B003_春に降る、桜の声

私の声が、聴こえるかい?

あはは、必死に無視してる。

もう遅いよ。目が合ってしまったからね。


返事をしなくてもいい。

ただ、ほんの少しの間だけ立ち止まって

話を聴いていてほしい。


私はね、君が先ほど眺めていた桜だよ。

桜の精霊、妖精……もしくは、

桜の木の下にはなんとやら……

自分でもよくわからないが、そんな感じ。


私の前で告白をすると必ず結ばれるとか、降ってきた花びらにキスをすると恋人と別れないとか、昔はそんな噂があってね。

結構人気の桜だったんだよ。


でもね、当然私自身は誰とも結ばれることはないんだ。

どれだけ他人の縁結びをしても、

私はずっと孤独に立っているだけ。


今も私の前をたくさんの人が通るけれど。

立ち止まってくれる人は、ずっといなかった。

昔と違って、もっと綺麗な桜がたくさん並んでいるからね。


だから、君が立ち止まってくれて嬉しかった。

噂なんて知らなそうな少年が、

花びらを手にとってくれたことが、嬉しかったんだ。


だから、声をかけてしまった。

……驚かせてしまって、悪かったね。

忘れてしまってもいいし、

また話を聴きに来てくれてもいい。

今度は会話をしてくれたら、もっといい。


何しろ、私はきっと、ずっと、ここにいるからね。


_____


人ならぬ存在を信じますか?

別に、見えた!とか信じろ!

とか言いたいわけではなく……、

いたら面白いな、素敵だなと思います。


時の流れは平等に見えて、感じ方は人それぞれ。


そんなことをテーマに考えた台本でした。

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