第151話 魔法少女VS災害対策基本法

 えっと、こういう場合最初に何すれば良いんでしょうか。

 ざっくりとドラゴンがした地点に発生した被害をなにかに例えるなら……。

 最近の怪獣王の放射熱線による破壊規模には一段劣りますが、が出来る程の威力といえば伝わりやすいでしょうか?

 集合住宅や雑居ビルなどの耐震構造入りの頑丈なジャパニーズ建築物ですが、流石に巨大質量が横合いからぶち当たるような衝撃には流石に耐えられなかったらしく傾きはじめていて倒壊は免れない状況になっています。

 さしあたって、私に出来ることは建物の補強ですかね?ミラさんにも手伝ってもらって、倒壊を防ぐまでは無理でしょうけど被害を減らすぐらいは出来るはずです。


 「セヴンス様、お待ち下さい!」

 そんな事を考えながら被害現場へ向かおうとした瞬間、理珠さんから静止が入りました。

 「魔法少女は対魔物に対してのみ全権を振るえる様に法律で縛られてございます。大変無念ではあるのですが、自衛隊の災害出動と同様にの存在が齎した被害に対する救助活動は要請が出て初めて行えるものなのです!」

 法律の問題!?

 いや、確かに私達が好き勝手に現場で動き回った結果、正式な救助隊による活動の際にトラブルが発生する可能性は否定できません。

 なにせ、特殊な能力があると言っても魔法少女はほとんどがただの高校生です。

 良かれと思って振るった魔法で被害が拡大する可能性もありますし、これは仕方ないと言わざるを得ません。

 

 ……あ、いえ、これは邪魔になる可能性があるから手を出すなと魔法少女たちを掣肘する目的で制定されたのではなく、魔法少女だからといって災害現場で自然の脅威にまで立ち向かう必要はないという彼女達を守る為の法律だと考えた方が自然な気がします。


 要請があれば動けるということならば、魔物による電波妨害がなくなった直後にザマさんに確認を取ってもらってからなら動けるということでしょう。

 流石に、この今にも倒壊が始まりそうな建物を見ながら人命検索すら許されないというのは歯がゆいですね。

 こんな状況では、非実体化状態の無限の縛糸グレイプニールを壁に巻き付けておいて、その時に備えるぐらいしか出来ません。

 え?手を出すのは駄目じゃないかって?バレるわけ無いですし良いんですよコレで!

 本来なら、周囲のビルにも無限の縛糸グレイプニールを巻き付けて引っ張り合って倒壊を防ぐみたいな状態にしたいんですが、巻き付けた先のビルがダメージを受けてない保証がないんですよねぇ。

 結果的に他の建物も一緒に壊してしまう可能性を考えるとちょっと手出しが出来ません。


 ドラゴン撤退から数分、恐らく5分も経過してないと思います。

 予めドラゴンが襲来し、被害が出た時に備えていたのでしょう。

 オレンジの服のレスキュー隊が到着し、救出作業を開始しました。

 ほぼ同時に、集合住宅の一棟が軋みを上げて傾き始めます。

 付近のレスキュー隊の方々が急いで退避し始める中で、ひしゃげたコンテナを持ち上げながら着弾地点の方向から走ってきた雛ちゃんがそれに気づきました。

 あ、ドラゴン戦終わってから何処に行ったのかと思ったら救助活動が出来ないからってソレを探しに行ってたんですね。

 「ん、倒れてくると

 重要な手がかりって自分で言っときながらその場にコンテナを放り出すと、イグニッションピアスを弾きながら倒壊寸前の建物へと走り寄る雛わんこ。

  「二重根源・再覚醒デュアルオリジン・リ・イグニッション纏装ペルソナ鬼神おにがみ神薙かんなぎ

 強化変身の後、傾いてる側から手を添えて重力軽減の魔法を発動させました。

 重量が軽減され残された構造で耐えられる様になったのか、一時的に倒壊がストップします。

 「コレで大丈夫。15分ぐらいは」

 ほあー、いつの間にやら自己バフから接触対象を含める範囲まで応用が効くように能力を成長させてたんですね。さすが雛わんこ。


 ……ってちょっと待ってください。

 そもそも二重根源状態って己の根源のみの混ざりものがない魔力じゃないと変身できないんじゃありませんでしたっけ!?

 新技術なのか、雛わんこがまためちゃくちゃやってるのかは不明ですが後で聞いてみる必要がありそうです。

 それはそれとして、証拠品が破損するのを防ぐためにちょっと建物の倒壊を止めただけという言い訳で救助活動をするとか、誰かさんの狡さが移ってる気がしますね?

 倒壊が止まった集合住宅からは逃げ遅れた住人が……、あれ?おばさん一人と犬一匹しか出て来ませんね?

 これ、もしかしてドラゴン襲来を警戒して最初からめっちゃ広範囲に避難指示出てました?

 もしそうなら、ドラゴンによる人的被害はかなり少なく済む可能性があります。行政側もいい仕事するじゃないですか。


 『お電話です。わたくしが代わりに出ましょうか?お電話です。わたくしが代わりに出ましょうか?』

 おっと、そんな事を考えていたらスマホに着信です。あ、ザマさんですね。ちなみに、着信音は魔生対から配信されてる理珠さんの声になってます。当然ですね?

 え?私の着信ボイス?ありませんよそんなの。魔生対への正式登録だってまだ宙ぶらりんの状態ですからね、未だに善意で協力してる一般魔法少女扱いです。

 「もしもし、私メリーさん」

 「それ、電話取る側がヤるネタじゃないでしょう!?とにかく、自衛隊及び魔法少女による災害派遣の許可が出ました。魔生対所属の魔法少女は現地の自衛隊及びレスキュー隊の指示に従って対応を開始してください……って通達しておいて!あと、追加の人員ももうすぐ到着すると思うからよろしく!後、アンタは好きに動いていいから!」

 

 あ、理珠さんの方にも魔生対職員の方から電話が行ったっぽいですね。

 配信されてないけど欲しいからって、生録音させられた私の声の着信音が鳴りましたもん。

 ほぼ同時に、自衛隊のヘリのローター音が聞こえてきました。

 もうすぐっていうか直後じゃないですか。これも事前に準備してたっぽい感じですね。

 まあ、救助活動の許可が降りたのでとりあえず動きますか。

 指示に従ってとは言われてますが、あちらさんも私達の魔法の用途を完全に把握してるわけではないでしょうし、物理的に影響のないものは先に使っておきましょう。


 「ミラさん、騎士達に人命検索をさせることって可能ですか?」

 「任せて!ミラの騎士団は優秀なんだから!」

 言うが速いか、目を閉じて静かに詠唱を開始するミラさん。

 ちょっと得意げなのがとても可愛いですね?

  ──概念コンセプツァ指定オブズナチーネ救護ミエーディェカ騎士団リツァレイ整列ストロイツィス!──

 今回呼び出されたのは、女性的なシルエットを持つ軽装の騎士達。

 武器は持たず、ミラさんが渡した白十字の腕章が存在を規定しているようです。

 

 『白翼騎士団リッツァレイ・イス・ビェリークリーリャ


 「被害地域の救助が必要な人命の捜索を開始、さしあたって雛さんが支えてる集合住宅から開始して!」

 ミラさんが命令を発すると同時にかなりの速度で駆けていく亡霊騎士達。

 衛生兵モチーフですかね?さすが私の義妹いもうと、便利な魔法です。

 

 ──つるよ、つたよ、蔓延はびこり育て、かたぶいわおを飲み込みて咲け──

  

 『藤花綱ふじはなづな幽家かくりや

 理珠さんは理珠さんで、藤の木が複数の建物をまとめて補強するように育ってその近辺の安全を確保しています。

 おおー、みんな地味に戦闘以外でも使える魔法持ってるじゃないですか。

 

 そうこうしてるうちにヘリが到着して自衛隊の方々と魔法少女の皆が降りてきました。

 えーっと、来てないのは新人の八瀬さんと夜勤担当の初雪さん、今日は変身できないって嘆いてた一文字さんと本日のメイン担当だった如月さん。あと、流石に海外から出向してる人に業務外の仕事はさせられないって理由だと思われるココさん?でしたっけ。

 ……ところで、最後に降りてきた黒いセーラー服で黒髪ロングのお嬢さんはどなたです?



☆★☆★☆★☆


倒壊する家屋や瓦礫を撤去する際にクモ糸はとても便利だと思う男、ス◯イダーマッ!

京都から参戦した魔法少女。一体何の根源持ちなんだ……!?

ちなみに、災害派遣においてべにーちゃんは出禁です。


とりあえず、魔法少女って扱い的に個人で兵器に準ずる扱いなので法律で活動が規定されちゃうと思うんですよ という話。

あとまあ、高校生が思うがままに魔法を使って逆に被害が大きくなったらトラウマもんじゃん?という悲劇を防ぐための法律でもあります。


次回は救助活動その他ですかね。



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