第159話 検証されるドラゴン

 「じゃ、即ぶれすー」

 現れた霧のドラゴンは依霞さんのゆるい指令に応え即座に魔物へと霧のブレスを吹きかけます。

 吹きかけられた植物の魔物は身体に霜が降り、凍りつき、動きが鈍っていきました。

 「魔力構築物もしくは有機物に接触した瞬間、気化する魔力の霧。大体凍る」

 なるほど……、直接冷たい物を吹きかける系の氷属性攻撃じゃなくて気化熱で冷やす系ブレス!レアいですね。

 ついでに、ニオイのもとも魔力系の物質だったのか、霧のブレスが周囲を薙ぎ払うと耐え難かった生ゴミ臭が我慢できる程度まで薄まりました。

 「後はドラゴンのPOP待ち」

 魔物が消滅するぎりぎり手間まで温度を下げると、霧のドラゴンを待機させたまま何処からともなくゲーム機を取り出してスイッチを入れる依霞さん。

 いやまって、何処から取り出したんですかソレ!?全裸レインコートですよね貴方!


 しかし、起動音が鳴り響く前にもっとめんどくさい音が鳴り響きました。

 空間が割れる例のエフェクトと、謎のぱりーん音。

 ドラゴンの登場エントリーです。

 ……いや待って?ドラゴンから薄っすらと青い光が立ち上ってるんですけど!?

 アデリーさんの魔法を受けて、私から発せられてる光と同じ色なんですけどぉ!?

 えっと、一応「我らが蘇えりし者レヴナントをあおくてらせ」だったので私達からは青く光って見えてもドラゴン自身は光ってるのわからないと思います。


 「あ、思ったより早い」

 今回ドラゴンが現れたのはスクランブル交差点の中心。

 「考察1・ドラゴンは建造物の上には現れない。まる……と」

 ふむ……、思い出してみれば確かに。

 フランスでもシンガポールでも香港でも、出てきたのは地上でしたね。

 唯一前回の鎌倉が東京湾の空中からの出現でしたが。

 というか、私とドラゴンがゾンビが光る魔法で光って見えてることはスルーですか依霞さん!

 「考察2・ドラゴンは知性があり、以下略……。……セヴンスさんと同じ色で青く光ってるから実験しなくても解ったし省略でいい?」

 アッハイ、良いんじゃないでしょうか?

 

 と、そんなやり取りをしている間にドラゴンはこちらへ向けて進行を開始しました。

 渋谷は道が広い方なので幸いビルなどが倒壊するほどドラゴンに接触・破壊されていません。いや、翼が当たってる壁面とかガラスとかはバッキバキですけどね!?

 「考察3・ドラゴンは人間と共謀していて、おつるさんの藤御簾を外から観察してる非魔力保有者の人間が居る。考察4・ドラゴンは魔生対の魔法少女を把握していて、金ドリルに必殺されるのを一番警戒してる。これを試す」

 そう言いながら霧のドラゴンとアイコンタクトを交わす依霞さん。

 二人が頷きあうのと同時に、ドラゴンはその姿を崩し深い深い濃霧となって私達の周囲を漂い始めました。

 ……いや、漂ってるんですが、これ私達からは目に映ってるはずの霧が一切邪魔にならないというか、透けて見えるというか。

 「えっと、セヴンスの日陰藤?真似た。中からは邪魔にならなくて外からは見えないオブジェクト。アイデアthxありがとう

 あー、なるほど。外からの視界だけ遮断する霧ですか。

 これで、ドラゴン周辺に居ると思われる存在の視界も塞いで出方を見るわけですね?

 

 私達が霧隠れすると同時に、急にその進行を止めるドラゴン。

 ……なんか、右下方向をやけに気にしてませんか?

 おっと、急にごまかすみたいに周囲を見回し始めました。

 「……どうやら、本当に協力者が居られる様子が見受けられますね」

 「中身がミラ達と同世代だと考えると、予想してない展開になった時仲間の方見ちゃうのは有り得る話よね」

 恐らく、こちらが見えなくなって状況判断に困ってのことなのでしょうけどちょっと迂闊でしたね。

 まあ、ミラさんが言う通り中の人はまだ未成年の女の子でしょうから致し方ないことだと思います。

 

 おっと、動きを止めていたドラゴンが再度こちらに向き直り大きく翼を振り始めました。

 多分、風で霧を吹き飛ばそうという考えなんだと思いますけど対策は大丈夫ですか依霞さん?

 「んp、この霧は濃霧の氷竜ミスト・ドラゴンの変身体。戦闘区域から勝手に離脱したりしない」

 言葉通り、ドラゴンの翼によってそれなりの勢いで風が吹いてきましたが漂う濃霧は吹き飛ばされることもなく漂っています。

 「んふー、流星の魔法の爆風にだって耐える」

 腕を組んでドヤ顔してるとこすいませんが、それを全裸透明レインコートでやられるとシュールさがですね!?


 「非魔力保有者の協力者が霧の内部まで入り込んで通信しようにも電波は魔物がまだ存在するので使用不能で、何らかの合図を送ろうとしてるならその人物が特定できるし、ドラゴンからしたら霧の中に真割さんが召喚されてて必殺パイルをチャージし始めてる可能性を考慮しないといけないと……。転移が1時間に1回な点を考慮したからこそ、ヘリで飛んできたんですね?」

 「本人と直接対面させるる方が早かったんだけど、真割さん夜勤だったから」

 まあ、夜勤明けで再度出撃は流石に女子高生の若さと体力でもしんどいでしょうからね。

 

 しばらく霧の固まりを睨みつけて動きを止めていたドラゴンですが、霧の展開と同時に真割さんが転移してきていた場合を考慮したのでしょう。

 再び謎の空間破砕を使用して離脱に入りました……が。

 「……セヴンス様、青い光が消えてございませんか?」

 ええ、理珠さんが気づいた通りいつの間にかドラゴンから青い光が消えています。

 まだ私が光ってることから考えて魔法の効果時間が切れたと言う事は無いはずです。

 疑問に思っているうちに、空間の裂け目へと飛び込んでドラゴンは消えてしまいました。

 「とりま、考察3はほぼ黒。考察4もまる……だと思う。光が消えたのはイミフ」

 んー、いや、なんか引っかかるんですよねぇ。

 ……あれ?いや待ってください。そもそもドラゴンが蘇えりし者レヴナントだと考えると何処で変身してるんでしょうか?変身して、空間ぱりーん移動してって流れでやってくると考えると鎌倉でわざわざ空を飛んでやってきた理由がわかりません。

 

 「なんか、運用上の問題を誤魔化して隠してる感じがするんですよねぇ……」

 思わず漏れた私のつぶやきに対して、鼻を押さえて涙目になっていた雛わんこがガバっと顔を上げました。

 「わかっ、ぶぇっ……」

 うん、薄まったとは言え臭いまだ残ってますからね。慌てないでいいですよ?

 気を取り直して、今度は鼻をつまみながら持論を述べる雛わんこ。

 「空間移動は嘘、人間が変身するのを隠したかった。空間を割るドラゴンの前に逃げてるから光ってなかった。人間ならデータも知ってる!」

 えーっと?

 「つまり、偽の映像を映し出せる蘇えりし者レヴナントとドラゴンに変身できる蘇えりし者レヴナントと藤御簾の中を確認したり撤退指示を出したりする担当の非魔力保有者が居る……で合ってます?」

 私の確認にぶんぶんと頭を振って頷く雛わんこ。


 あー、だからドラゴンが建物の上にいきなり出現とかはしなかったんですね。

 屋上で変身すると恐らく近くにいると思われる幻術担当の人とかが危ないでしょうからね。

 逃げる際も、幻のドラゴンを残して本人が先に変身解除して逃げている場合、知らなければ追跡するのはほとんど無理なんじゃないでしょうか?本体が逃げる様子も偽装されてる可能性が高いですし。

 非魔力保有者は協力者というより参謀とかいっそ首謀者とかでしょうね。

 何かの計画に対して有効な魔法を持つ蘇えりし者レヴナントが居たから雇ったとかそんな感じでしょうか?

 依霞の検証で色々判明したのは良いんですが、随分慎重で用心深い相手が立てた計画が動いてる感じがとても嫌ですね。

 あー、今回の検証で色々判明した事実に対して、相手が何がバレたのか考えて対策してきそうな予感がします。

 特に今回、ドラゴンが何もせずに警戒して帰るなんて場面を見せてしまったんです。ドラゴンを脅威として印象付けたいなら、代わりに早いタイミングで再度規模の大きい破壊活動を仕掛けてくる可能性は高いんじゃないでしょうか?

 

 「それはそうと、エラ、かんがえごとは魔物を倒してからにしたほうがいいんじゃないかって思うの」

 ……あっ!正直忘れてました!

 「おk、じゃあ終わらせる。おつでしたー」

 その後、再度霧のブレスを浴びた植物の魔物が完全に凍りついて砕け散るまで1分もかかりませんでした。

 臭いは魔力によって生成されていたので、魔物が死んだ後には一切残らず、私達も臭いに悩まされずに済んだことは念の為追記しておきます!

 ……念の為、みんなで一度お風呂に入りましたけどね!

 

 

☆★☆★☆★☆


対ドラゴン実験でした。

偽装する千疋狼、検証して偽装を剥ぎ取る魔生対。

これからドラゴン出現時の状況を再検証する羽目になってハイライトが死ぬ諜報班。

いい加減状況の釈明をしてほしいシアちゃん。

今後の展開は如何に


あと、なんかカドカワファンタジー長編コンテスト中間突破しました。

……中間はなんとかなるねん、中間は。

とりあえず、梅酒で乾杯します。ロマサガ2やりながら。


次回は死人が出なかったのでログ回……と思わせて

更新予定日が10月30日22時なのでハロウィン回としたいと思います。

死者が戻って来るとされる日に魔法少女達が如何に過ごすか。

お楽しみに!


 

 

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