第8話

商人が来る日なのでキッカと自衛団が入口付近の警備をしながら待つ

自衛団の武器や防具は修理した物でグーラベアクラスを相手するには心許ないがそれでもゴブリンなどには何とか通用する

伝書鳩で送った手紙の返しも帰ってこない


「魔獣も出ませんし暇ですね」

「そうだな」

「……そういえば聞きたいことが有ります」

「なんだ?」

「レスと名乗る人物を知っていますか?」

「いや知らないな。有名な奴なのか?」

「いえ、冒険者時代聞いたことないので新しい冒険者か無名だと思います」


ただ名乗っていないだけか、はたまたこの村の付近に現れて攻撃を仕掛けてきたのが初なのか

あの日以来森に行っても出てこない

(……レア出現?)

謎に謎を重ねたような不審者だが覚醒のきっかけとなったのでキッカは気になっている


「この村は魔獣以外に誰か襲ってくる事はありますか?」

「盗賊が時々来るくらいだな」

「黒ローブの人物やかなり強い人がとかは?」

「無いな。そんなの来てたらとっくに壊滅してるだろ……妙に遅いないつもならそろそろ来るはずだが」

「見てきます……何かあったら光石使ってください」


魔力を込めると光を発する石、光は魔力の量によって大きさが変わる

魔力を込めて上に投げることで離れた位置の味方に緊急事態を知らせることが出来る


「分かった、任せた」

「身体強化、脚力強化、加速二重奏」


支援魔法を使い道を走る

暫く走り広い道に出るが見つからない

(まだ来てないのかな?)

周りを見渡しながら道を歩く


「あれは……」


遠くの路肩に人集りを見つける

走って近づくと血の匂いがする

(あれは盗賊に襲われている……直ぐに加勢しないと)

盗賊、商人の馬車や村を襲い略奪を行う人の事を言い冒険者ギルドやクランに討伐の依頼が来ることもある

冒険者の職業に盗賊が居るがそれとは全くの別物

視認できる距離まで行くと商人の馬車が襲われていた

荷物は散乱し護衛の冒険者が必死に商人を守ってる

冒険者側も盗賊側も数人死んでいるのか血を流し倒れている


「女は生け捕りだ男は殺せ」


盗賊のリーダー格の大男がそう叫ぶと大剣を振るって少年を吹き飛ばす


「死ね」

「ひっ、助け……」


大剣を片手で持ち上げて勢いよく振り下ろす……事はなく大剣の重さで後ろに倒れる


「えっ?」


リーダー格の首が宙を舞う

少年の目の前に両手剣を携えた銀髪の少女が突如現れる


「あ、貴女は……」

「ここは任せて下がっていてください」

「あんた1人で勝てるのか?そいつら火爪盗賊団だぞ」

「知らない名前ですね、有名なんですか?」

「いきがるなよ女! 叩き潰して俺たちに刃向かったこと後悔させてやる」

「おっ美人じゃん、楽しめそうだ」

「楽しむ?」


目にも止まらぬ速さで首を切り裂く


「えっ?」

「あ?」

「戦いすら楽しめないと思いますが」


盗賊の2人は数秒斬られた事にすら気づけなかった

少女の姿が消えたかと思うと視界が下に落ちる

本来有り得ない角度から自分の身体が視界に映り死を理解する


「強っ……」

「何者なんですか貴女は……」

「私はルーヌ村の住人です。商人が来るのが遅いと言う話を聞いて馬車の確認をしに来ました」


魔力剣を投げつけて逃げようとした盗賊を仕留める


「おぉもしかして貴方がワイバーン殺しの元冒険者さんですか!」


商人が荷物の影からひょこっと現れて早足で興奮気味にキッカに近づく

ビクッと身を震わせる


「は、はい、そうですが……」

「盗賊如きでは敵わない訳です」

「なんと!貴女がルーヌ村を襲ったワイバーンを1人で倒した人なんですか」


興味のある冒険者達が興奮気味に近付いてくる

こう言う事が苦手なキッカは慌てる


「落ち着け、助けてくれて有難う。俺は疾風の蓮槍のリーダーのルークだ」


落ち着いた雰囲気の男性が話しかけてくる

護衛の冒険者の中では最年長だろう

軽く話を済ませて馬車を起き上がらせる

馬は生きているが怪我をしている

キッカが回復魔法をかけるが傷は治りきらない


「ヒーラーの方回復魔法をお願いします」

「は、はい」

「剣士なのに回復魔法も使えるんだな。いや先程の武器は魔力の剣かそれほどの魔力操作ができるなら回復も容易か」

「軽い魔法であればですが」


馬が復活し荷物を整理して護衛しながらルーヌ村に向かう

死体は近くに埋めてある

走った時よりゆっくりではあるが魔獣に襲われることも無く無事にルーヌ村に辿り着いた


「キッカ時間かかったなどうした?」

「馬車が盗賊に襲われていました」

「その盗賊はどうした?」

「あの場に居た者は1人も逃さずに殺しました」


淡々と語る

キッカは貴族の地位を幼い時に奪われてスラムで生活していた

その頃から食料や寝床の奪い合い、命のやり取りすらしてきた

冒険者になってからも何度も報酬目当てで盗賊狩りを行っている為、人を殺す事になんの躊躇も無い

非情にも思えるキッカの反応に悪寒が走る


「そ、そうか」


ダウド、リオが商人と交渉している間暇な護衛の冒険者はキッカの自衛団員と子供達の訓練を見ていた


「何処からでもかかってきてください」


魔力を込めるも軽々と吹き飛ばされる

見てた冒険者達は拍手をする

盗賊のリーダーに殺されかけていた少年が立ち上がり剣を抜く


「手合わせお願い出来ますか?」

「良いですよ……私はこれを使います」


木刀の切っ先を少年に向ける


「木刀で真剣に勝てるとでも?」

「勝てますよ工夫1つで」


互いに武器に魔力を込める

(魔力を込めるやり方は知っているけど魔力の流れが荒い)


「どうぞ」


大きく振りかぶり剣を振るう

真剣を木刀で防ぎ逸らして手を叩く

少年は痛みで剣を離してしまう拾う隙も与えず首元に木刀を向ける

たった数秒で勝負が付いてしまう


「これで終わりです」

「強過ぎる……」


落ち込んだ様子で帰っていく


「ワイバーン単独討伐なんてAランクの冒険者じゃないと出来ない、俺たちはまだCランク敵う相手じゃない」

「1つ聞きたいことがあります」


キッカはルークに話しかける


「なんだ?」

「この国の王様とはどういう人物ですか?」


会う前に人柄を知っておきたい

ダウド達は現在の王様のことを知らないと言っていた


「王様?いい噂は聞かないな。女遊びが多いだとか気に入った相手を愛人にしようとして断れば牢獄へ送るとか」

「あと逆らったら即刻打首なんて聞いた事もありますよ」

「先代と先々代は優秀な人だった分酷い所が浮き彫りになっているようです、彼は国を私利私欲の為に利用しているとまで言われている始末、ココ最近国民も税金でかなり困っているとか」


話によるとかなりの愚王のようだ

いい話も信憑性が低いような話ばかり

数日後にその王様と会う予定のキッカは嫌そうな顔をする


「何かあったのか?」

「ワイバーンの件で王様へ謁見することになりまして」

「……いい噂のない王様だ気をつけろよ……無いとは思うがもしも決闘する事になったら騎士団長のアルフレッドには注意しろ噂だが実力はAランク相当らしい、ワイバーンでは無いがBランク魔獣を単独撃破したという話もある」

「終わったぞって何かあったのか」

「いえ少し」


ダウドが道場に来て声をかけてくる

どうやら交渉が終わったらしい

リオが大量の武器や防具、素材を手に入れてご満悦のご様子

商人達はルーヌ村で一泊して翌日になって出発して行った襲われた地点まではキッカも護衛する


「流石に連日来ることは無いようですね」

「そうですね、ここまでで大丈夫です護衛ありがとうございます」

「無事着くことを祈ってます」

「またな」

「はい、また何処かでお会いしましょう」

「ご武運を祈ります」

「また会ったらパーティ組もうぜ~」


軽く別れの挨拶を済ませてルーヌ村に戻る

入口が見えてきたところで森の方から視線感じその方向を見ると遠くに黒ローブの人物が立っていた


「あれはレス?」


何かをする訳でもなく森の奥に消える

追うか迷っていると完全に姿を見失う、あちらから危害を加えるつもりが無いならキッカに戦う理由はない

レスの目的が分からない

キッカの命を狙っているようには思えず村に直接危害を加えるつもりも無いようで自衛団のダウドすら知らないとなるとこの付近に現れたのも最近だろう

(彼は一体何者……)

考えても埒が明かない為考えるのを辞めて村へ戻る

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る