第3話

 この世界で20日間ほど過ごしてわかったことがある。

 まず、この街にいる人はゲームと同じで一定の決まった事しか話さない。

 例えば武器屋で武器に関する質問や会話などをすると適切な返答が返ってくるが、全く関係無い話をすると「わからないよ」等の返答が返ってくる。

 これは宿屋や酒場などでも同じである。

街を歩いている歩行者であれば街に関する質問は適切な返答をしてくれるが、それ以外は「わからない」「出来ない」などの返答しかしてくれない。NPCというやつである。


 もしかして他に仲間になってくれる人はいないだろうか?と思い酒場の冒険者などに声を掛けたが同じような返答しか得られなかった。

(せっかく異世界で冒険をするならばアニメのように自分以外女性のパーティーなどに出来ないかと思ったが、その夢は打ち砕かれてしまった)


 どうやらゲームの流れに沿った行動しか出来ない様である。

 天使も凄い世界に飛ばしてくれたものだ。事前に少しくらい聞いておけばよかった。


 今シモンに出会う為レベル上げをしているが、あいつも同じ様なことしか喋らなかったらどうしようか。冒険の途中で鬱になる気がする。

 今までの生活ではあまり気にしていなかったが、人と会話できないのは凄くストレスの溜まることなのだと気付かされた。


 それはさておきレベル上げは完了したので俺は新しい武器と防具を購入・装備して迷いの洞窟に向かった。

 洞窟までも迷わずに来ることが出来た。

小学生の記憶でも意外と覚えているもんなんだな、と一人で感心した。


 洞窟の内部も道は覚えていたので、スムーズに進めた。途中の魔物もレベル上げをしっかりとしたおかげで難なく倒すことが出来た。


 そして洞窟最深部へと到達した。

誰かが魔物と戦っているようである。

そう彼こそが待ち望んでいたシモンである。

 赤髪で少しヤンキーぽい感じの見た目の男である。

 戦っている魔物はこの洞窟のボス的存在である岩の魔物ミツイシだ。

「困っているようなら力を貸すよ」

「誰だかわからねぇが、悪い。よろしく頼む」

 俺はシモンの助けに入った。


ミツイシが現れた。

早速戦闘開始である。

ソーマは連続斬りを放った。

ミツイシに30のダメージ。


 レベル上げの途中で得たスキルポイントを剣スキルに振り分けて俺はいくつかの剣技を覚えていた。

 目標レベルまで上げていたおかげで結構なダメージを与える事が出来た。

この調子なら余裕そうだ。


シモンは盗むを使った。

しかしミツイシからは何も奪えなかった。


???

シモン何やってんだ?


 そうだ。思い出した。

このゲームは自分の行動は操作できるが、仲間の操作はできないのだ。


 その癖仲間のHPはこちらで管理しないといけないのである。昔ゲームをしていた頃は仲間が思った通りの行動をしなくてイライラした覚えがある。


 そんなとこまでゲームの設定を引き継がなくていいよ、天使様。

 その後俺は剣技とたまに回復呪文を使い、シモンは攻撃、攻撃、たまに盗むを使うという効率の悪い戦いを繰り広げなんとか勝利する事が出来た。

「誰かわからないけど、助けてくれてありがとな。魔物が強くて結構手こずってたんだ」

ほとんど俺が倒したようなもんだけど…


「俺はシモン。この洞窟で修行をしてたんだ。」

「俺はソーマ、冒険者だよ。よろしく。実はこの洞窟にはシモンに会う為に来たんだ。」

「ソーマか、よろしくな。で、俺にどんな用だ?」

「実は俺冒険仲間を探してるんだけど、酒場でシモンの噂を聞いて仲間になってもらう為にここまで来たんだ。」

本当は他の冒険者に声を掛けていたけど…

「なるほどな。丁度良かった。」

「俺も冒険仲間を探してて、さっき一緒に戦っている時俺達相性いいんじゃないかと思ったんだ。」

お前は盗んでただけじゃないか。


「一緒に冒険しようぜ」

シモンから手を差し出された。

俺はその手を握った。

「よろしくね」

シモンが仲間になった。


さて無事シモンは仲間になったが俺には緊急で確かめ無ければならない事がある。

「突然だけどさ。シモンはどんな女の人が好きなの?」

「なんだよ、本当に突然だな。俺は可愛くて巨乳の女の子が好きだぜ!」

「よっしゃーー」

俺は思わず叫んでしまった。

「急に叫ぶなよ。俺と好きなタイプが同じで嬉しかったのか?」

「あぁ、うん。そんなとこだよ。やっぱり一緒に冒険する人は自分と価値観が合う人がいいからね」

 嘘である。

 確かに可愛くて巨乳の人は俺も大好きだが、シモンと同じで嬉しいとかは全くない。

 むしろライバルが増えて邪魔なだけである。


 実は今の質問はゲームでは全く出てこない会話なのだ。

 俺はシモンがマニュアル通りの受け答えしか出来ないのか、それとも普通に会話が出来るのかを確かめたかったのである。

 そしてシモンは普通に自分の好きなタイプを教えてくれた。

 つまりパーティーメンバーとは普通に会話が出来ることが証明された。


 20日ぶりくらいの普通の会話に俺は涙が出そうだった。

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