第139話 これ、ご褒美だと思う。
世界は偶然で出来ている。
地球が太陽系の
神はサイコロをぶん回すし、シュレディンガーの猫は箱を開けるまで生死不明だし、今この瞬間、私がつまらない話で眠気を誘われて、起きたらセヴンスさんに膝枕されてたのも偶然。
「で、結局信者一人一人に
「あー、で、咫村崎センパイの所属が魔生対だから信者さん達の状態確認報告書がザマさん経由にならざるを得なくなって無駄に仕事が増えてたんですね?ご愁傷さまです」
「流石に、口頭で確認して報告書作成から信者の処遇まで普通は警察側でやるべきじゃないの?って文句は投げたんだけどね?あっちはあっちで政界財界からそこそこな数の元信者が『洗脳されて資産を奪われた』って名乗り出てきたらしくて、そっちの調査で手一杯だったみたい」
頭の上で心地のいい声が私に関係ない話を繰り広げてる。
膝も温かいし、時折頭を撫でる手が気持ちよくて、私はもう一度夢の中へと旅立つ。
あれ?そもそも私は何で羽佐間室長の執務室に来たんだっけ?確か、純魔結晶の新しい使い道をシアちゃんと二人で考えたから、在庫の純魔結晶の使用申請を出しに行って……、途中でセヴンスさんと出会って……あ、駄目だ。おやすみなさい。
次に目が覚めると、そこは羽佐間室長の執務室の隣、応接室のソファーの上で。
時間は夜の8時、我ながら流石に寝過ぎだと思う。
相変わらず、頭はセヴンスさんの膝の上にあって……。
月明かりを浴びた深紅の瞳と銀糸の髪が、ゾッとするほどの美しさで私の顔を覗き込んでた。
「あ、やっと起きましたね。これは、今夜はこの部屋に泊まる羽目になるんじゃないかとちょっと心配してたところでした」
「起こしてくれても良かった……」
好きな人に迷惑をかけて、申し訳無さそうに呟いた私の唇をセヴンスさんの人差し指が塞ぐ。
「良いんですよ。私だって偶には理珠さんやミラさんから離れて一人で物思いにふけりたい日だってあるんですから」
いつも、映像の中や人前で見せる姿より、もう少し肩の力を抜いた……というより、カッコつけるのをやめたセヴンスさんの珍しい姿。
「セヴンスさん……」
思わず呼び掛けた口に、再び人差し指が落とされる。
「優希です。白井優希。偶に理珠さんやミラさんが呼び間違えてますし、知ってますよね?」
うん、知ってる。けど、あれはセヴンスさんの身内だからこそ呼んで良い名前であって、私は……。
「雛ちゃんは、呼んでくれないんですか?」
その顔はずるいと思う。寂しそうなセヴンスさんの、ううん、ゆうきさんの顔は一瞬たりとも見たくないから。
「ゆうきさんは、どうして?」
どうして、貴方に何かをしてあげられた事も無い私に、私の想いに、気がついてくれるの?
全部は、言葉にできない。気が付いてない可能性もあるし、水流崎さんが居るのに私の想いは伝えちゃいけないと思うから。
「雛ちゃん、知ってますか?女性同士は、結婚できないんです」
うん、まだ法律が出来てないから結婚できないのは、知ってる。
「つまり、結婚できないってことは一夫一婦制にこだわらなくていいって事なんです」
……ん?
「よって、私が何人の女の子と度を越して仲良くなっても、法律上は何の問題も発生し得ないんです」
いや、まって、そういう話じゃない。
「というかですね!?妹って事にしてなんとか距離を保ってま……保ててませんが!あの信仰と恋慕の混じった想いに対して『理珠さんが居るので、ごめんなさい』とか言えます!?言えませんよね!?じゃあ、もう他の子がその気になっちゃったのなら受け入れるしか無いじゃないですか!あの子が先だったから駄目!なんて可愛そうでしょう!?」
ゆうきさんがメチャクチャな事を言ってるのはわかる。
だけど、出会った順番、印象に残る出来事の順序だけで私も、他の子の想いも全部お断りされるのは確かに不公平だと思う。
……いや、うん。
これ、純粋にゆうきさんが優しすぎて断れないだけだよね?
浮気性とか、優柔不断じゃなくて、自分に向けられた好意を無碍に出来ないっていう優しさ。
そういう所が、更に人を引き付けちゃうと思うんだけど……。
「だから、えっと、雛ちゃんはどうしたいですか?」
どうしたい……と言われても、困った。
ゆうきさんにされたいことが、撫でて欲しい、抱きしめて欲しい、構って欲しい、と、まるっきりペットみたいに可愛がって欲しいって思いしか出てこなかったから。
恥ずかしくて、その、言えない……。
というか、今この瞬間の膝枕されながら頭を撫でられてる状態が幸せすぎて……。
「ふむふむ……」
頭を撫でながら私の様子を観察していたゆうきさんが、何かに納得したように頷いた。
「雛ちゃんはアレですね?寂しいんですね?」
同時に、背中に手を回されて身体を起こされてぎゅっと抱きしめられる。
うあ、これすごく、安心する……。
「勉強も、戦闘も、なまじ一人で全部できちゃうせいで他人とあんまり関わってこなかったでしょう?頼ってこなかったでしょう?中の人はこんなに寂しがりやなのに」
ゆうきさんの、常人より低いはずの体温がすごくあったかくて気持ちいい。
言われてみれば、前に誰かに抱きしめられたのっていつだったかな。
何かに満たされて、どんな感情由来なのかもわからない涙が頬を伝う。
脳内に
尊敬する人に、好きな人に抱きしめられてる、それだけで。
そっか、私、こういうのが欲しかったんだ……。
ぬくもりの心地よさに
……前回は、えっと、とても酷いことになったけど、あ、うん、良いか悪いかで言うとすごく良かったんだけど。
もう一度、今度はちゃんと、キスしたいな……。
そう思ったときには、私の手は勝手に動いてゆうきさんの頭をそっと抑えて居て……。
拒もうとしないゆうきさんにほっとしながら、私達はそっと唇を重ねた。
ところで、ゆうきさんと水流崎さんが根源を共有出来るようになったのって毎日魔力を注ぎ合っているうちに根源の欠片が何らかの理由で混入して……という話だったよね?
お互い、同時に根源の一部が紛れ込むなんて偶然、流石にありえないと思う。
だから、多分こうやれば……。
魔力を注ぎ込む過程で、根源の存在を意識する。
多分だけど、普通は意図的に制御できるモノじゃないと思う。
だけど大丈夫、私は鬼の身体制御を一から作り直すときにそこに触れた時の感覚を覚えてる。
自分の意識の中心、そこに有る核を削って魔力に溶かし、唇と舌からゆうきさんへと流し込むそれにそっと混ぜる。
お互い十分な魔力を持った状態で行う魔力交換は、注いだ分だけ相手の魔力が自分に返ってくる。
そして、根源から注いだ魔力は……。
「んえええ!?」
ふふっ、ゆうきさんがびっくりしてる。
私の根源から流れ出た魔力はゆうきさんの根源へとぶつかり、はじき出された
実験は成功みたい。
「っぷぁっ、雛ちゃん今、何やりました!?」
根源絡みの魔力循環が終わった瞬間、ゆうきさんから唇を離された。残念。
「えっと、自分の根源を削ってゆうきさんに流し込んだの。これで、私とも再臨出来る……と思う」
私を寂しがりやだって自覚させたのはゆうきさんだもん。
一人だけ仲間はずれはお断り。
「……まーたこのわんこは勝手なことして!いや、別に悪いことはしてないんですけど!被害は私がめちゃくちゃビックリしただけなんですけど!」
あれ?なんか私不味いことやった?……というか、やっぱり私、犬扱いだったんだ!
「わかりました。とりあえず今から雛ちゃんの部屋へ移動して実験しましょう。今なら魔力も共有されてますし
あ、そうか、これで私もゆうきさんと一緒に影の中を移動できるようになったんだ。ずっと、水流崎さんとミラさんエラさんが羨ましかったから、ちょっと嬉しい。
「で、実験が終わったらおしおきですね」
……あれ?お仕置き?え?なんで?
「幸いお互い明日はお休みのはずですし、朝まで時間はたっぷりありますからね。相手の同意を得ずに実験するのが如何に駄目な行為なのか、たっぷり味あわせて上げますからね?」
あっ、えっと、確かに同意は得て無かったけど別に悪い影響が有ることじゃないし……。うう、ごめんなさい。
その後、再臨の実験や根源の受け渡しの方法の議論をして、えっと……。
ゆうきさん、これ、お仕置きじゃなくてご褒美……。
☆★☆★☆★☆
雛ちゃん正式に再臨枠へ加入回
そしてセヴンスさん朝帰り回。
再臨お着替えが出来る様にしておかないと仲間外れになっちゃいますからね。
にしてもこのわんこ書きやすいから困る。
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