第12話 脱出

「銃」


少し離れた所から女性の声がした。


「何だ?」


シズクは戦闘不能のレイをよそに、声の方向を警戒し構えた。


パーンッ!


銃声が響き渡ると同時にシズクの膝から血が飛び散った。


「ッッッ!!!撃たれた?!」


「うん、猫も銃には反応出来ないみたいだね」


暗闇から現れたのはミライさんだった。


「(クッ!あの女も奈落?!応援を呼ばなくては...!)」


パァン!


無線が破壊され鉄くずになった。


「チッ!これでもくらえェ!!!」


シズクは渾身の力で棍棒を投擲した。


「おや」


ミライの頭は棍棒に粉々に粉砕されてしまう。


「ハァ、ハァ、遠距離型の奈落だったのか?動き自体はとろくて助かった...棍棒を取らなくては...」


シズクはビッコを引きながら歩いていく。その時


「てめぇの血は格別にうめーなぁ」


「?!しまっ!ゴフ!!!」


シズクは復活したレイに蹴り飛ばされた。内蔵の何処かがイカれたらしい、シズクは血を吐いた。どうやらレイはミライに撃たれた膝から流れる血を飲み復活した様だが、様子がおかしい。


「あああ!ゾクゾクするぜぇ!力が漲って漲って止まらねえええ!!!グッガッ!ガル...ガルルルル!!!」


レイの口は狼の様な牙になり、耳も狼のそれとなった。


「ガルルルル...てめえを切り裂きてえ、食いちぎりてえ、人が憎い、恨めしい、殺してえ、殺してえ!!!」


シズクはヨダレを垂らしながら金色の鋭い眼光を飛ばし、ノシノシと近づいて来るレイに、この世の物とは思えない恐怖を感じた。


「ヒッ...!!!」


「灰狼よ、鎮まりなさい」


レイは声のする方を向いた。


「貴様は!ミライさ、!そうか、貴様が!!!ワハハハハ!...良かろう、今は退いてやるわ」


レイは人の姿に戻っていく。


「うっぐ...み、ミライさん、俺どうなって...」


レイは意識が遠のき倒れてしまった。


「...さて、シズクさんと言いましたか?悪いけど死んで貰いますね」


「な、何故...何故貴様が生きている!」


「あ〜、急所を取ったのに疑問でしょうね。でも貴方が知る必要はありません。銃」


自身の死を悟ったシズク。


「...貴様達奈落は、この世にいてはならない存在だ、、、俺が死んでも、クドウさんやあの方が!決して貴様達を逃しはしない!!!」


パァン!


シズクは倒れ、地面には血が広がっていく。ミライはレイを担ぐとその場を後にした。


それから数時間後、レイは心地良い風に当てられて目を覚ました。ライガーがレイを抱え、背中にはキャバ子が乗っている。どうやら飛んで何処かへ向かっている様だ。


「あえ...?何処に向かってんだ...?」


「目が覚めたか。説教と説明は後だ。黙ってゆっくりしてろ」


「...あい」


「なあキャバ子悪夢見たんだが?!でもまだ眠い!眠らせろ!」


「お前も静かに捕まってろ」


しばらくすると目的地に着いたようだ。そこはボロボロの平屋だった。かなり荒れ果てている為廃墟に違いない。


「ゲェ〜、俺が前住んでた所よりひでーなこりゃ、で?何すんの?」


「掃除だ」


レイとキャバ子は同時に嫌だと騒ぐが、強制的に掃除を手伝わされた。日も暮れて夜になった頃にようやく掃除は終わった様だ。


「はぁ...一年分は働いたぜ...大体何で引っ越し先がこんなんなんだよ!」


「そうだ!もっとこう、ゴーテーに住みたい!」


「やかましい!大体レイ、お前が騒ぎを起こしたから!」


ガララララッ


建付けの悪い玄関が開く音がした、そこにいたのはミライだった。


「急な事で悪かったね皆」


「いえ、エクソシストにもバレずに到着出来たと思います」


「うん、私もバレてないと思う。それでレイ君とキャバ子ちゃんにも説明するね。今日からここで四人で暮らす事になりました。何故か電気だけは通ってるみたいだから、お風呂も入れるよ。私達の場合は生活に困らないから安心して」



「お風呂ッスか!うわー久しぶりだな!案外良い家ッスね!」


「おいレイ!お風呂って何だ?!」


「はぁ?!キャバ子風呂知らねーのかよ?!」


「う〜ん、キャバ子ちゃんとレイ君は最初だけ一緒に入れば?体の洗い方とか教えてあげなよ」


「(え?!それってまさか、一緒にって事は?!)わかりました!全部俺に任せてくださいよ!」


レイとキャバ子は風呂場に走って行った。


「...ミライさん、全然平気そうですが、エクソシストとの戦いで怪我とかしませんでしたか?」


「うん。私は無傷だよ」


「そうですか。どんなエクソシストだったんですか?」


「猫又だった。武器は棍棒を使っていたね。レイ君はスピードがかなり早いけど、猫の柔軟性と反射神経に圧倒されてしまってたよ」


「身体にまで天子の加護を纏えるという事は相当の手練ですね」


「そうだね。でも一つの脅威は消えた訳だし、暫くはここで身を隠そう」


「はい」


一方、いわき市のとある大型病院では緊急手術が行われていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る