第3話 それは悪か
「(あー、死んだなこれ、色んな思い出がよぎってい...あ、ポンタだ。そうか、あの時ーー)」
通帳の記載が見えている。
「おぉー!キッチリ保護費が入ってるぜー!これで半年連続だ!何も滞納もねーし、案外生活力あるんだな〜俺って!」
ポツ、ポツポツポツ。
「ゲ!雨降ってきやがった!急げー!」
レイは走って家に帰る。すると玄関にダンボールが置いてあった。
「ん?何だこりゃ」
「クゥーン...」
「おわ?!捨て犬?!俺ん家に!」
グルルルル...捨て犬は腹を空かせている様だ。
「あ!ダメだぞ!これは俺のサンドイッチだ!お前も親に捨てられたんだろうけど、俺だって一人で立派に生きてんだぜ!お前も飯と家くらい...」
「(あれ...俺って月々の支払いしてるだけで、何を努力したんだ?)」
「クゥン...」
「は!ダメだダメだ!飯はこれしか買ってないんだ!それに保護費は少ねーし飯も高いんだ!雨止むまでは玄関に入れてやるけど、晴れたら出てけよ!」
そう言うと捨て犬を玄関に入れてあげた。
「...クゥン」
「ん〜...ジトーと見つめやがって...食いづらいんだよ」
お互いジーっと暫く見つめ合う。
「あー!わぁったよ!今回だけはメシ奢ってやらぁ!」
そう言うと捨て犬の前にサンドイッチを置いてあげた。捨て犬は目をキラキラさせながら、ワフワフと飯を頬張った。
「ぷッ!そんなに勢いよく食ったら喉につま...」
「グ、ワウウウ...!」
「馬鹿!ほら水水!飲め!」
ゴクゴクと水を飲ませた。きっと犬の飲み方じゃない。
「クゥン...ワン!ワン!」
「あははは!危なっかしい奴だな!」
「(ははっそうだ、ポンタは捨て犬だったんだっけ。このあとポンタって名付けて家族になったんだ)」
「食費が足りない?!何で!今まで生活出来てたじゃないか〜」
「すいません...」
「はぁ〜どうせ羽目外して遊んだんだろ?君ね〜、保護費は私達の血税なんだよ?立場を弁えたらどうだ?」
「...はい」
「はぁ、仕方ないから前借りね、ほら、これで今月乗り切りなさい」
「え、あ、あざっす!」
「(一人の生活費では足らねえよな...ポンタの事は隠してたんだ。ポンタは美味そうに飯食うから、ついあげすぎちまったな)」
「ポンタ!何でまた外行って暫く帰って来なかったんだよ!心配したんだぞ?!ずっと家にいろよ!」
「クゥ〜ン」
「(そういえばポンタは何処に出かけてたんだろう、結局、最期までわからなかったな)」
「なぁポンタ、もし俺がいなくなったら、タンスの中に買い貯めたドッグフードで暫く凌ぐんだ。水道もすぐ止まっちまうから玄関の壺を外に出して、雨水飲むしかねえな。後は、金持ちそうな大人にめっちゃ可愛子ぶって拾って貰えよ。俺にはポンタしかいねーからさ、万が一の時はお前だけが心配なんだ。約束だぜ!」
「クゥン?」
「(まさか一緒に死ぬなんてな、ポンタ、思い出だけじゃなくて、お前に逢いたいよ。抱いたまま死んだだろ?せめて温もりだけでも感じれねーかな...)」
「い」
「?!」
「レイ、しを聴いちゃダメ、だ」
「ポンタ!?」
目の前には先程の灰色の狼がいた。狼はゆっくりと話し出す。
「貴様に問う」
「ポンタ...は?」
「我ら姿なき者にはその者の魂の質により名が与えられる。貴様の家族は良い名が与えられそうだ」
「何を言って...ゴホッゴホッ!」
「我等は人が憎い、都合良く祀り、都合が合わねば捨て、祟りを恐れ、人の為に我等を殺す。我等は人の所有物にあらず。貴様は、人の味方か?」
「俺も...シャカイフテキゴウシャだから殺される、親の顔も、ゴホッ!何も俺には...わからねえよ...」
灰狼はニヤリと口角を上げると話を続けた。
「貴様は未熟だ、経験も知識も乏し過ぎる。若さ故以上にな。貴様は善悪すら判別がつかないのではないか?フフ...正に天命よ!」
灰狼は嬉しそうに遠吠えをした。
「...はぁ?」
「良いか人の子よ、今から私は貴様の心臓になろう。貴様の肉体はより強靭になり、立派な牙が生え、人狼となるだろう!」
「ポンタに逢いたいから...俺はこのまま死にたいんだ...」
「フン、仇も取らず犬死にか?」
「え?」
「貴様を襲った男は死んだが、彼奴をそこまで狂わせたのは人間社会だろう。この世が憎くないのか?」
レイは考えると、マグマの様な錨の激情が湧き上がってきた。
「...ゆる、せ、ねえぇ!!!」
「家族へ会うのは使命を全うしてからでも遅くは無い。さぁ!心で認めよ!私と一つになる事を!」
レイはそっと目を閉じ、深呼吸をして集中した。
「(...ポンタ、今までありがとう。暫く会えねーけど元気でやれよな。俺は...こん世の中道ずれにしてそっちに行くぜ)」
そこでレイの意識は飛んだ。
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