参
「それにしても、どうなってるの?」
私は、カトリの背中にある持ち手をにぎり、顔の高さまで持ち上げた。
「何がじゃ?」
「この体よ。どうしてこれで動けるの?」
陶器でできてるはずのブタの体は、触ってみると、なんだか柔らかかった。
ふにふにして気持ちいいので、ブタのほっぺたをつまんでみる。
「痛い……。何をするんじゃ」
「へぇ、触覚もあるの。すごーい」
本当に蚊取り豚と一体になってるらしい。私は、柔らかいほっぺたをびよーん、びよーんと引っぱってみた。
「こ、こら! やめんか! ひとの体で遊ぶでない!」
「あはは。ごめん、ごめん」
「まったく……。鬼のような小娘じゃ」
「それ、鬼火が言う?」
「鬼火からしても、鬼じゃ」
おかわりのスイカも食べ終えたカトリは、思い出したように言った。
「この体のことじゃが、器から特別な力は感じぬ。つまり……」
「つまり?」
「華、お主の力じゃろうな」
「私の力? ちょっと叩いただけじゃない」
「かなり強くな」
「けっこう根にもつのね……」
「華が儂にかけたのは、恐らく封印術の類じゃろう」
「封印?」
「華。お主は、陰陽師であろう?」
「陰陽師……!」
──って何だっけ?
「やれやれ。その様子じゃ、何も知らんようじゃな」
カトリが呆れたように首をふって、こう続けた。
「陰陽師というのは、占術や怨霊祓いをする人間じゃ。祓うだけでなく、封印術にも長けていたと聞く。戦乱の世のこと、かつてこのあたりをおさめておった人間は、あるとき病に倒れた。敵対する国々から自国を守るため、陰陽師を招き、自らの病の原因である怨霊を祓わせたという。以来、重用された陰陽師は、この地の吉凶を占い、また怨霊から人々を守ったという」
「えーと。それが私となんの関係があるの?」
「華。お主は、その時の陰陽師の末裔なんじゃろう。無意識にその力を使ったのじゃ」
「私が? うちは、普通の家だよ? お母さんもお父さんも鬼火見えないもん」
「とおーい昔の話じゃ。今はすっかり衰退して、見える人間もいなくなったんじゃろうな」
「……そっか。……ねぇ、その頃だったら、私と同じように見える人、もっといたのかな?」
私が聞くと、カトリは私の顔をじっと見て答えた。
「さあな。それは、儂にも分からぬ」
「そう……」
私が陰陽師の末裔……。
もしそれが本当だとしても、意味なんかないよね。
だって分かったところで、私がみんなと違うのは変わらないし。
同じ景色が見える人は、もういないんだから──。
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