第140話 二度と抱くことが出来ないと思った幸せ

 結局さ、運が良かっただけなんだよね。


 深夜、みなみんより先にベッドに入ってここ1ヶ月の出来事を考えるとそんな結論になった。

 紆余曲折あって、なんか奇跡的な出来事が重なったおかげで生き返ることが出来ましたーみたいな空気なんだけど、あの……、よ?

 頑張ったのは、あんな状態の私を私だってちゃんと認識してくれたみなみん、生かすために一度殺すなんて常識じゃ考えられない方法を導き出してくれた鬼巫女ちゃん。

 あと、あの子、シアちゃんだっけ?あの子は魔法少女と魔物を生み出した元凶だから感謝する必要は無いって言われたんだけど。でも、私の今の身体を作ってくれたのはシアちゃんだし、感謝したいと思う。


 私がしたことと言えば、精神が壊れないように保護の魔法をかけてそれを必死に維持し続けた事と、眼の前に出来たゆらぎに対して私そのものを写し取った存在を願っただけ。

 その後は、勝手に加勢して、勝手に消耗して、最期に暴れて、お別れして、消えちゃって……。

 ほら、びっくりするほど何もしてない。

 だから、私がこうやって今おふとんでぬくぬくしていられるのは、それだけなんだ。


 「サっちゃん。また、しょうもないことを考えてる顔ね」

 悶々としていた私の横にお風呂上がりでパジャマに着替えたみなみんがすとんと腰掛ける。

 昔から変わらない香り。こいつぅ、7年も経ったしお金も有るんだから、昔みたいな安物のシャンプー使い続けてるの勿体ないよう。

 髪に手を疏してみれば……、いや、めっちゃキレイだな髪。なんか1ヶ月前最初に同衾した時はだいぶ傷んでた記憶があるんだけど?


 「どうしたの?急に私の髪なんて触りだして?」

 「あ、いや、先月私がこの部屋に来た当初からずいぶん枝毛が減ったなーって……」

 そんな私の感想に対し、飛んできた答えはデコピンだった。

 「当たり前。サっちゃんが消えない方法を探して悩んで、それでも見つからなくて、私がどれだけストレスを抱えてたか……おわかり?」

 流石にここでわからないって答えるほど空気が読めない体質じゃない。けれど、私に対してそこまでする理由がみなみんには……。


 「多分だけど、今、なんで皆サっちゃんの為に必死になったんだろうって考えてる?」

 うん、考えてる。

 「じゃあ、私が魔物にさらわれて、死んだと思ってたら7年後に急に瓜二つのメイドさんが現れて皆と一緒に戦い始めたら……サっちゃんはどうする?」

 どうするって、それは……。

 「必死になって正体を探って、もし本人だったら死ぬ気で助けようとする……かな?」

 「そういう事よ?」

 そういう事かぁ……。


 いや、みなみんに関しては理解ってるんだけどね?

 この1ヶ月でネットやら何やらで色々調べたけど、熱狂的って言っていいレベルで私の事が話題に出てたじゃん?

 正体の考察とか、生きてた理由の考察とか、仮面の理由の考察とか、エロ同人描いてすみませんとか。

 なんか、7年前より遥かに私の話題が多くヒットしてて変な笑いが出たよね。


 魔生対の人もそう。

 私は運営が手探りの段階で居なくなっちゃったから、今のあの物凄く手厚い福利厚生の事とか知らなくてさ?

 今はこんなふうなんだー、すごいね!って言ったら霧ちゃん?に「貴方が最高の活躍をしたから皆が魔法少女に憧れるようになった結果がコレ。誇るべき」なんて逆に褒められてさ?

 戦ってた最初の3年間、間に合わなかった戦いも、逃げられてしまった魔物も、当然、寝てる間に終わってた事件も沢山あったのに……。

 それでも、私は最高の魔法少女だったって言われてるの。

 正直その、過大評価だよね!?


 私はほら、他にやれる人が居なかったから突っ走っただけだし?あとは、その……、走り出したら止まらなくなっちゃう性格なだけで、別に褒められるようなことをしていたって自覚は無いんだよ。

 だって、他の子だって眼の前に魔物が居て、自分が戦う力を持ってるなら戦うよね?あっちっこっちに飛んでいけるなら飛んでいって戦うよね?多少体調が悪くったって、犠牲者が出るぐらいなら戦うよね?

 うん、やっぱり私は特別な事はなんにもしてないよ。

 私のお陰で日本の魔法少女の扱いが良くなったーとか、どう考えても評価が過剰ってものだよワトスンくん。

 

 そんな考えを知ってか知らずか……、あ、いや、これは知ってる顔だ。

 みなみんはめんどくさそうな顔で私の頭を撫でている。

 7歳年上になっちゃったみなみんはとっても美人さんで、そういう嗜好は無かったはずの私もちょっと道を踏み外しかけててその……ね?

 だってしょうがないじゃん。毎朝同性の美人さんと魔力のやり取りきもちいいことしながらキスしてるんだよ!?

 これは、ちょっとそういう方面に行っちゃってもしょうがないんじゃないかな!?


 「サっちゃん、他の国の魔法少女、魔力保有者の扱いがどうなってるか、ご存知?」

 他の国の魔法少女?

 いや、だって魔物は国とか関係なく人間の思念があればどこにでも現れる可能性があるんだよ?軍隊とかの兵器があんまり役に立たない以上、魔法少女を優遇して戦ってもらう必要があるんだよ?

 そんなの、日本みたいに魔法少女を囲って、お給料を払って戦ってもらうのが普通だよね?

 それが当たり前と思っていた私に対して、みなみんのスマホに映し出された動画は衝撃的だった。

 逃げ場を軍隊に囲まれて、無数の銃口に狙われながら魔物と戦う海外の魔法少女……いや、メハシェファと呼ばれる中東の国の魔力保有者達。

 

 「魔法少女、魔力を持った女の子に対する扱いはね?その国で最初に有名になった子がどんな人間だったかに物凄く左右されてるの。例えば、この国の最初の魔力持ちは変身して正体がわからなくなる事を利用して強盗を繰り返してたの」

 思わず眼をみはる。

 「世界の半分ぐらいはこんな感じ。魔力保有者は世間の異物。犯罪を犯させないように監視して、逃げたら殺すって脅しながら魔物と戦わされてるの。逆に、日本は誰かさんと、それに引っ張られた私が昼も夜もなく無報酬で必死に魔物と戦ったおかげで、世界で一番魔法少女が優遇される国になった。だから、皆がサっちゃんに感謝してるのよ?よろしい?」


 なる……ほど?

 え?世界そんな事になっちゃってるの?酷くない?

 そんな思いと同時に、確かにこれは感謝されるかもって実感が湧いてくる。

 そっかー、私の考え無しも役に立つことがあったんだ?

 「いや、サっちゃんの考え無しはいつも誰かを助けてるからね?今回は、助けられた皆がサっちゃんを助け返しただけ。恩を返されただけなんだから、サっちゃんはそれを大人しく受け取って残りの人生を自分のために使う必要があるの」


 思いの外真顔でみなみんに言われて考える。

 自分のためにとか言われてもほら、えっと、何したら良いんだろう?

 「難しく考えなくても、今やりたいなってことをやったらいいんじゃない?」

 なるほど?

 正直、7年も時間が経過してると世間の変化についていけてなくて、自分が何をして生きていくかとか正直考えていられないトコだったんだよね。

 でも、今やりたい事って言えば明白だよ。


 「じゃあ、今やりたいことはー……」

 さしあたって、ベッドに腰掛けている人物に飛びついておふとんに引きずり込む。

 「何も考えずに、明日の朝まで大切な相棒のぬくもりを感じながら寝たいかな?」

 私の腕の中で、私より随分大人になった相棒が苦笑を浮かべるのを感じる。

 

 将来なんてわからないし、ずっとこの幸せな日々が続くかもしれないし、どこかでとても強い魔物が現れて皆居なくなってしまうかも知れない。

 けれど、今この瞬間の幸せはこの手の中にあるから。

 だから、離さないようにぎゅっと抱きしめる。

 

 もう二度と抱くことが出来ないと思った幸せを、ぎゅっと、ぎゅっと……。


  

☆★☆★☆★☆


初代魔法少女、セイクリッド・スターこと清嶺沙璃耶さんのエピローグでした。

ノンケだったのにどこかの邪神のせいでなにかに目覚めつつ有る模様。


で、これにて第三期終了にございます。

ちょっと物語を欲張りすぎて分量が増えてしまいましたがここまでお付き合いありがとうございました。

ここから数回ログ回を挟んで、100号ちゃんのパワーアップ回の後4期の連載……と行きたんですがプロットがまだ出来上がってません。

まあ、2期のこの時期みたいに手つかずってわけではないのでなんとか間に合わせようと思いますが、ログ回で時間を稼いでる間に出来上がらなかったらちょっとお時間をいただきます。



 

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