第10話 男の誓い

 タッタッタッタッ。足音が誰もいない空間に響き渡っている。本当に客はみんな地下に行ったのだろう。

 「信~。どこにいるんだよ~?忘れて悪かったから出て来いよ~?」

 「そーだぞー。信ー。本当にどこにいるんだよう?」

 高生と義志斗がゲーセンに入って呼びかけるも、返事がない。

 「くそ~。どこにいるんだよお?楽屋か?放送室か?」

 高生が放送室に近づいていくと、先程起こったことが脳裏に浮かんできた。

 「そーいえば、アリスさんと何を話していたんだ?」

 「あ、」

 完全に忘れたと思っていたな。ははは。この津田高生から隠し事が出来ると思うなよ!

 「さあ、吐きな!!!!」

 「アリスちゃん、俺の推しだべ」

 そーだったのか。。。そんなこと知らなかったぜ。

 「で、どんなことを話したんだ?」

 「どの作品に出演していたのかっていうことと、俺がアリスちゃんを推してるっていうことだべ」

 いいなぁ……。推しに会えて、俺なんて………。

 「まあ、多分高生もすぐ推しに会えるよ。流石にそこまで神様も厳しくないよ」

 「そうであってほしいよ…で、アリスちゃんは何の作品のキャラクターなの?」

 「エロゲだべ」

 「はい」


 放送室に入ったが、信はいなかった。ただぽつんと放送の機械だけがそこにあった。高生が本当にどこに行ったんだよ???と思っていると、義志斗が、こう提案した。

 「放送して呼び出ししないか?そうしたら信もでてくるやろ」

 「そーやねぇ」

 これは結構大事な選択になるんじゃないか?なにか嫌な予感を高生は感じ取った。今から魔物が来るというのに、放送なんてしていいのだろうか?と高生は自分に問っていたが、義志斗がマイクを取って放送し始めた。

 「迷子のお知らせをします。辻原信くん。お連れ様がゲーセンで待っています。ですので、至急ゲーセンに集合して下さい」

 判断早すぎじゃ~ん。えー!嫌な予感かんじなかったのー!

 「俺はここにいるよ!!!」

 信の声が聞こえた。なんだ、楽屋にいたのか。確認不足だったのか。と思いながら二人は楽屋に入った。

 「お前、こんなところで何をしているんだよ?早く地下に避難しようって放送したやろ?みんなお前のことを心配していたんだから」

 「うーん。あー。そーなのか。それはー大変だったね。うーん。でもやっぱり、ここにいたほうがいいんじゃないかな?」

 「どういうことだ?」

 「ほら、まあ、つまり、そういうことだ。今から何か始まるみたいじゃないか。何者かが攻めてくるんだとか。みんなでまとまっていたらまずいんじゃないかな?一つの場所に集まっていたら一撃でやられてしまうんじゃないかと思ってね。身を潜めておいたんだよね」

 ふーん。ちゃんと信も自分で考えて行動していたのか。意外としっかりしているんだな。と高生が感心していると、建物の地下から、ドスドスドスドスという音が聞こえた。

 「何の音だべ?これ?」

 義志斗はそう言ってからガラス張りの壁に外を見に行った。そして、「大変だあ。大変だあ」と言って戻ってきた。

 「もうドームが破壊されているべ」

 「なにぃっ?まさか、もう地下に怪物が現れたのか?」

 三人が焦っていると、床と壁のガラスにヒビが入っているのが確認できた。

 「う、嘘だろ……」

 地下から悲鳴が聞こえた。鮮明に。


 「は、早く地下に行かないと!」

 高生が階段に向かって走り出そうとすると、信が肩を持って止めた。

 「お前、死にたいのか……」

 「死にたくないっ!!どんなに体がボロボロになっても死にたくないよぉぉぉ!でもな、地下に公輔さんとのりかちゃんがいるんだぞお!アリスちゃんだって!」

 「行かねーと俺のアリスがやられちまうだべ」

 「ばかか!お前がなんとか出来るとでも思っているのかよ!」

 「進向に出来て俺にできないことがあるとでも?」

 「???」

 信はなんのことが分からずに首をかしげた。

 「アイツは入隊したんだよお!この世界の軍隊になあ!」

 「おい、それ、がちかよ…」

 「ああ、だから俺たちが、地下に行く理由は人を助けるためじゃねえ!進向を守るためだあっ!」

 高生がそう言うと、信を振り払って階段に向かった。義志斗もそれについて行き、二人は高速で階段を降りた。信だけは、ゲーセンで一人取り残されていた。

 「勝手にしろよ…ばか…」

 信の呟き声はパチンコ台の音でかき消された。

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