【ショートコント】父と子
鵜川 龍史
【ショートコント】父と子
〔登場人物〕
子:優秀だがところどころ抜けている 上手(右側)
父:何かと息子に張り合おうとする 下手(左側)
子:なあ、父さん。相談があるんだけど。
父:お、なんだ? 何でも聞いてやるぞ。優秀な父さんに、何でも質問しなさい。
子:(鼻で笑いながら)優秀……?
父:おおっと、疑っているな、息子よ。
子:まあ。
父:父さんが、本当の父さんかどうか。
子:え? いや、そこ?
父:疑うのも無理はない。父さんがあまりにも優秀すぎて、自分のような凡人、いや、ゴミくず、いや、排水溝に溜まった抜け毛程度の存在にすぎない自分が、この父さんの子供であるはずがない、と思っているのだろう。
子:ちょっと待て。父さん、そんな風に僕のこと、思ってるわけ?
父:父さんが、ではない。お前が、そう思っているのだ。
子:うん。分かった。もういいや。
父:ちょーっと待ちなさい。相談は?
子:(雑に)解決した。
父:(突然、泣く)息子に見捨てられたー。ひどいよー。ひどい息子だよー。どいすこだよー。
子:どいすこ?
父:ひ「どい」む「すこ」!
子:分かりづらいわ! ってそうじゃなくて、父さんの方がひどいだろ。さっき、自分で何言ってたか、分かってる?
父:そんな昔のこと、忘れたよー。父さんが忘れてるんだから、お前も忘れて、水に流せよー。
子:これ、絶対に覚えてるやつでしょ。まあ、いいや。今に始まったことじゃないし。
父:相談してくれるのか?
子:するよ、するする。すればいいんだろ。
父:(満面の笑み)すればいいんだよ!
子:あのさ。俺、彼女できた。
父:な、おま……。ちょ……。ええ!
子:いや、それどういう反応……。
父:(頭を抱える)ええー! なんでだよー!
子:それ、何の嘆き? まあ、百歩譲って、娘に彼氏ができた、とかなら分かるけど。
父:そうだよな。お前には分かるまいさ。この父さんの悔しさが。
子:なんか、ごめん。俺、父さんのことも大事だから……。
父:(話聞いてない)この悔しさがー!
子:そんなに……。
父:父さんに初めて彼女ができたのは高二の時。それなのに、息子はまだ中三。畜生! 抜かされた!
子:ちょっと待て。
父:(不機嫌に)なんだよ。
子:いやいや。その、何? 愛する息子が自分の手を離れて、的なやつじゃなく?
父:なんだよお前。図々しいな。
子:(驚く)図々しい?
父:父さんより先に彼女作るのみならず、自分が愛されていると勘違い。これだから、Z世代は。
子:Z世代関係ないだろ。
父:関係あるわ! 悟飯も悟天もトランクスも、何の気遣いもなく父親を超えていきやがって! チチもブルマも、旦那より息子をかわいがりやがって!
子:(ツッコミっぽく)「ドラゴンボールZ」のZじゃないからー!
父:え、違うの?
子:(笑いをこらえながら)え、どういうこと? ボケたんじゃないの? 本気?
父:え、何のこと?
子:マジで? 「ドラゴンボールZ」世代だと思ってたの?
父:え、何? そんなーわーけ、ないじゃーんよー。
子:やばい、この父親、マジでやばい。
父:ば、ばっか。ばか、お前、ばか。そんなわけないって言ってんだろ。ばーか。
子:何回「ばか」って言うんだよ。それ、言ってるやつがバカ丸出しなパターンだよ。
父:あ、出た。出ました。「ばかって言う方がばかなんですー」だ。
子:いや、厳密には違う。
父:あ、負け惜しみ。厳密、とか、難しい言葉使いやがってよ!
子:厳密、難しくねえよ。
父:ほら、負け惜しんでる。負け惜しんでるー。負け、おしん、出る。おしん。出る。
子:おしんって何だよ。
父:昔、そういうドラマがあったんだよ!
子:知ってるよ。山形の貧しい農家に生まれたおしんの人生を描く、伝説的テレビドラマだろ。世界的にも有名な作品だよな。
父:なんでお前はそういうことまで知ってるんだよ。たまには父に鼻を持たせろよ。(鼻を掴みに行く)
子:(父の手を押しのけながら)鼻は持たない! 花だよ。鼻じゃなくて、花! フラワー!
父:え? 花?
子:まただよ。それ、本気で言ってんの?
父:ば、ばっか。ばか、お前、ばか。冗談に決まってんだろ、ばか。
子:なんか、気の毒になってきた。
父:そんなことより、何か相談があったんじゃないのか。
子:だから、さっき言っただろ。
父:なんだっけ。
子:彼女ができたんだよ。
父:(挙動不審に)そ、それがどうしたんだよ。彼女できたからって、何も偉くないからな。
子:俺、何でこの人に相談しようと思ったんだろ。
父:父さんが優秀だからだろ。
子:優秀だったら、とっくに相談、終わってると思うわ。
父:じゃあ、急ごう!
子:もう、なんか、いろいろ残念だよ。
父:早く! 急げって!
子:分かったよ。今度、初デートに行くんだけど、どこに行くのがいいかなって。
父:競馬場。
子:いや、中学生だから。
父:パチンコ。
子:中学生。
父:居酒屋。
子:あのさ……。
父:相手、一人暮らしとかじゃないの?
子:何? むかついてんの?
父:(うなずく)うん。
子:(まねしてうなずく)うん。……じゃねえ!
父:だって、悔しいじゃん。せめて、早く別れさせようと思って……。
子:ちっちゃい人間だな! そんなんで、よく母さんと結婚できたな。
父:それな。父さんも、なんでこんな人間と結婚してくれたんだろう、って本気で思うよ。
子:そこは謙虚なんだ。まあ、結婚できてないと、俺はいなかったわけだから、母さんに感謝だな。
父:いや、母さんと結婚した時には、お前、もういたぞ。
子:え?
父:あ、いや……。
子:え、どういうこと?
父:(目を逸らす)何でもない。
子:何でもなくないだろ! ちゃんと話せよ!
父:ごめん。父さん、お前の本当の父さんじゃないんだ。
子:(ガッツポーズ)よっしゃあ!
父:あ、そっちか。
(幕)
【ショートコント】父と子 鵜川 龍史 @julie_hanekawa
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