第4話
キッカが冒険者になったのは13歳の時そして黒龍の事件に遭うまで冒険者として活動してたのはたった2年だった
たった2年でBランクまでソロで成り上がる者は世界中を探しても一握りだそれもまだ子供
ギルドではかなり有名な天才少女と呼ばれていた、もしAランクにそのまま上がっていればその戦い方から神速の剣姫という異名を付けられていた
その天才少女が2年越しに復活を果たした
ブランクはあるがそんなものは今の彼女にとっては些細な物だ
森を抜け村の柵を飛び越えてワイバーンの元へ向かう
巨大なワイバーンは小さな村であるルーヌ村だと遠くからでも見える
「身体強化プラス腕力強化握力強化脚力強化、加速二重奏」
支援魔法を複数順番に発動させる
キッカは同時には魔法を展開することはできないが加速魔法、身体機能の速度に関係する全ての機能を強化する魔法その魔法を連続で二重で発動する
キッカは二刀流の速度を重視するアタッカー
「くっそ……やっぱり無理か」
自衛団は壊滅していた、一撃受けりゃ盾も鎧も壊れる勝てる相手じゃない……時間稼ぎすらままならなかった
ダウドは周りに倒れている者を一瞥する
生きているかが分からない程全員が倒れ伏してい動かない
「こんな事ならもっと訓練しときゃ良かったな」
キッカのことを思い浮かべる
2年前突如この村に現れた少女……冒険者を辞めて遠くの村に移り住みたいから来たと言っていた
前衛都市に居たと言うには放っておくと衰弱死しそうな程弱々しかったまるで生きる理由を失ったかのように……
剣を使っていたとは言っていたが剣を振り回す力も筋力も無さそうで弱そう印象があった
ただ木刀を握った瞬間そこに居た弱々しい少女の姿はなく1人の剣士の姿だった
数人の大人を一蹴する程の圧倒的な力を持っていながら真剣と魔獣を酷く恐れていた
詳しいことは誰も聞いていないが彼女すら圧倒する存在と出会って心が折れたのだとダウドは直感していた
「あいつは逃げれたか……一度でいいからあいつの本気を見てみたかったな」
「なら今見せます」
「はっ? キッカ……か?」
(一式刹那)
心の中で呟く
キッカは基本的に技名を考えたり使ったりしないがその行動を技として名前を付けて記憶しておけば咄嗟の時に必要な行動を即座に出せる
支援魔法とは別に足に魔力を込めて地を蹴る
一瞬速度を上げて2本の魔力剣で直線上にいるワイバーンに2本の剣傷を負わせる
鱗に傷が付くが内部には届かない
数回素早く斬るも鱗を突破出来ないで剣が壊れる
しっぽをの攻撃を2本で防ぐが破壊され吹っ飛ぶ
体制を戻す
「魔力剣じゃ分が悪い最優先は避難の方がいいかな」
倒れている全員をダウドの周辺に集めて回復魔法を使う
近くの剣を見るが破壊されている
「新しい剣ってあります?」
「何も見えなかった……これが本気か、どういう訳か覚醒しやがったなキッカ」
「ちょっと色々とありまして……」
倒れてるヒーラーから魔力回復ポーションを回収して飲み干す
(これで大分魔力が回復した)
「ええっと剣だったか? 在庫は……確かもう無いな鍛冶師の宝剣とやらがあるくらいで」
「あぁあれですか。鍛冶屋にあります?」
「多分持って逃げてるか」
(今回の避難所が分からないから探すのが手間、だけど魔力剣じゃ時間がかかりすぎるし魔力が持つか分からない)
時間がかかれば戦闘の余波でこの村は滅びかねない上もしも逃げられた場合他の村に危険が生じる可能性がある
「グルルル」
ワイバーンが唸り声を上げて近付いてくる
「少し黙れ」
キッカはワイバーンを睨みつける
ワイバーンは飛び退いてキッカを警戒する
「仕方ない、魔力剣で戦います。勝てるか分からないけど仕方ない。皆さんが起き上がり次第引き摺ってでも逃げてください」
「……わかった勝てよ」
「勿論勝ちます」
もう一回刹那でワイバーンとの戦闘を開始する
逃げようとするダウド達を無視してたった1人の危険な存在に全神経を注ぐ
この瞬間この場には己と敵のみ、それ以外は不要
ワイバーンの爪と2本の魔力剣が激突する
凄まじい攻防が繰り広げられる互いに一歩も引かずに戦いは激しさを増す
炎のブレスを切り裂き魔力剣を投げつけるがダメージにはならない
すぐに作り切りかかる
魔力剣が破壊されると同時に新しく生成する
~~~
一先ず村人達は避難を終えた
と言っても村から離れた所にある避難所だ、すぐに移動することにはなるだろう
だが村人には運動神経の低い者たちが居るその者達を置いては逃げられないためひとまずの休憩としている
「少し休憩したらすぐに隣村へ向かうぞ」
「我々年寄りは置いていけ」
村長が自衛団にそう伝える
老人達がその言葉に賛同し頷きクワや鎌などを持つ
「村長!そ、それは出来ません」
「先短い我々の命はここで終えても構わん、若い衆だけで逃げろ、どうせ我々は隣村まで持たん」
筋力の衰えた老人たちは正直足手まといとなる
それならばここに残り迎撃に出てる自衛団がやられた場合僅かでもワイバーンの気を逸らすそのつもりで村長は提案した
昔から世話になっていた人々を見捨てる選択を取れない自衛団員が戸惑っている
現実的に考えれば見捨てるのが正解かもしれないが感情が邪魔をする
「今の時代に龍殺しの英雄が居たら……ワイバーンなんて瞬殺なのに……」
「あんなのただの逸話だろ?その剣だって100年前の物か分からないだろ」
鍛冶師の少女が抱えた剣を強く握る
龍殺しの英雄とは100年近く前に災厄と呼ばれた氷の龍をたった1人で討伐したとされる伝説の冒険者だ
少女の持つ剣はその冒険者の使っていた剣だと言われている
「ワシ自身はその英雄を見た事ないが確かにその宝剣はワシの生まれる前からこの村にあった、少なくとも80年以上はその剣は存在している」
村長がそう呟く
「じっちゃんが言ってた……この宝剣はいずれ来る災厄を滅ぼす剣だって、そしてこの村にこの剣に選ばれる英雄が来るって!」
錆びずに100年間ずっとその姿を維持していた
キッカが言うにはこの剣には相当の魔力が込められているらしい
逸話が真実かはともかく相当の武器だと評価していた
「災厄を滅ぼす英雄の剣か」
ダウド達が合流する
全員が驚いている
ワイバーンと戦っているはずの人物の登場だ驚くのは当然だろう
敵前逃亡をするような人物でも無いことは村人は知っている
「ダウド、ワイバーンはどうした?」
「まさか倒したのか?」
「いや今キッカが一人で戦ってる……リオ、その剣を貸せ」
「貸せってダウドが使う気?」
リオが聞くと首を横に振る
「いや、キッカに渡す。俺じゃ奴に手も足も出ないが今のキッカなら剣があればワイバーンを倒せるかもしれねぇ」
キッカに逃げるように言われたがせめて戦っているキッカの為に剣くらいは届けてやりたいと考えていた
「あいつは魔獣を恐れていただろ? それに戦えるとしても元Bランク、ワイバーンと言えばBランクパーティが苦戦する相手だぞ! 勝てる訳が無い」
「分が悪いのは分かってる!それでも現状ワイバーンに対抗できる奴はあいつ以外誰も居ねぇんだよ!強い奴を知らねぇが今のあいつなら剣があればワイバーンを打ち倒せる……そう思っちまうんだよ」
ダウドが力説する
村人はいつもと違うダウドに狼狽する
ほぼ親子くらい年齢の違う少女を置いて敵前逃亡を余儀なくされたダウドは自分の弱さに憤りを感じている
そして彼女の強さを直に目にした
「あいつが負ければこの村は終わりだだったら賭けるしかねぇだろ、リオその剣を貸せ」
「分かった、戦ってる所はどこ?」
「行く気か?危ねぇぞ」
ダウドの問いにリオは力強く頷く
「危険は承知だよ、でもこの剣は僕の一族が受け継いだ剣ならその血を継ぐ僕が未来の英雄に渡さないといけない」
「キッカが英雄とは限らないぞ」
「それなら後で返してもらうから」
軽く笑みを浮かべてそう言うリオの頭に手を置きダウドは案内をする
「付いてこい。お前らはすぐに避難しとけよ戦闘の余波はこっちに届かないとも限らん……じじい共も命にしがみつけ」
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