第137話 けれど輝く夜空のような

 そんな感じでセイクリッド・スターさんが純魔結晶を残して消えてしまった瞬間……。

 「おいすーなのじゃー。複製魔物化魔法少女はちゃんと死んだのじゃー?」

 余韻など全く気にしない邪神が脳天気な声を上げながらエントリーしました。

 いや、こう、空気とかお読みになられませんか?無理ですよね、シアちゃんですもんね。

 ってか、どの面下げてこの場に現れたんですか貴方?


 「お、死んどる死んどる」

 ひょこひょこと軽快な足取りで呆気にとられて動きの止まっている咫村崎センパイの手から桜色の純魔結晶を取り上げるシアちゃん。

 いや、まあ、あの空気からこんな登場されたらフリーズもしますよね。

 「……っぁ!それはサっちゃんの形見なんだから気安く触らないで!」

 手から重みが消えた事で気を取り戻した咫村崎センパイがシアちゃんを追いかけますが、この邪神これですばしっこいんですよねぇ。

 のじゃのじゃ嗤いながら虚空に手を伸ばし、何かを集めてる様子が見えます。

 

 「まあ、はしゃぐなはしゃぐな。……というか、形見ってなんじゃ?雛に聞いておらんのか?」

 ……ん?

 「え?マジで聞いておらんのか?え?だって戦闘終わったら言うとくとやつがれと打ち合わせしておったはずなのじゃが?」

 え?雛ちゃん?

 ……傷も治って、私の膝ですやすやお休み中ですが?

 あれ?もしかして私のせいでなんか重大な情報が伝わってなかったりします?


 「……はえー?なーんで雛がそこで寝ておるのじゃ。やつがれの登場がめっちゃ歓迎されて喜ばれる様子を思い浮かべながら出てきたのに何も言っておらなんだら空気の読めないアホみたいではないか」

 あ、え……?

 この文脈から判断するに、もしかしてもしかするんですか?

 だって、「死んだのじゃー?」って普段なら空気の読めない、顰蹙ものはずの発言で本人が喜ばれると思って登場するなんてそういう事ですよね?


 周囲の様子を伺ってみれば、ほぼ全員が「え?マジで?」みたいな狐につままれた様な表情を浮かべています。

 「なら、先に、言っておきなさいよ!もう、そういうことなのね!?」

 咫村崎センパイなんて情緒がぶっ壊れて泣きながら笑い始めちゃったんですけど……。

 「あー、本人とお主にはどうあっても伝えられぬ事情があったのじゃが。まあ、先に要件だけ済ませてしまうのじゃ。精神体たましいが依代も無しに存在してられる時間は短いのじゃ」


 言いながら、空間を割ってガラスの棺を取り出すシアちゃん。

 そこには皆の予想通り、安らかな寝顔を浮かべるセイクリッド・スターの中の人、清嶺沙璃耶さんの姿。

 というか、服ぐらい着せてあげてくださいよ!

 ほいほいと軽い掛け声とともに虚空から集めた何かと桜色の純魔結晶を清嶺さんの胸へと押し込む邪神。

 んー、多分あの清嶺さんボディ、既に生きてるんですよね。だってほら、胸がかすかに上下してますし?

 多分、精神体たましいの入っていない状態で作って保存していたのだと思います。

 ……というか、なんで死んで霧散した精神体を集めて蘇生なんて面倒くさい作業をしてるのかいい加減説明が欲しいんですが?


 「あー、そうか、説明が必要か……。というか、流石に一から十まで全部説明するのは骨が折れるのであれじゃ、魔弾のに伝わる要点だけで説明するのじゃ」

 びしっと人差し指を立ててドヤ顔で胸を張るシアちゃん。

 仕草がいちいちウザいんですよねぇこの邪神。

 「まず、普通に延命したり身体を移し替えたりしても魔物の特性が受け継がれてしまう可能性が非常に高く、本人の性格的にそういう延命に意味はないというのは以前話したのじゃ。覚えておるか?」

 

 確かに、そんなような話をしてましたね。

 聞いている側としては、あの当時からじゃあ八方塞がりじゃん的な感想を持っていたものです。

 「そんな折にそこな雛が突拍子もない事を言い始めてな?じゃあ、魔物として死んだ後の精神体たましいは魔物なのか、人間なのか、と」

 あ、だんだん話が見えてきました。

 つまり、魔物としての本能に抗い続けたセイクリッド・スターさんであればこそ、死後の精神体たましいは、自己の自認は、自らを人間と定義している可能性が高いとそういう事でしょうか?

 「やつがれの知識と対象の性格から鑑みて、人間のモノである可能性が高いと結論づけるや否や、雛がなー、笑顔でなー『じゃあ殺そう』などと物騒なことを言い始めてなー。あやつ、あれで物騒すぎるのじゃ」

 うーん、確かに「じゃあ殺そう」は普通の発想じゃないですね。

 

 「普通、延命したり生かしたりしようとしてる相手を一度ぶっ殺そうなどと考えるかー?いや、まあ、実際に人間に戻す手段は他に思いつかなかったのじゃが、やつがれも流石にドン引きじゃったのじゃ」

 なんというか、アレですね。

 ゲームで状態異常治療のアイテムを持ってないから殺して蘇生してリセットするみたいな。

 だいぶ無茶苦茶ですが、それが最適解とあらば他の事は気にせず突き進むのがこの子なんですよねぇ……。

 私の膝ですやすや気持ちよさそうに寝息を立てる天才少女の顔をまじまじと見つめます。

 うーん、雛ちゃん、ほっとくと倫理観とかすっ飛ばして危ない実験とか始めそうでちょっと怖くなってきました。これは手元において日々様子を確認するべきだと思います。


 「で、まあ、そんな感じで一度魔物の肉体を消滅させて、やつがれが精神体たましいをかき集めて、根源を引き継いだ純魔結晶と共に肉の器に突っ込むことで蘇生と相成ったわけじゃな」

 まあ、死んだ直後に死体から新たに肉体を形成して再度、精神体たましいをぶち込んで蘇生させた実験体は既にここに居ますからね。そのあたりはお手の物だったでしょう。

 あれ?というか、そんな簡単に人間の体作れるならエラさんも普通に身体作ってもらえば良くないです?

 

 同じ事を考えた数人がエラさんに視線を集中させます。

 「え?エラ、この身体の方が楽しくて好きだから今更人間に戻ってーなんてヤだよ?まだ沢山開発してるし、6連魔力起動チェーンソーブレードとか全方位130連魔力パルス砲とか実験せずに人間に戻るとか勿体ないと思う!」

 ……技術班はなにしてくれてますのん?6連チェーンソーブレードはともかく、全方位砲とかまともに使えば一緒に出撃してる私達も消し炭じゃないですか!

 というか、チェーンソーブレードってアレ腕を外して換装するタイプの武器だったと思うんですけどその辺り大丈夫なんですか!?いや、そもそも魔法少女に不明なユニットを接続しようとするんじゃありません!

 失礼、取り乱しました。

 まあ、本人が現状の方が楽しいと言うなら多分そっちのほうが良いのでしょう。

 なんでこの子こんなにメカ好きなんでしょうね?


 「話を戻して良いのじゃー?良さそうじゃの。で、じゃな?あくまで人間として蘇るかどうかは仮説でしかないのじゃ。なので、安全弁として他者の魔力が体内に存在しないと肉体活動が停止する機構を盛り込んでおいたのじゃ」

 にたぁっとやーらしい笑みを浮かべる邪神。

 こいつ、実は百合厨だったりしません?いや、身近な人間が私含めて同性カップルだらけなのが問題な気がしますが、にしたってその機構は……。

 「で、なんやかんや精神体たましいが定着しつつあるこの娘じゃが、目覚めるためには他者の魔力が必要でな?」

 ほーらー、この邪神はそういう事するー。

 「誰ぞ、立候補はおるか?」


 ニヤニヤ笑いのシアちゃんの問に対して、動いたのは当然咫村崎センパイでした。

 というか、立候補とか関係なく一目散にガラスの棺へと走り寄り、涙を浮かべながら愛おしそうに顔を撫でて……。

 そっと唇を重ねました。

 ……ところで、別に魔力供給って口からやらなくても大丈夫なんですよ。知ってました?粘膜接触が効率が良いってだけで、その……。

 主に誰かさんが魔力供給と称してキスしまくってるのが悪いですね。自重……は、しませんが。


 魔力が注がれた瞬間、清嶺さんの身体から桜色の光が走り、ゆっくりとその眼を開きました。

 「ねえ、カッコつけて今生の別れを演出したのに、その直後に目が覚めて相方がキスしてきてた状況ってどうやって反応したら良いと思う?」

 ……うーん、笑えば良いんじゃないですかね?

 困った表情を浮かべる清嶺さんに対して……。

 「サっちゃん!サっちゃん!サっちゃん!ぅぅぅ!」

 あーあー、咫村崎センパイはもう泣きながら清嶺さんに縋り付いてまともに言葉も紡げなさそうな状態です。

 そんな彼女を抱きしめながら微笑む清嶺さん。

 念の為魔力感知を走らせてみますが、魔物の魔力は一切感じられません。

 

 「うむ、どうやら成功したようなのじゃ!やつがれと雛を存分に褒め称えると良いのじゃ!」

 いや、ほんといい仕事してくれました。

 味方の被害ゼロで、セイクリッド・スターさんも生き返って、教団の超能力者達の処理も完了したと。

 

 今回は掛け値なしに大勝利です!

 やっぱり、現実もハッピーエンドじゃなきゃ許せませんからね!



☆★☆★☆★☆


やだなあ、この作者がこの小説で名前のある味方キャラを殺すはずないじゃないですかぁ。

ということで、セイクリッド・スターさん復活回です。

しかしこの方、明確に死亡扱いされてて仮面無しの姿が流出しようものなら「生き返る魔法があるのか!?」と各所から問い合わせが殺到しそうな厄ネタになってしまいました。

謎が謎呼ぶセヴンスさんと違って超有名人ですからね。

まあ、そのへんの処理は次回で。







 

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