第11話 コミュ、崩壊

 高生と義志斗は、階段を降り、一階まで来た。しかし、地下に行く前に一階で足が止まってしまった。地下で「ギャー!」や「いやだぁぁぁ!」といった悲鳴が聞こえたからだ。そして、何と言っても二人の鼻を強烈な刺激臭が襲っていたからだ。地下に続く階段を前に、立ち止まっていた二人だったが、何やら外からも人の声が聞こえる。二人は、壁から外を見ようとすると、そのガラスの壁には、血の飛沫が当たっていた。おそるおそる二人が外を見ると、そこには予想もしない光景があった。


 まず、ドームの壊れていたところからアーム状になっている腕が伸びてコミュに入ってきていた。そして、その腕は、今、高生たちがいる建物の横に穴を開けて入っていき、その穴から地下にいる人達をつかんでコミュの外に連れて行っているようだった。つかまれた人が運悪く高い場所で落ち、そのまま亡くなっている人もいた。よく見てみると、アームはコミュの色々なところを襲っていて、大量の人たちが外に連れ出されている。軍隊の人たちが外でアームに対して銃を撃ったり、剣でアームを切ろうとしているが、全く歯がたたず、それどころか、アームでつかまれて連れて行かれていた。

 「そ、そんな、、、あんなに、明るかったのに………」

 「俺たちも連れて行かれるのかもな、、、ははは」

 二人は大量の人が連れて行かれていくのを見ることしかできなかった。

 「俺たち、どうしようか?」

 二人は、ぼーっと外で起きている地獄絵図を見ながら、自分たちには何もできないなと思い知らされていた。そうして、虚無感に襲われていたとき、外に見覚えのある男がいた。

 「進向………!」

 進向が外に出てアームと戦っていた。大きな剣を振り回し、アームを切ろうとするが、びくともせず、反動で吹き飛ばされていた。しかし、それでも立ち上がってアームに剣を振りかざしていた。

 「何でアイツ……あんなに頑張っているんだ……」

 「お、おい、高生、あそこ見るべ!!」

 義志斗が指さした先には、進向の推し、齋藤トアがアームに捕らえられていたのである。トアはアームの隙間から手を振って助けを求めている。

 「だから、アイツ、あんなに無茶してまでも……」

 「愛する人のためだべ。愛する人のためならなんでもできるだべ。たとえ、次元を越えてでも」

 そ、そうなのか?!

 「俺も戦うときが来ただべ。高生、さっき誓っただべ。一緒に戦うことを。もう忘れただべか?」

 「でも、こんなの相手にどうしたらいいんだよう?」

 「一人でできないなら二人、二人でできないなら三人で、知恵を振り絞って戦うだべ。俺もアリスを守るために」

 「そうか、じゃあ、行こうか、、、で、どうするんだ?」


 「こんにちは!」

 高生と義志斗は、二階にある軍隊の事務所に入った。狭いドアの先に広がっていたのは、赤いカーペットに高級そうなソファーと、真ん中に一輪の薔薇が飾られている高級机が設置しており、ソファーの上でセレブ感漂う女性が座っていた。その女性は横目で高生たちを見たあと、手に持っていたティーカップを口元にあて、啜った。そしてティーカップを机の上に置き、

 「向かいにお座り」

 と手招きした。そして、二人は、女性と向かいのソファーに座った。正面から見ると、鼻が高く、上品な姿をしている美人だった。三十路か二十代後半か、、、。

 「本日はどのような理由でここにいらしたの?」

 「僕たちを軍隊に入れてください」

 高生がそう言うと、その女性は、口角をあげて二人の顔をなめ回すように見た。

 「ふふふ。そのようなご要望で、、、まあいいでしょう。このご時世です。今は軍にも人手が必要でしょう。あなたたちには大事な戦力になっていただきますよ」

 「やった…!、、、でも、まず何をすれば良いのでしょう?」

 「そんなことは簡単です。そこに武器があるでしょう。それを持って外で人を救出するのです。簡単ではありませんが、あなたたちからやると言ったのでしょう。頑張っていただきますよ」

 二人が後ろを見ると、そこには、大剣、マグナム、スナイパー、弓など、様々な武器が壁に飾られていた。何個か空白の場所があるのは、誰か別の人が持っていったということなのだろう。二人は考えた結果

、高生は槍、義志斗は大剣を選んだ。また、義志斗は、何かをポケットに隠しているようだった。

 「防具は、この部屋の外にある服屋でもらってくれ。軍隊の紹介だと言えばすぐにもらえるだろう」

 「ありがとうございます。では、行って参ります」

 高生がソファーから立とうとすると、女性がそれを止めた。

 「ちょっと待ちなさい。まだ終わっていないわよ」

 「な、なんですか?!」

 「この誓約書にサインをお願いできる?」

 女性は、妖艶な笑みを浮かべ、高生たちに誓約書とペンを差し出した。二人はすぐにその誓約書にサインをした。

 「ありがとう。それではいってらっしゃい」

 女性が小さく手を振って、二人を見送った。


 二人が部屋から出ると、右手側に服屋があった。近づいてみたが、人の気配がない。やはり店員も逃げたのだろう。いや、やられたのかもしれない。そう考えていた高生だったが、そんなことをゆっくりと考えている場合ではない。今は一刻を争うときなのだ。

 「なあ、この火耐性つきの軽い服は?」

 服屋の奥から義志斗が二着緑色の服を持ってきた。サイズも大きく、今の服の上から着ても違和感がないくらい薄かった。

 「これにしよう!」

 それから高生と義志斗は、更衣室で、自分たちが今着ている服の上からその防具を着て、その服屋を立ち去った。


 一階に着くと、まだアームが人々を捕まえて外に連れ出していたことが、建物の中からでも確認できた。

 「や、やべえ、、、軍人が、、、」

 外の地面を見ると、たくさんの軍人が倒れている。なんて事態だ…。

 「俺たちも行こう!」

 そう言って、二人は遂に戦場に降りた。

コミュは破壊され尽くされていて、瓦礫が大量に転がっていた。足元を見ながらでないと歩きにくく、下を見ながら歩いていた高生だったが、義志斗が、空の上を指差して、「あそこをみるべ!!!」と言ったことで、高生が視線を上に向けると、衝撃の光景が見えた。

 「アリスとのりかちゃんと公輔さんが、、、捕まってる………」

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