第130話 わんこの気持ち。
子供の頃……ん?違う、今も未成年だから子供だ。
小学校に通っていた頃、私は大半の魔法少女が嫌いだった。
最初の魔法少女と、相棒の魔弾の魔法少女は凄かった。
自分にできる事を全部やろうと頑張ってた。
でも、後から
ねえ、なんで空気を自在に操れる根源を持っているのに太陽光を空気のレンズで集めないの?
ねえ、なんで氷結の根源なのに凍った水しか扱わないの?
ねえ、なんで……。
私にはそれが怠慢に見えた。努力が足りないように見えた。
そのくせ、魔物に負けると皆を悲しい顔にさせる。
私は、魔法少女が嫌いだった。
だから、自分が魔法少女になった時は驚いた。
彼女達を怠慢だと見下す私にその力を与えてどうする気だろうって。
与えられた魔法にも驚いた。
彼女達を見下してた自分にピッタリの、身体強化なんていう一つしか使い道のない魔法。
魔法を新しく作るにも身体強化なんて単純な魔法に発展性なんて無くて……。
なるほど、コレが因果応報……なんて納得した。
納得はしたけど、でも諦めはしなかった。
魔法の要素を分解して、理論立てて整理して、身体強化という魔法を一から作り直した。
その結果が、今の私。
魔法を作り直して気がついたことは、彼女達は努力は足りてなかったけど怠慢ではなかったかも知れないという事。
魔法を作るという行為は確かに難しくて、昨日までただの高校生だった子供が気軽に作れるものじゃないのが理解った。
初動対策課のみんなと意見の交換が出来たのも良かった。
沢山の魔法を作るだけじゃなくて、一つの使い方をひたすら突き詰めたり、同じ魔法で色んな事が出来るようにするという考え方を知れたから。
だけど、その上で、尊敬出来るような魔法少女は最初の2人以外に見つけられなかった。
だから、あの映像を見た時は心の底から震えた。
覚醒して初めての戦闘なのに、使ってる魔法はワイヤーを自由に動かす、それのみなのに……。
画面の中で彼女は、その一つの魔法で、空を駆け、敵を拘束し、盾を作り、再生を阻害するなんて離れ業をやってのけていた。
その時から、私は彼女、魔女セヴンスに夢中になった。
映像を見る度に彼女は成長していた。
新しい魔法を作り、既存の魔法で新しい戦術を行い、新魔法と既存の魔法を組み合わせて一切の傷を負わずに魔物を倒す。常に笑顔で戦場へと飛び込み、魔法少女を助けて回る不思議な少女。
殆どの魔法に複数の用途があって、更にそれを組み合わせて運用する様子に感動して、彼女が映っている動画は何回も、何回も見直した。
魔物の大群の襲撃が現れた際に内心喜び勇んで最初に現場に向かったのも、苦戦もしない私の前に現れてくれなかったセヴンスさんとやっと会えると思ったから。
本当に来てくれた事に驚いて、最初の自己紹介で魔法少女としてじゃなくて自分自身の名前を名乗るなんて失敗もしてしまったけど……。
何より、セヴンスさんは私が何を言いたいのか理解してくれていた。
悪い癖で、自分の知識と思考が相手にある程度伝わってる前提で会話をする私に対して、全部わかってるみたいに自然に会話が繋がって……。
うん、あの時。
あの時から私はセヴンスさんから目が離せなくなった。
憧憬なのか、興味なのか、もしくは恋だったのか、他人を好きになった事がない私には判断できなかったけれど。
私は、生まれて初めて他人に対して好意を持った。
後は多分、傍から見てても分かる通りだと思う。
私の様子は、セヴンスさんを見れば尻尾を振って駆け寄る犬みたいで……。
んー、そんな私を嫌がらずに可愛がってくれたセヴンスさん側にも問題があると思う、うん。
それに、イツァナグイを紹介してくれたり、シアちゃんを連れてきてくれたり、魔弾の魔法少女を引き入れてくれたり、私が欲しいものを沢山くれて……。
魔法だってそう。
中二病の根源なんていう曖昧すぎるものからあれだけの魔法を創り出して、他人と根源を混じり合わせるなんて規格外な魔法も平気で使って……。
人としても、魔法少女としても魅力的で……。
私はセヴンスさんのためなら何でもしてあげたいって思うようになってた。
セヴンスさんがいつも笑っていられるように。
そのためには、私含めて魔法少女達が傷つく事を防ぐ必要がある。
だから、魔法少女の敵は、私が、全部、ぶっとばす。
「
空間を歪めて跳ばされた先は客室の一つ。外の景色を見るに最上階。
最速でセヴンスさんの元へ戻るために強化形態へと移行して、そう広くない部屋で引き抜いた太郎太刀を壁を削りつつ肩越しに構える。
即強化形態へと移行したのは、強化された聴覚が壁越しに衣擦れの音を聞き取ったから。
何の概念か知らないけれど、私相手に生半可な不意打ちは効かない。
刀身の長さが3メートルを超えるような大太刀は普通なら室内で扱うには長すぎて不利だけど……。
「んっ!」
壁ごと切断してしまえる膂力を常に発揮できるなら何の問題にもならない。
振るった太刀は天井を圧し斬り、壁を斬り裂き、肉を断つ感覚を経て床へと埋まった。
まず一人。
あと一人居る……。
こっちは隠れる気が無いのか、明確に魔力を発して自分の位置を知らせてる。
壁ごと斬ろうにもちょっと射程が足りない。
「むぅ……」
諦めて廊下に出よう。
廊下は、熱波が荒れ狂っていた。
「ちっ、鶴田のおっさん秒殺かよ。ほんっとつっかえねーなあの幹部」
原因となる男は悪態をつきながらも、何が楽しいのかニヤニヤとねちっこい笑顔で私を見てる。
「なあ、太陽の温度って知ってっか?」
……質問もアホっぽい。
「表面温度で約6000度、黒点で4500度、プロミネンスや彩層で10000度。曖昧でどの部分の事かわからない」
もっと言えば、太陽の周囲を覆うガスのコロナは100万度だし、中心核は1600万度程と予想されているし、表面で起きる爆発であるフレアなんて2000万度もある。
私の返答に、えーっと、なんだっけ、ぱりぴ?っぽい男の顔が歪む。
「インテリぶってんじゃねぇぞゴルァ!」
……え?なんで急に怒ったのこの人?
突き出した指鉄砲から炎が発射されたから、普通に部屋に入って回避する。
背後で爆発。多分、表面温度ぐらいの熱量の弾丸。
ん、この人も駄目だ。
私が昔、魔法少女に対して思っていたのと同じ感情が湧き上がってくる。
私だったら、太陽のコロナを一瞬だけ標的の周囲に再現する魔法を作ると思う。
直撃すれば即死だし、回避されても爆発と熱波で大抵の魔法少女は行動不能になるだろうから。
「オレはなぁ!あの最強の!吸血鬼の魔法少女を倒すために太陽の概念と合一した星の
んー、無理じゃないかな?初雪さん別に日中に全ての能力を失うとかそういうのは無いし。
彼女が思い描く最強の吸血鬼を魔法で演じているって性質上、真っ当な攻略は不可能だ。
とりあえず、私には倒せないって言われたから試してみよう。
別に、如きなんて扱いされて怒ってるわけじゃない。多分。
手頃な柱を切断して鉄筋を含んだ塊を切り出す。
太陽の男は他に遠距離攻撃の手段が無いのか先程と同じく炎の弾丸を撃ち込んでくるだけで何の脅威にもならない。
さて、如きの魔法がどれだけの性能を持つのか、味わって?
柱から切り出したコンクリートと鉄の塊をアンダースローで投げつける。当然、足からの全加速が乗るように身体強化を連動させて。
重力制御は、自分の体とあの大太刀にしかまだ使えないみたい。もっと練習が必要。
「はっ!太陽の熱量だぞ!?鉄だって蒸発するってんだよ!」
ぱりぴ?が自分の前に炎の壁を展開するけど……。
私の投げた塊の速度は亜音速に近い。そんな10センチ前後の厚さでどうやって全部蒸発させる気なのかな?
それこそ、せめてコロナを展開するぐらいしないと……。
「げぶぁ!」
多少表面を蒸発させながらも太陽表面温度の炎壁を突き破った柱の残骸が男の下半身を文字通り吹き飛ばした。
「氷だって、炙った瞬間蒸発はしない。何で大丈夫と思ったの?」
……純粋に疑問に思って問いかけても、ぱりぴはもう答えてくれそうになかった。
まあ、いいや。
それよりもセヴンスさんの手伝いに行かなきゃ。
今回の敵は明確に私達魔法少女に対して対策を練ってきてる。
なら、一番対策が難しいセヴンスさんの対処は取り込んだ概念の数が一番多い教祖が受け持つはず。
いくらセヴンスさんでも対自分用に構築された相手との戦いは苦戦すると思う。
かといって、今回の相手は敵を自殺させる能力を揃えてるから正面からの助太刀は出来ない。
うん、セヴンスさんがピンチの時に隙を作るぐらいの仕事なら出来るかな?
最悪、その後死んでしまってもセヴンスさんの記憶に残るなら悪くないかも?なんて思いながら、私はホテルの壁面を駆け下りた。
☆★☆★☆★☆
バウリンガル回
感情が地味に重い。
あと、雛わんこ聡いので中二病の根源理解してます。
ちなみに、太陽ぱりぴは雛わんこだから軽くあしらってるだけでめっちゃ強敵です。
6000度の壁を抜けて攻撃できる遠距離攻撃が無いとダメージが与えられませんし、相手の火炎弾は食らったらほぼ即死なので。
なお、メタ相手の吸血姫は「呪いが熱で溶けるとでも思いまして?」なんて言いながら呪いの弾丸で普通に殺してくる模様。
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