第156話 救済は唐突に
「あ、セヴンス、粉チーズ取って」
「はーい」
えー、白さんのお家にお邪魔してですね?
あちらも私の存在に気がついたっぽいんですが……。
「なるほどね、後で素揚げしたじゃがいもを入れるやり方もアリね。煮崩れを気にする必要はないし、冷凍した後にあの妙に食感の悪くなった芋にゲンナリする必要も無いんだもの」
なんかこう、全員が全員誰から会話を始めるか牽制してるうちに白さんがご飯を作り始めて……。
流石に、家主に御飯作らせてる間に居候&お客が喧々囂々と騒ぐのも悪いじゃないですか。
なので、とりあえず料理を手伝い始めたらなんか、結局誰も会話の糸口が掴めないまま時間が過ぎてですねぇ……。
「でしょう?というか、私の記憶にあるコーンクリームシチューよりだいぶ美味しいんですが、何か隠し味とか入れてます?」
「お味噌と昆布茶」
「和風!?」
はい、まったりと食事タイムが始まってしまいました。
「む、これは……シチューなのか?私の知るシチューとは別物だ。……いや、しかし美味い。鶏肉とミルクとコーンでシチューにするなど考えたこともなかったな」
「ええ、美味しいです。パンともライスとも合うとはなかなか……」
「もぐ、もぐもぐ。もぐ」
あー……、やっぱり海外の方でしたか。
いや、実はこのクリームシチューってヤツ。こんな顔しといてほぼ日本食なんですよ。いわゆる魔改造品で改造しすぎて原型が無くなってるタイプの。
だから、海外の方からするとシチューと名がついているなんか知らない料理って事になるんです。
ましてや、白さんの隠し味が二種類とも和風アイテムでしたからね。あと適量入ってたコンソメスープと鶏ガラスープの元は白さん的には隠し味にすら含めない調味料って事ですねこの料理上手め!全工程横で見てないと何が起こるかわからない理珠さんの料理とは大違いです!
☆★☆
「で、多分セヴンスに会いに来たんだと予想して連れてきてみたんだけど、正解でいいのかしら?というか、最近何かとニュースで話題のアレよね?」
食後にコーヒーを頂きつつ(白さんはブラック、私はミルクのみ、ゾンビさん3人はカフェオレ)マッタリしていた所で白さんが会話のきっかけを用意してくれました。
……あ、そう言えば魔生対の魔法少女達には私は改造の結果魔力で生きてる謎の生命体になったみたいな説明で終わってたんでしたっけ?
私の心音とか心拍数とか体温とか、一部の人間にしか伝わってないみたいですし?
だとすると、白さん的にはなんか私と同じ様な魔力の波長してるし体温とか環境とかが復活直後の私の環境と似てる気配を感じて保護してたって感じでしょうか?
うーん、このお人好しめ。
……なんかブーメラン刺さった気がしますけど気にしません。
とりあえず、誤解があると今後の会話の内容で要らぬツッコミが入りそうなのでバラしておきますか。
「あ、えっと私の身体、実はその、彼女達と同じ体質でして……」
「知ってる。というか、初期の貴方の様子なんてみんな追っかけてたんだし、そこから推測出来ないほうが可笑しいでしょ?」
アッハイ。
そもそも復活して一番最初に状況を説明した相手が白さんでしたもんね。
で、そこから変身を解かないゾンビ達がテロを起こしたニュースが放送されれば気が付かないはずはないですよねぇ。
まあ、説明の手間が省けたと思っておきましょう。
「で、なんでセヴンスを探していたの?」
「いや、そのだな。我々は元いた国で疎まれる存在になってしまっていて……。教えて欲しい、魔女セヴンス。貴方はどうやって社会に認められる立場を手に入れたのだ?」
……んー?えっと?
「
つまり、なんか同じゾンビなはずの私が日本で
うーん?
「特に、なんか特別な事してましたっけ私?生きていく為の魔力を貯めるために魔物を乱獲したぐらいですよね?」
……なんか白さんの視線がめっちゃ痛いんですが?
「このバカの自覚が無いみたいだから私が代わりに説明してあげる。このおバカはね?この状態になってから私の友人に保護されるまでの間、ほぼ全ての魔物との戦闘に助太刀して、お礼はご飯1食分しか貰わずに、家も現金も連絡手段も、何にも持たずに暮らしてたの」
まあ、生存用と復活用の魔力確保したかったですし?戦闘自体もほら、魔法使うの楽しかったので。
現金その他は生き返ってから魔生対に登録してでいいかなーって……。ほら、ブラック企業生活の頃よりは充実してましたし?
ゾンビ娘さん3人衆からドン引きしてる気配を感じるんですが何故でしょう?なんというか、苦境は想像してたけどそこまでとは考えてなかった的な感じでしょうか?
「だからね?こいつの場合は、自分の存在を認めさせたとかじゃなくて……。自分がものすごく苦労してるであろう立場なのに、そこを一切主張せずに助けてくれるものだからみんなが見兼ねて手を差し伸べたって感じなの。まあ、他の国と違って戦闘映像が基本的には全部公開されてるってのもあるだろうけど」
「その、生前の生活に戻ろうとか、家族や友人達に助けを求めたりとかは……?」
あー、そうですよね。普通のゾンビは死んだ直後にイツァナグイが来て復活させてるんですよね。
となれば、最初に考えるのは親に合う事ですよねぇ。強盗にあったとかじゃなければスマホとかも無事でしょうし……。
「えっと、私の場合は死んでから……いや、仮死状態になって冷凍保存されてから復活まで10年間が空いてましてですね?自宅が別の建物になってるわ友人知人が何処に居るかさっぱりわからないわ連絡手段なんて無いわでその辺考えるだけ無駄だったんですよー」
「ちょっと待って、10年間冷凍って話私初めて聞いたんだけど!?」
あ、これ伝わってませんでしたか。まあ、ここで実年齢とか誘拐とかの話を出すと脱線しそうなので辞めときましょう。
「で、10年寝てたんで魔生対って組織が安全かどうかわかんなかったんですよねー。心音も体温もヤバいのは自覚があったんで、こんな状態で政府機関に登録しに行ったら実験動物扱いなんじゃ?って超警戒してまして。となれば、生き延びるためには宿無しのまま魔物を狩りまくるしかなかったわけですよ。で、自分の都合で魔物を狩ってるのに報酬を要求するのって気が引けるじゃないですか。ご飯はまあ、空腹が不快だったので流石にちょっと、コレぐらいは良いかなって要求しましたけど」
あれ?ゾンビ3人からの視線がドン引きを通り越して珍獣を見る視線になってきてるんですが?
「な、なるほど?……困った事に全く参考にならないという事がわかった」
「アデリーちゃんごめん、これは私も流石に予想してなくって……」
「いえ、オフィリアが悪いのではありませんよ。魔女セヴンスの思考回路が常人とかけ離れていただけです」
そこまで変ですかね?というか、本人の眼の前でそれ言いますぅ?
しかし、逆に彼女たちはどうして社会的に認められてないんでしょう?
あ、もしかして……。
「えっと、貴方達3人はヨーロッパの方の出身だったりしますか?」
私の問に首肯する3人。
となると、やっぱりこれは地域性というか、宗教上の問題ですねぇ……。
彼女たちの出身地で一般的な宗教といえば原罪教なわけですよ。
となると、死からの復活は信仰対象たる大工の息子の起こした奇跡なんですね?
一応、他に何件か死者の復活的な話も彼らの聖典に記されてますがそれにしたって聖人が神の手によりーみたいなヤツです。
特に何かすごい行いをしたわけでもないミドルティーンの少女が適当に復活したのを認めるわけにはいかないんでしょう。
となれば、自ずと扱いがアンデッド系の魔の者扱いになって……。
うーん、生きづらそう。いや、死んでるんですが。
「やはり、我々はこのまま復活に足る魔力を得るまで日陰暮らしか……」
ゾンビ3人のリーダーと思しき少女が暗い顔で俯きます。
はえ?日本までやってきて白さんに保護されといてそんな流れはありえませんよ?
「いや、私と同じ立場なんですから、私と同じ扱いになればいいじゃないですか」
「まあ、そうよね?そもそも、私達と貴方達3人が違和感なく会話できてるのだってそちら3人の誰かの魔法でしょう?この上なく便利じゃない」
あ、言われてみれば日本語で会話が通じてるのも変ですよね。
「えっと?ハクさん、どういう事ですか?」
あ、そう言えば結局白さんが魔法少女だって事まだ言ってなかったですね。
「魔法少女ホワイト・ラビット及び魔女セヴンスの推薦で、魔生対に貴方達の保護を要求してあげるって事。異論があって?」
「少なくとも家とご飯の心配はもう必要無いですからね?生き返るまで一緒に頑張りましょうね?」
なんかその後は3人で固まってボロボロ泣き始めてしまいまして……。
そりゃ、普通の高校生が魔物を狩らないと生きていけない体質にされて周囲から拒絶されてたら辛いですよね。
で、急にそんな環境が解決するかもって話になったら今まで抑えてたものが吹き出してこんな感じになるのもまあ、致し方なしでしょうか。
……というか、シアちゃんとイツァナグイ!アフターケアどーなっとるんじゃー!
特にシアちゃん!例のテロニュースが頻発し始めてから一切姿を見せないとか!
これ絶対怒られるのわかって逃げ回ってるでしょ……。
☆★☆★☆★☆
実はオムライスも日本食です。
ということで、良い子ちゃんゾンビ3人の保護が確定しました。
そして逃げ回ってるシアちゃん。
倫理観が人間のものじゃないのでしょうがないですね。
次回は魔生対入り自己紹介回かな?
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