第3話 神と出会ふ
広い、とてつもなく広い部屋。
壁も床も天井も白いレンガで造られ、家具は特に見当たらない。
周辺にある物が無ければゲームに出てくるただの城のようだったと言えるだろう。
そう、周辺にある物以外は。
周辺には赤い血溜まりがあちこちに広がり、床を赤く染めていた。
その中心には何かの肉塊が転がり、鉄と腐敗臭の混じった異臭を放っていた。
目の前には、白石でできた玉座。その前で
そして、玉座には黄金に光り輝く鎧と青色のマントを見に纏った、銀髪の老人が玉座に身を預けていた。
外見年齢的には七十歳後半から八十歳前半くらいだろうか。髭の長さが長年生きている雰囲気を醸し出している。
しかし、それに対して一切衰えを感じさせない鍛え上げられた肉体が備わっていた。
さらに、どうしたのか分からないが、閉じたままの左眼。短く荒く切られたシルバーヘア。ピカピカと鏡の様にきれいに磨き上げられた銀の鎧。
そして、見たものを気圧させるオーラを放っていた。
(こいつは一体誰なんだ?)
そんな思考が遮った。
いや、そう考える方が普通と言えるだろう。
男はどこかへ向けていた視線を足元の俺に移した。
そして、目が合った。
その瞬間、心拍数が上がり呼吸が荒くなる。背筋に冷たいものが走る。
男が誰だか直感的に分かった気がした。推測にしか過ぎないのに俺は確信していた。
神だ。決して人間ではない。その上を行くもの。それを証明するものとして眼が語っていた。
あれは、数々の人々をある方向へと導く先導者の眼だった。
あれは、いくつもの危機、困難、苦痛を乗り越えて、鍛え上げられた勇者の眼だった。
あれは、・・・
俺はその眼に圧倒され、蛇に睨まれた蛙の様に身動きが取られず、いつしか思考も止まっていた。
そんな呪縛を力の込もった低い声が解き放った。
「我が名はオーディン。戦争と死の神である。単刀直入に言うぞ。戦神勝兜よ、我が力となれ」
お、オーディンだと? あのゲームとかに出てくる? いや、そんな訳ない。そもそも、神なんて物は人間がよりどころを求めた際に造られた物のはずだ。これは夢だ。そう、たぶん・・・
思考の沼から這い出て、改めて“自称”オーディンを見る。
や、やっぱり夢だよな、正直自信が徐々になくなってきている。
「ブッ・・・ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハハ」
“自称”オーディンは突如、吹き出し、笑った。
さらに、一言も喋らず凄く迷った顔で固まっている俺を見て何を思ったのか
「すっ、スマンスマン。こんな如何にも『神』みたいな喋り方は性に合わなくてな。こわがらせてしまったかのう」
いや、違う、違うのだ。あまりにもこの状況を理解できずに困惑してしまっただけだ。
「改めて自己紹介を。ワシの名はオーディン。主に戦争と死の神と呼ばれておる。まぁ、内容に入る前にゆっくり無駄話でもするかのう。色々と疑問が有るじゃろうて」
先程とは打って変わって明るく陽気な声で話し掛けてきた老人はそう言うと、玉座に立て掛けてあった槍の石突の部分で床を叩く、すると床が波打ち、一人用の椅子とコーヒーの乗ったテーブルが何かに引き上げられるように床から出てきた。
「まぁ、腰掛けると良い」
指示に従い恐る恐る座る。
予想以上にふかふかであり、装飾の豪華すぎる椅子。
まるで、漫画の中の貴族の座る椅子のようだ。
俺は改めて目の前の男“自称”オーディンをまじまじと見る。
そして目の前の“自称”オーディンと自分の中のオーディン像を重ねてみる。
確かに見た目は俺が想像するものと似たようなところはある。
しかし、性格的には俺の想像とは大違いだ。
俺の想像するオーディンとは、『威厳・厳粛・聡明』の権化のような人物 といった感じだが、目の前の“自称”には『陽気・暢気』この二つしか感じ取れない。
まあそんな事はさておき何が起こるのか、これからどんな結末が待っているのだろうか。
すると“自しょ・・・ああもうめんどくさい。
なのでここからは“自称”を外し、オーディンと呼ぼう。
信じてやるよ! もう!
そんなこんなで投げやりだが目の前のじいさんが“本物”オーディンだと信じる事にした。
昇格おめでとう。
そうして俺とオーディンは同じテーブルでしばらくの間、座禅にも引けを取らないほど静かなお茶会を行った。
そう、オーディンは座ってからというもの何も喋っていない。なんなら、コーヒーさえ口にしていない。
さっきまでのフレンドリーな態度からは考えられないことだ。
まるで何か後ろめたい事から避けるように。
はぁ、しょうがない。こっちから話を切り出すか。
「それで、オーディンさん。話があるんじゃないですかー(棒読み)」
オーディンは「うっ」と呻くと、ごまかすように笑いながら言う。
「いやぁ、それなー。そうだよ、話があったんだよー。それよりも、何か聞きたい事ある? なんでもいいよ! おじさんこたえられる範囲なら答えちゃうよー」
おい、キャラ保てよ。
口調変わっているぞ。
後半なんて飲み屋でお姉さんに話しかけている酔っ払いじゃないか。気持ち悪い。
それに、話のそらし方下手すぎだろ。まだ俺でもうまい逸らし方できるぞ。
だが、無理に聞くのもなぁ、あぁ何だか、かわいそうになってきた。
冷たくしすぎたかな、仕方ない話に乗ってやろう。
「それじゃあ、お言葉に甘えて、聞いちゃおっかなー」
「おうおう、なんでも聞いたまえ」
俺にはこの会話を即刻に終わらせる必殺技があるのだが、まだとっておこう。
しかも、相手は神だ。
俺のイメージだと神はこの世の全てを知っている事になっている。
つまり、俺たちのような一般人では知りえない情報も知ることができるのだ。
そう、例えば、オカルトやファンタジーな出来事についてなんかも知れちゃうというわけだ。
今までにこれほどヲタク心を擽られる事があっただろうか。
いや、無い!
俺は逸る鼓動を押さえつけ、落ち着いて言う
「俺に・・・彼女はできますか」
言ってしまった。
オカルトやファンタジーに関係ある事ではなく、つい心の中に秘めていた疑問〝俺に彼女はできるのかについて〟を聞いてしまった。
「友達に彼女とか欲しい?」とか聞かれても「いや、別にいらねー」とかクールぶって答えてきたのに。ここでボロが出てしまった。うかつだった。
仕方ない事なのだ。年頃の男の子には気になる事なのだ。彼女いない歴
このまま独り身なんて嫌だ。
ええい、言ったのならしかたない、後は野となれ山となれ、だ。
答えはいかに。
「知らん、恋愛の神にでも聞いてくれ」
一番嫌なパターンがきてしまった。
まあ、でも、仕方ないか。
いや待てよ、なんでも聞いてくれって言ったのはあいつだし。
でも、こたえられる範囲でとは言っていたし。
「ああ、もう。ああー!」
このやり場のない気持ちは何処にやればいいのだろう。
頭を掻きむしりながら自制心と怒りと羞恥心に苛まれる俺に一言の言葉が突き刺さる。
ある意味、とどめの一撃だったかもしれない。葛藤の終止符への。
「ワシは戦争と死の神じゃし。そんな恋事情とかしらんし。専門外だし」
この一撃で、俺の堪忍袋の緒がプツリと切れたのかもしれない。
「人が勇気出して聞いたのに、知らねーとか使えねえなこの“駄目神”。そんなんだから
「なんじゃよその言い方は。仕方ないじゃろ。専門外なのは専門外だから。それにこたえられる範囲って言ったし。てか、ワシって女人化してたの⁉ 知らんかった」
「もういいよ、それじゃあ代わりに専門内でアドバイスでもしてくれ」
「いいじゃろう。それでは、一つ」
オーディンは一呼吸置くと告げる
「大切なものは手から離すな」
貴重品は肌身離さないようにしましょう。子供の手は握って離さないようにしましょう。そんな感じの意味合いのありふれた、どこでも使われている言葉だった。
何か盗まれるとか、誰かが迷子になるとか? そんなアドバイスか?
この時はどこか他人事だった。
だが、このアドバイスが後の悲劇を回避するキーになっていただなんて、この時の俺はまだ知らなかった。
「それで、本題に入ろうか。オー、ディ、ン、さ、ま?」
「おっ、おう」
俺からのあまりの圧にオーディンはたじろぐ。
「あぁ、それのことじゃな。そんなことより聞きたい事ある?」
毎度毎度、ごまかし方、雑だな。
それじゃあ、即刻に終わらせる必殺技を使おうかな。
「オーディン様の恥かしいエピソードを教えて」
俺は満面の笑みでオーディンに話しかけた。
彼は複雑そうな表情をすると、なにか意を決したように頷く。
「それじゃあ、本題に入ろうかの」
オーディンはやっと本題を話し始めた。
「単刀直入に言おう、お主にやってもらうこと、それは・・・」
神は一呼吸置くと続きを告げる
「殺し合いじゃよ」
オーディンはニヤッと口元を歪める。
「殺し、合い?」
俺は驚きのあまり、言葉を失う。
それにも構わずオーディンは話し続ける。
「これは命令である。拒否権は無い」
殺し合い、だと。
俺が?
何のために?
拒否はできない?
いつ? 何処で? 誰と? 何人で? 条件は? 天候は? どのように? ・・・
様々な考えで頭の中がいっぱいになる。
頭がパンクしそうだ。なんだか頭が痛くなってきた。クラクラとしてきた。
そこでふと、ある考えが頭をよぎった。
なぜ?
なぜ、俺が殺し合いをしなければならない?
なぜ、拒否はできない?
自分勝手ではないだろうか。
そう考えていると、だんだん怒りが湧いてきた。
「自分勝手すぎるだろう...」
そう、この怒りの根本はこのことだった。
社会に出れば、人になにかを決められるのは当たり前かもしれない。
それに、職種やモノによっては人を傷つけたり、妨害したりすることもあるかもしれない。
だが、それは己が望んだ結果なことが大半で、拒否しよう、回避しようと思えばできたのかもしれない。
しかし、このことに...他人を傷つけ、不利益を与えるような行為に拒否も出来ないとは、ただの一般人に脅し、殺させ、責任を押し付けて自分は甘い蜜を吸うそんな下種なことと同じだ。
「そう怒るでない。勝手に決めてしまったのは申し訳ないとは思っておる。だがな、こうするしかなかったのだ。せっかく見つけた有望な人材を逃したくなかったのじゃよ」
「有望な人材?」
「そうじゃ。お主は我が力に最も適合した人材だったのじゃ」
議論はいつしか別方向へと進んでいた。
「わしだけでない、あのゲームに参加するため神々は皆、人間を常々監視しておる。自分の力が適合するく騎士がいつ現れるかとな」
そこで、ある言葉が引っかかった
「あのゲーム?」
オーディンの言葉の中にあった“あのゲーム”とはなんだろうか。
ゲームと言えば、真っ先に思い浮かぶのは手にコントローラを握って遊ぶとテレビゲームである。
しかし、オーディンがテレビかゲームをしている様子は想像できない。
だが、人は見かけでは判断してはダメだと言うし。
そもそもさっきの文脈的にそんなゲームが出てくるだろうか?
そんなわけは無い。
たぶん、何かを例えたのではないだろうか。
いわゆる、隠語というものだろう。
はてさて、オーディンはどんなしょうもない答えを教えてくれるのだろうか。
「それではゲームについて説明しようかのう」
オーディンは重い口を開くと一間置いて話し始めた。
神々の自分勝手で迷惑で最悪な“ゲーム”の話を。
「昔々、一人の神は他の神々にある遊びをしようと提案した。新しい惑星を創り、その惑星で生まれ育った生物達で戦わせようとな。ところでお主、地球で最古の生物といったら何を思い浮かべる?」
「うぅ〜ん。恐竜とか?」
「さよう。恐竜は昔の世界を一時期、席巻した生物じゃった。わしらは喜んだよ。やっとゲームができるとな。そのために地球を創ったのじゃからな。しかし、何事も上手くいかんものじゃ、神であれどな」
「何があったんだ?」
話の内容を奥まで理解し、どれだけクソな理由なのかを聞くために相槌をうつ。
「簡単じゃ、彼らにはある物が足りんかった。それだけじゃよ。お主も、ちと考えてみぃ」
俺はオーディンの言うことに素直に従うことにした。
いったい何が足りなかった? 知能? 確かに知能は大事だけど、少しはあるはずだろ? 俺は数分間考えたけれど答えは思い浮かばなかった。
「わからない、という顔をしておるな。わかった教えよう。確かに、彼らには知能が無いわけでは無い。運動能力もある。だが、足りなかったものがある。それは、信仰心じゃ。彼らは神を認識しておった。格上の者じゃともな。なのに、信仰心のひとかけらも無かった。格上だからとひれ伏したり、従うこともなかった。ただ自分達が一番で、戦って縄張りを広げる事にしか頭が無かった」
オーディンは一息つくと話を続ける。
「“神”という存在を信仰しない。それすなわち、ワシらの言うことを聞かない。つまり、ルールを守らない、コントロールもできないということじゃ。しかも新生物の進化の妨げになっておる。すなわち、われらのゲーム準備の邪魔というわけじゃな。お主だったら邪魔な人間や生物はどうする?」
俺は「う~ん」と唸りながら考える。
「結論でいうと何もしないかな。時と場合によるけど。だって、どんな生物にも命があるわけだし」
オーディンは「なるほどのぅ」と言いながら何度も頷いていた」
「お主はやさしいのぅ。じゃが、神々はそこまで優しくない。邪魔ならどんなものであろうと排除する。そんな者たちじゃ、ワシも含めてな」
「そんなの自分勝手すぎる。自分たちが遊びのためにつくった生物を邪魔になったという理由で殺すだなんて」
「確かに自分勝手じゃな。それはワシも認めよう。じゃがな、人間だって同じことをしておろう? 殺処分をされる動物の内、どれくらいの動物が人間の思惑で産まれさせられ、育てられ、捨てられた?」
俺は反論できなかった。確かに人間が神とやっていることは同じだ。
人間の自分勝手で産ませ、人間の自分勝手で育て、人間の自分勝手で捨てる。
俺自身はやったことは無いが、人間全体を対象とすれば確かにやっている者は少なくない。
「まあ、もちろん人間全員がそうとは言わん。神とてそうじゃ。みんながみんな悪ではない。反対したものもおったということを忘れるな」
そうだ人間も神も全員が悪ではない。それを俺たちは忘れてはならない。その通りだ。
「話を続けるぞ」
そう言って話を再開した。
「そして、
恐竜をすべて殺処分...すべて死ぬ...それって
「まさか!? 隕石落下?」
「そうじゃ。恐竜が絶滅したといわれる大きな要因。隕石の落下。あれは、神が起こしたものじゃ」
驚きだ。あれにはそんな裏話があっただなんて。
「あれは残酷じゃった。酷かったよ・・・」
オーディンは悲しい目をしていた。
そして、まるで見てきたかのような物言いだった。
いや、彼は神だ。何千、何万、それ以上存在してきたのだ。実際に見てきたのだろう。
俺はオーディンの見た恐竜の殺処分の現場も猫や犬などの殺処分の現場も見たことがない。
しかし、普段俺たちが考えている以上にとてつもなく酷い現場なのだろうととても想像できる。
「こうして恐竜は絶滅した。じゃが、どれほどかの月日が経った時じゃった。ある新生物が現れたのじゃ。それが、お主たち人間じゃ」
さすがに俺でも聞いたことがある。
たしか、人間の元となる生物を食べていた恐竜がいなくなって、安全にどんどん進化していったとかだった気がする。
「初めは人間の登場にワシらも困惑した。しかし、これは新しい駒が手に入るのではないかという結論に至り、しばらくの間、見守ることにした」
そうして喋りっぱなしのオーディンは呼吸を少し整え、話を再開する。
「するとじゃ、彼らは神を信仰し始めた。十分な知能も、身体能力もある。我らの望む通りの“駒”じゃった。そしてワシらは人間を駒にすると決めた。そして、今に至る」
「なるほどな。それじゃ、あんた達はゲームをやるために必要な人材を探していた。 そして、たどり着いたのが人間だったわけだな」
本当にしょうもない、聞く価値のない話だ。
「そういう事じゃな。ならば、次に頂点の遊戯会の内容について話をしよう」
「わかった。頼む。というかこれが本題だろ? 」
「ま、まぁ、そうじゃな。話を続けるぞ」
オーディンは観念した様子で話を始める。
「頂点の遊戯会。呼称はヴェルテックス・パーティという。参加人数はお主を含めた百人。制限時間は無し。勝利条件は最後の一人になるまで殺し合い、生き残る事。詳しいルールは省くがほとんど何でも有りの殺し合いじゃ」
「なんでも?」
「そうじゃ、なんでもじゃ」
「強盗、窃盗、詐欺、強姦、脅迫、恐喝、放火、殺人、どんな事をしても合法じゃ。さらに、関係無い人を巻き込んでも合法になる」
「いや、関係ない人を巻き込んだら駄目だろ」
「ま、常識人の回答はそうじゃろうな。じゃが、世の中にはそうでないものもおる」
「じゃあ、仮に関係ない人を殺したとしたらどうなるんだ? 罪が無くなったとしてもやったことは無くならないだろう?」
「例えばじゃ。お主が人を殺したとしよう。そしたら、死んだ者は自殺として処理される。腹にナイフが刺さっていたとしたら自分で切腹したとされるじゃろうな」
「なんだよそれ、クソみたいなルールじゃねえか!」
本当に最悪なルールだ。
人が殺されても真実は隠され、殺した罪人は何の罰も受けない。
そんな、そんなルール
「俺は認めない・・・」
「じゃが、すでに時は満ちた。始まったのじゃ。始まってしまったのじゃ。そして、お主は選ばれたのじゃよ、戦神勝兜」
「そんなルールのゲームに参加できるか!」
俺は声を酷く荒げながら、憤怒する。
そんな、俺を見ながら、オーディンは呆れた目線を向け、言う。
「おっほん。前にも言ったじゃろ。お主に拒否権は無い」
だが、次の瞬間、オーディンはニヤッとするとある話を持ち掛ける。
「ところで、このゲームで勝てばどんな景品があるか興味はないか?」
「はぁ⁉ そんなの興味あるわけ・・・」
「まぁ、聞くだけ聞いてみぃ」
「チッ、わかったよ」
「よしよし、それでいいのじゃ。きっと、驚くぞぉ」
接し方が子供に接しているときのそれだ。
何だかムカつく。
「はぁ、でなんだよ。景品、てのは」
「お! 興味を持ってくれたのか~。オジサンうれしいぞ」
「いい加減にしろ! 話引き延ばすの、大好きかよ⁉」
「はぁ、仕方ないの。それじゃあ、発表するぞ。優勝者景品は・・・なんでも一つ願いが叶う権利じゃ!」
「!? なんだそれは」
「な? 驚いたじゃろ。それで、ワシが言いたい事は分かるな? ちなみに、ワシは神だからな、おぬしの心の声も聞こえとるぞ」
なんだ? 言いたいこと? 願いは全て叶う...なんでも望むとおりに...俺の思ったこと...このクソゲーム、神は...神が、神のせいで...!!!
「あ、ああ。優勝して、景品を使って、この頂点の
「その通りじゃ、何度も言うがお主には拒否権は無いからの、“戦う・殺す”の条件からは免れない以上、その後に何かを変えるしかない」
「そうか、そうすれば、このイカれたゲームを完璧に近い形で終わらせられる!」
拒否権がないのなら、このゲームに参加してやろう。
たとえ殺して恨まれるのなら、恨まれてやろう。
その後でみんな笑顔になれるのなら、みんなが怖さや苦しみを知らないなら、それでいいじゃないか。
俺がこのゲームを最高の形で終わらせてやる!
なんかこの
「もう一度、問おう。戦神勝兜。我が力となれ。拒否権は無い」
オーディンはそう告げた。
その、契約に俺は勢いよく頷き、承認した。
「よかろう。これでお主はワシの“駒”となった」
オーディンはとても嬉しそうに微笑みながらそう言った。
こうしてオーディンの駒となったわけだが“駒”という存在に疑問は残る。
俺は戦いをしたことがない。戦いの技術は無い。
かといって技術を補える、銃などの武器も無い。
果たしてどうするのだろうか?
「オーディン、俺は戦いの経験は無いぞ。しかも武器も無い。どうするんだ?」
オーディンはハッハッハと笑うと
「そんなに焦るでない。安心せい。オッホン。それではお主に戦う力を授けよう。両手をだしてみぃ」
俺は言われた通り両手を出した。
すると突然、虚空に裂け目が現れた。
その裂け目からは光があふれ出ている。
その裂け目にオーディンは右手を入れ、引き抜く。
するとその手には青銅と鉄でできた、おしゃれなデザインの槍が握られていた。
「これより、“祝福の儀”を執り行う」
「祝福の儀?」
「まぁ、簡単に言うとな、我が“駒”になるという契約の儀式じゃな。先ほどの言葉の契約は口約束のようなものじゃな」
「なるほど。ていうか俺、儀式の仕方知らないけど」
「特にすることは無いぞ。ワシの言う通りにすればよい」
「わかった」
するとオーディンは右手の槍を俺の両手に置いた。
「握ってみぃ」
言われた通り両手で槍の柄を握る。
すると槍が突然光りだした。
槍はそのまま光の胞子となり、消えていった。
「えっ、なにこれ! 消えちゃったけど。どうすればいい⁉」
「落ち着かんか。せわしないのう」
「すんません・・・」
少し驚きすぎたかなとは思う。振り返ってみれば、みっともなさ過ぎたな、とも。
だけど、良いじゃないか。驚いたし、不安になったし。
「おーい、自分の世界から帰ってこんか。たわけ」
オーディンからの呼びかけで俺は自分の世界から帰ってきた。
「お、おう。すまない。自分の世界に入っていた」
はぁ、とオーディンはため息をつくと続きを話し始める。
「槍が消えたのは、儀式が完了した証拠じゃよ。お主の“
「なるほど」
「では、頑張れ。優勝しろよ」
「!? ちょっ、とま・・・」
突然、視界が白い靄に包まれると同時に意識が薄れていった。
意識が完璧に途切れる前に聞こえてきたのは
「お主を鍛えてくれるメイドも用意しとるぞー。あと、あんまり力を悪用するんじゃないぞー」というオーディンののんきな声だった。
あと今更だが、俺の心の声丸聞こえだったのかよ。初めに言えよ・・・今度、絶対殴ってやる。
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