第2話 9月14日の音

物音がする。

ガリガリと動き回る音がする。


それに気がついたのは眠る直前だった。

部屋の電気はすでに消しており、真っ暗な部屋の中で音だけがする。


体は強張り嫌な汗が背中を流れる。


それを知ってか知らずか、音の主はガリガリと動き回っている。


音は始めは天井の方でなっていた。

しかし、息を殺して音の出どころを探していると、少しずつ少しずつ移動しているのがわかった。


今では壁の方から音がする。

ガリガリと。ガリガリと。ガリガリと。


私は頭から布団を被ってやり過ごしたい衝動にかられた。だけど、怖さのあまり身動きができない。


それなのに、頭の片隅では音の正体を知りたいと思いはじめていた。


私は意を決して、布団から抜け出し音が聞こえる壁に近づいた。


壁に近づくほどに、ガリガリとその音は大きくなっているように思えた。


ついに、音がなっている壁までたどり着き、そっと手を触れてみたが、音の正体はわからなかった。


煩いくらいに鼓動がなり、恐怖と興味で興奮するなか、私はゆっくりと壁に耳を当てた。


そして聞いてしまったのだ。


『にゃー』


ああ、さよなら敷金礼金。ごめんなさい、大家さん。


どこから入り込んだのかわからないが、私は壁と壁の間に迷い込んだ子猫を助けるため、自分の意志で壁に穴をあけた。

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