第6話

上半身を起こして周りを見渡す

見知った場所……すぐに道場の更衣室だと分かる

(喉乾いた)

喉が渇いて立ち上がる


「ちょっ……キッカちゃん待って」


外に出ようとするキッカをリオは大慌てで止める


「……?喉が渇いたので外に水を飲みに」


何をしようとしているのかを説明するがリオが止めようとしている理由はそれとは異なる

水を飲みに行くのはいいただ今の状態じゃ駄目なのだ

体を拭いてまだ着させていないつまりキッカは今全裸なのだ

外に出てダウドと鉢合わせたら不味い


「服!服を着て!」


リオは急いで抱きついてでも食い止める

直に人を感じてキッカは漸く気付く


「服?……あっ、気付きませんでした」

「危ないなぁ……」


言われてようやく気づく

(本当に危機感ないんだね)

リオはため息をつく

キッカはかなり無防備で道場に居る時も服が少しはだけた程度では気にも止めず男性の目の前で着替えようとすることもしばしばある

キッカはリオに手渡された服を着る


「キッカちゃんそう言えば昔使ってた防具は?」

「破損してしまって辞める際にギルドへ」


破損した武器や防具をギルドに渡すと処分してくれる


「今までは魔獣と戦わなかったけど……これから戦うとなったら防具は必要だよね?」

「はい、私は冒険者に復帰するつもりですから前衛都市へ行った際に装備を買います」

「冒険者になるんだ……ねぇ私に防具を作らせて!」

「防具を?」

「ワイバーンの素材少しあれば特性付きの防具が作れる、多分物理及び魔法耐性のランクB」


ランクBは中々の性能、特性付きは高く早々買えないので有難い提案


「分かりましたお願いします」

「任せて! あっ、ダウドもう入ってきていいよ」


キッカが服を着終えたのを確認してダウドに声をかける

扉が開かれる


「扉越しに話し声聞こえてたが元気そうで良かったぜ、ほれ水だ」


ダウドは水筒に入った水を渡す

受け取り一気に飲む


「有難う御座います、リオさんの看病のおかげで大分良くなりました……それとダウドさんごめんなさい、もっと早く戦えるようになっていれば皆さんに怪我をさせずに済んだのに」


頭を下げ謝罪する

自衛団員の戦闘員はボロボロになるまで戦っていた


「頭を上げろ、本来村を守るのは俺たちの仕事だお前が気にする事じゃねぇ……むしろ途中からでもお前が戦えるようになったから俺たちは死なずに済んだ」

「そう言って貰えると助かります」


村人も自衛団員も死者ゼロ、ワイバーンを相手にしてこれなら文句の付けようがない

そもそも普段から鍛えてもらっているだけでも文句の言うのは筋違いという物


「お前冒険者に戻るつもりなんだな?」

「はい、私が冒険者を辞めた理由となった黒龍を討ちます。黒龍の被害を止める為に」


2年間も何度も黒龍は現れ暴れている

その度に多大な被害を出し討伐隊を募っても返り討ちにされる始末


「俺たちは止めねぇ、お前の決めたことだからな」

「まだ暫くは感覚を戻す為に森に訓練しに行きますが……着いてきますか?」

「おっ良いな、ちょうど実戦経験が欲しい所だったんだ。当然行くぜ」

「見回りも兼ねて現在非戦闘員の皆さんも混ぜて」

「盛り上がってるところ悪いけど今武器や防具無いからアルデルカの王都の方から幾らか持ってこないと戦えないよ。修理しても材料少ないから品質落ちるから」


ワイバーン戦で武器や防具は粉砕されている

修理出来るものも幾つかあるが数が足りない上に品質が落ちる為ルーヌ村が属しているアルデルカという国の王都から武器や防具を買い足さないと行けない


「確か四日後に商人来る予定だから武器や防具多めで頼むように伝書鳩を飛ばそう……そんな落ち込まない」


キッカは露骨に落ち込んでいる

遠くにいる相手への連絡手段は鳩や動物などを利用した手紙の方法や人を送るやり方がある

途中でなんらかの事故で手紙が届けられない場合もあるがその場合はどうしようもない

受け取った場合返しの連絡を送ることで届いた事を確認する

夜にワイバーンの肉を焼き村総出で宴会を行う

主役はワイバーンを倒したキッカだが端で座って肉をつついている


「主役がなんで端に居るの……?」


リオが話しかけてくる

手には食べ物を持ち背中には災厄の聖剣を背負っている


「こう言う賑やかなのは余り得意じゃないので」

「だと思った、あっそうだ……ワイバーン倒したキッカに討伐の報酬としてこの剣とワイバーン防具上げるよ、まぁ私からの冒険者復帰祝いとして」


リオはキッカの隣に座ると災厄の聖剣を手渡そうとする


「この剣を!?」

「うん、黒龍討伐するなら恐らく必須だから」

「流石にこれを貰う訳には……」


キッカは遠慮する

あの武器を使ったキッカは理解しているが伝説級やら神話級と呼ばれる類の武器


「これは未来の災厄を滅ぼす為に100年受け継がれてきた剣」


リオは真剣な面持ちで語る


「それなら偶然にでもこの村に来て黒龍討伐を志したキッカ、君に渡すべきだと思ったの……受け取って欲しい」

「…………」


確かに災厄の聖剣は強力な武器今逃せば二度と手に入らないレベルの武器だろう

ただキッカは自分の身に余ると考えている

しばらく考えた後に答えを出す


「わ、分かりました……必ずや黒龍を討ちますこの剣に誓って」

「それと1つ頼み良いかな?」

「何です?」

「私を連れて行って欲しい」

「冒険者は危険ですよ?」

「承知の上、防具や武器のメンテをキッカちゃんは出来ないっしょ?私に頼めばタダだよ」


武器や防具のメンテはかなり値段がかかる

冒険者の出費の大半は装備や道具でメンテも加わると依頼にもよるが酷い時は半分以上飛ぶ


「タダ……」


キッカは幼い時スラムで暮らしていた

その為金の重要性を人一倍理解している……そして金に貪欲


「……よろしくお願いします」

「よろしくねキッカちゃん」


たった一言だがキッカの心にはかなり響いた

こうして新しく仲間が出来た、キッカの冒険者人生の中で初めての仲間である

(仲間……黒龍を倒すなら仲間が必要、集められるかな……私に)

ソロつまりぼっちだったキッカはボーと考える

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