pui♪pui♪
ちちんぷいぷい
pui♪pui♪ pui♪pui♪
─ギュワン!
終曲を迎えようとしたその時、センターステージの宙空辺りに巨大な魔法陣が浮かび上がる!
─ウウウウウウウウウウ!!
直ぐ様アリーナ中に緊急アラートが鳴り響く!!
赤い警告ランプが明滅する中、魔法陣から巨大な黒い影が現れる。
黒い影の中からそれはまた巨大なライオンのフォルムを思わせる生き物が現れた!!
三つ編みに結われた髪、前髪はパッツンのおじさんは、ニマニマとした不気味な笑顔で、口の端からだらしなくヨダレを垂らしている。
背中には大きなコウモリ様の翼、尻尾は黒光りして先には無数の棘が光っている。
マンティコアだ!!
会場は何かの演出かと思って一瞬の静寂の後、大パニックを呈して観客は逃げ惑った!
─ドゴンッ!!!!!!!
そして、更に大きな音がした!!
赤い爆煙の中から全身真っ赤な甲冑を身に
会場は大パニックを超えて卒倒し始める者が続出した。
警告ランプ明滅し続け、緊急アラートはまだ鳴り響いている。
赤髪の騎士のヘルムの下の口元が、大きく吊り上がった!!
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