第10話

エーデルワイス・ルーガルド、クラン蒼月の銀狼のクランマスターにして神託の戦姫の名を持つ世界中にも数人しか居ないSランク冒険者の1人


支援魔法を使い身体を強化する

剣を振るい攻撃を仕掛けるが軽く受け流されカウンターで素早い一撃を食らう

(防具が無かったら間違いなく骨が折れてた)

何度も切りかかるも全て受け流される


「早いけど軽い、ただいい剣だね、私の武器よりも強く素晴らしい技術で生み出されてる」


彼女はガントレットとブーツを使った近接戦闘を得意としていて体術は達人レベルとも言われている

キッカには彼女が本気では無い事は見て分かる

なのに届かない

剣を弾かれ素早い攻撃で圧倒される


「弱い」


ワイバーンの防具が無ければとっくに終わっている

距離を取り剣を拾い構える

魔力剣を投げつけるが掴まれ砕かれる


「まだ……」

「はっ!」


瞬間的に距離を詰めて放たれた強打が直撃する

キッカは血を吐き後退る

エーデルワイスの強打は魔力を込めずともワイバーンの鱗を砕くと言われている程の力を持つ

そんな芸当ができるのは恐らく本人を含めてもこの世界に数人と居ない

後退る際に生じた隙を逃さずに追撃の上段蹴りをお見舞する


「ぐっ……」


意識が飛ぶのを耐えるが再び来る追撃を避けるどころか防御も出来ず直撃する

一度剣を振るい牽制して一気に飛び退き距離を取る

相手はまだ武器の特性も魔力すら込めていない

魔力増幅で高めた魔力を利用して切りかかるが軽々と避けられ当たらない

例えどれだけ攻撃力を強化しようが当たらなければ意味が無い

エーデルワイスはその容姿からは想像の付かない戦いをする

防具を付けず装備している武器には軽量化が施されている防御を捨て回避と攻撃に特化させている脳筋思考のスタイルだ

本来なら異常な戦闘スタイルだが彼女はその戦い方でSランクに至った存在

その為手加減の一撃すら尋常では無い程に早く鋭く重い


「全力で来て」


魔力で大きな剣を形取り振るう

ワイバーンを仕留めた一撃


「オーラブレイド!」

「地砕き!」


ガントレットに蓄積された魔力を爆発させ拳と魔力の剣がぶつかる

衝撃波が発生し空気を揺らす

拳を振り抜くと魔力の剣が砕けキッカは吹き飛ばされる


「嘘……」


魔力増幅によって増えた魔力で打ち込んだ一撃、間違いなく現在の全力

それを破られた相手はまだ余裕がある


「強いけど……まだ足りない」

「まじかキッカが負けるのか……何者だよあの嬢ちゃん」


ダウドが呆気に取られる

ワイバーンすら倒したキッカが手も足も出なかった

キッカの時以上に世界の広さを体感したようなもの


「黒龍と戦うつもりなら討伐隊が組まれる前に最低でも私と同等の力を付けてね。今の君には黒龍と戦う資格は無い」


戦闘が終わる

今の段階で戦えば死ぬと言う事を言葉だけでなく力で教えた

やり方は余り良いものでは無いが冒険者の中ではよく行われる恒例行事のような物

力無き者を戦場に立たせないのはある種の気遣いでもある


「エーデルワイスさん!」


戦いを終え2人が家に戻るとスフィアがカンカンに怒っていた


「力量を測る手っ取り早い方法」


ポコポコと頭を叩かれている


「確かにそうですが……あっ、キッカさん回復しますね」


スフィアが回復魔法を使う

自分でも回復魔法を使っていたがダメージが回復し切っていない

すぐに痛みが引いていく

さすが本職と言える


「ありがとうございます」

「王都から戻ってきたら私達と一緒にウルダ行く?」

「ウルダで一度依頼を受けないと行けませんからその予定です」


キッカはまず冒険者登録の解除申請を取り消さないといけない

そのためにウルダで依頼をこなさないと行けない


「私のクラン来る?」

「勧誘は嬉しいですが……お断りします」

「良い提案だと思ったんだけどなぁ」

「私はパーティを組みます」


メンバーは決まっていないが黒龍と戦うならソロでは限界がある

実戦経験を積むために恐らくダンジョンや討伐依頼を多く受ける事になる

それならクランよりもパーティの方が動きやすい


「メンバーの当てはあるの?」

「それは……」


冒険者の時もほかの冒険者と関わりを持たなかった上2年間も知り合いはほぼルーヌ村の人のみ


「黒龍と戦えるフリーの冒険者なんてそうそう見つからないけどやると決めたなら頑張りなよ~疲れたから少し寝る」


そう言ってエーデルワイスは壁に寄りかかり眠る


「私は自衛団の訓練して来ますのでここはご自由にお使いください、何かあればダウドと言う自衛団のリーダーにお伝えください」

「分かりました」


キッカは道場へ行きメンバーを集めて森へ訓練に向かうが魔獣が見当たら無い

(地形を覚えるのも必要だから無駄では無い)


「魔獣居ませんでしたね」

「そうですね、だいぶ奥に来ましたが……」


村の近くではなく森の奥地に入っていった

少なくとも弱い魔獣であればこの付近を彷徨いていてもおかしくないのだが見つからない

グーラベアが付近に現れたせいだろうか

帰路も何事もなく道場に戻り木刀による訓練を行う


「お早い帰還ですねキッカさん」

「スフィアさん?ここで何を?」

「自衛団のヒーラー役の方に回復魔法のコツを教えていたんです」


キッカも回復魔法を教えていたが本職では無いキッカだと限界があった


「助かります」

「この程度であればお易い御用です」


回復魔法のコツを一通り教えたあとスフィアはキッカの訓練を見学している

少し怪我をしてもスフィアが治すためいつもより力を入れて訓練を行う

魔力を込めて打ち合う


「はぁぁぁ!」


相手の木刀を砕き吹き飛ばす


「あっ……すみません」


ハッとしてすぐに駆け寄り謝る


「全然問題ないですよ、吹き飛びましたが攻撃が当たった訳じゃないので」


エーデルワイスの一件でいつも以上に力が入っている

(もっと強くならないと)

途中から起きたエーデルワイスとレーネも訓練に加わる

エーデルワイスは魔力の使い方と体術を教えレーネは気配の消し方と弓のコツを教えていた

但しレーネの教え方はあまり上手くなかったようで教わっていたメンバーは混乱していた

翌日はエーデルワイスを含めて森で訓練を行う

スパルタでグーラベア1体でもきついのに2体同時に戦った際も距離を取りアドバイスを出すだけで助けはしない


「タンク!魔力を常に盾に込めなさい!君が死んだら全滅すると思って戦って攻撃はアタッカーに任せて防御に集中!アタッカー!常に相手の動きを見て攻撃しなさい!君たちが時間をかければタンクの負担が増えて陣形が崩れる!ヒーラーは守られるだけでなく行動を見て一定の距離を保ちなさい!」

「「は、はい!」」

「厳し過ぎるのでは?」

「ずっとここに居るならそれでいいけど離れるなら彼らだけで倒せないとダメ、戦いはいつも命懸けでないとならないんだよキッカ」


エーデルワイスは先を見据えていた

キッカが黒龍討伐を目指したのはつい最近の事だがこれからは長い期間ルーヌ村に居る予定は無い

キッカが居なくなることを考えれば彼らはこれからグーラベアを同時に相手にすることもあるだろう

何とか助け無しで2体を倒しきる


「やった!」

「勝てたぞ~!」

「それに彼らは魔力の扱いさえ覚えれば充分太刀打ち出来る……終わっても油断しない!警戒は解かないで探索時の陣形を作る!」

「「は、はい!」」


エーデルワイスの一言にビシッと姿勢を正してすぐさま陣形を作る


「森は敵陣と思いなさい!油断すればすぐに囲まれる。敵地での油断は死に繋がる!」


エーデルワイスは叫ぶ

前衛都市のクランの中でも上位に君臨する蒼月の銀狼のマスター、冒険者になる前から魔獣討伐をしていたと言われる生粋の戦闘狂

多くの冒険者を従えるだけの力がある

(冒険者と言うよりは騎士団だと思う……)

森の訓練を2回に分けて行う

2回目はダウドも居るのでだいぶ戦力に差がある


「ダウドさんは1人で倒せます」

「陣形や連携を重視するから1人で戦わせない、そこ!陣形を崩さない!」

「魔獣が来ます!見たことの無い魔獣です」


前方警戒していた1人が叫ぶ

エーデルワイスとキッカはすぐにその姿を確認する


「あれは……」

「Aランク魔獣グリムリスこんな辺境に出てきていい魔獣じゃないのだけど……総員下がれ!私が相手をする!」

「私が行きます」

「ワイバーンより格上だ。それに見ときなさいSランクの本気を」


一瞬で魔獣の前に現れ立ちはだかる

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