第124話 模擬戦
─ガラッ!
この日、部室を飛び出して以来、初めてサークルに顔を出したマリオンは、勢いよく部室の入口を開けた!!
「マリオン!? おまえ……」
「戻って来てくれたのか!?」
「あの時は悪かった! お前の気持は解ってて言った俺達が悪かった!! サークルの存続はお前だけの問題ではないし、その為にお前の大切なロザリアを──」
「──みんな、聞いてくれ!!」
サークルのメンバーの言葉を遮って、マリオンは声を張り上げた!!
「ぼくはこのロザリアで次の大会に出場することに決めた!!」
─っ!?
マリオンは入口すぐのテーブルの上にドンと箱を置く。
「出場ってお前……お前の大切なロザリアが……」
「おい、俺達の相棒たちを見ただろう!? ロザリアをあんな無惨な姿にしたくはないだろう!?」
「ぼく、やります!! 出場して、みんなの無念を晴らして来ます!! ロザリアはあんな目に合わせません!! 帝国のヤロウどもをギャフンと言わせてやります!!」
「マリオン……お前、何があった?」
「せんば〜い! どいてよ、はいれな〜い!!」
「お、おう。 わるぃわるぃ。 後輩も連れてきたから、今日は作戦会議だ! あ、知ってると思うが、こいつはロゼの付添人のノワールだ。 見学させてやって欲しい」
部室の入口でマリオン先輩が話していたために、後ろで箱を持って待機していたロゼが疲れて来たようだ。
大会では自分で運ばないといけないために、今から練習させている。 僕は一緒に来ているが、あくまで見学と決めているのだ。
─ドン!
ロゼはふぅと息を吐いて、せかせかと箱を開け始めた。 合わせてマリオンも箱を開けた。
─おおおおおおおお!?
サークルメンバーから感嘆の声が上がる。
テーブルの上に乗せられた箱の中から、一体はマリオンのビスクドール・ロザリアが、一体は謎の魔法少女・マロカが姿を現した。
「マリオンおまえ……以前より精巧に出来てねぇか?」
「だよな? それにこっちのフィギュアみたいなゴーレムは……これ、本当にゴーレムなのか?」
「ああ、ぼくにはお師匠様が出来たんだ。 ロザリアも、もう以前のロザリアではない、新生ロザリアだと言えるだろう」
「お師匠……様? 何それ?」
「皆が次にゴーレムを作る時はきっと手助け出来ると思う!」
「そうか……俺たち、あれから皆で協力して、寄せ集めのパーツでゴーレムを作ってみたんだ。 そんなに言うなら見てくれないか?」
部屋の奥の作業場から一体のゴーレムを部長のフランクが持って来た。
何と言うか……本当に寄せ集めだな?
「名前をキメラ!」
「まんまじゃねーか!」
「ふふふ、まあしかし、寄せ集めにしてはそれなりに動くんだぜ?」
キメラは
キメラと名付けられたソレは、格好も動きも歪だが、実はカラミティと言う名の
「……コレじゃ駄目だ!」
「んだと、オメェ調子に乗ってねぇか?」
「そうだ、見た目が良いからってロザリアが強いとは限らんだろう?」
「じゃあ、やってみますか?」
「お、おう! そこまで言うならやるか!? でも大会前だ、物理損壊は避けたい」
「ならこうしよう、身体の何処かに風船を付けて、それを先に割ったほうが勝ち」
「……いいですよ。 受けて立ちます!!」
「ロゼもやっていいの〜?」
「……きみは……ちょっと考えるよ」
「え〜!? ちゃんと考えてよ〜?」
「ん、……うん」
「お? 何だ、後輩にビビってんのか?」
「……ぼくのロザリアは一度このマロカに負けてるんだ」
「そう……なのか?」
「いや、いいよロゼ、ぼくとロザリアの今の実力を知っておきたいから、きみもぼくたちの決着がついたらやろう!」
「やっふ〜い♪」
ロゼがいつものお尻ふりふりをして喜んでいる。 うん、可愛い、ずっと見てられる。
話の流れで風船を使った模擬戦をやる事になり、僕たちはそれぞれの箱を持って魔導訓練棟の中部屋へと向かった。
中部屋にはゴーレム演習用に設けられた部屋があり、対局に別室がある。 ラビ(操縦者)はそこからゴーレムを操作するのだそうだ。
部屋同士は対話できるようにマイクとスピーカーが設置されていて、ちゃんとコミュニケーションもとれる。 マイクはスイッチの切り替えでオン・オフが可能で、作戦会議の時などはオフに出来る仕様だ。
僕たちは風船を付けたキメラとロザリアの箱を所定の場所に置くと、各部屋へと分かれた。
フランク、クレイ、パウル、ヘンリック先輩たちは、マリオン先輩、ロゼ、そして僕とは別々の部屋となる。
「おい、マリオン。 お前の師匠がどれほどのもんか知らねえが、お前の事を心配して試行錯誤して作り出したキメラを馬鹿にされちゃ腹が立つ! その自惚れで伸び切った鼻っ面を圧し折ってやる!!」
「ぼくはキメラを馬鹿にした訳じゃない! 今までのぼくなら皆の努力を素直に凄いと言ったかも知れない。 けれど、今のぼくは違う! 違うし、解る! そのキメラでは駄目だ。 それをちゃんと証明するから見ておいてくれ!」
「おう、それが本当なら証明するしかないな!! 用意は良いか!?」
「いつでもどうぞ?」
─ready!! キュイーン…
ゴーレム・ボックスの継ぎ目に光の筋が走り、四方向に開放されていく。
─fight!! シュウウゥゥ…
キメラの目がギラリと光り、ロザリアは瞼がゆっくりと開眼し、キメラを捕捉する。
キメラの翼に魔力が注がれて薄っすらと光を帯びている。
ロザリアは動く様子はなく、微動だにしないが、眼光だけは鋭い。
「先ずはオートの性能を試します。 相手が仕掛けてきたら自動で対応してカウンターを入れてくれる筈です」
「マリオン、そっちの作戦丸聞こえだぞ!?」
「聴こえても問題ありません。 ぼくは何もしませんから、どうぞお好きなように攻めてください」
「そのオートってのはAIじゃねえのか!?」
「いえ、いくつものパターンを想定して、それに対応した動きを予めプログラムしています。 そして目標は既に捕捉しているので、誤ることなく風船を攻撃出来るでしょう」
「よく解らんが、すげー自信だな!!」
「ええ。 ぼくとロザリアは必ず勝ちますから!!」
「よく言った! 行くぞっ!!」
キメラはロザリアの周囲を円を描くように駆け出した。
その速度はみるみるうちに加速してゆき、やがてひとつの帯が出来そうになったその時。
─タッ!
地面を駆る音とともにキメラは姿を消した!
のではなく、ロザリアにつけられた風船に迫ろうとしていたが、既にロザリアの姿はそこになく、霞を斬って着地をしたキメラ。
─ピ──ッ!!
判定のホイッスルが鳴る。
見るとキメラの背中に取り付けられた風船は見事に割られており、ロザリアは少し離れた場所で佇んでいた。 一糸乱れぬその佇まいは、箱から動いたとは思えない美しさだ。
「何だ!? 何が起こった!?」
「魔法か? 飛び道具か?」
「違うよ。 単純に叩き割っただけだよ」
「そんなわけあるかよ!?」
「じゃあ、もう一度やる?」
「おお、もう一度だ!!」
副部長のクレイが風船の取り付けに行った。 その間に部長のフランク、パウル、ヘンリックが先程の画像を分析している。
録画画像を超スローモーションで見てみると、キメラがロザリアの周囲を旋回して、ロザリアの背後、死角から切り込んだが、軽く往なされて風船が叩き割られてた。
大した動きはしていないが、無駄のない良い動きをしている。
部長たちは単純にゴーレムのスペックに差を実感しながらも、あまりの格差に疑いを拭えなかった。
お互いのゴーレムが元の位置に戻り、ゴーレム・ボックスに収容される。
─ready!! キュイーン…
─fight!! シュウウゥゥ…
先程と同じ様にキメラの翼が薄く光を帯びる。
ロザリアは今度は真っ直ぐにキメラへ向かって歩き始めた。
キメラは間合いを詰められないように、弧を描きながら後退る。
ロザリアが歩みを止めて立ち止まる。 が、顔はキメラをずっと追っている。ロザリアの袖から仕込みナイフがぬっと現れ、キメラに向かって投擲した。
キメラはとっさに避けた、が、避けた先でロザリアに踏み付けられて風船を割られた。
─ピ──ッ!!
「おい、……全然敵わねぇ」
「本当にまるで相手ならんな……」
「部長!? どうですか!? 勝てないでしょう!?」
「マリオン、あとで部室に戻ったらちゃんと説明してくれるか?」
「そのつもりだよ?」
「そうか……たのむぜ、マリオン?」
「さあ! せんぱい!! こんどはロゼとだよ!!」
「お、……おう!」
「お!? 真打ち登場だな! 後輩! 俺達の仇とってくれ!!」
「おうよ、あんちゃんのカタキはおれがうつっ!!」
ロゼが親指でズっと鼻を拭って言った。
「何のキャラだよ!?」
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