第128話 汚物はしょうどくだー!

 何処かに跳ばされるのは表層心理を共有してるセヴンスの思念で理解ってはいたんだけど、跳ばされる瞬間がこんなに気持ち悪い感覚だというのはちょっと想定外だった。

 感覚器官の違いで平然としてるエラ姉さんが正直羨ましい。

 それにしても、分断作戦とは良くもやってくれたなと思う。

 せっかくセヴンスの根源を借りて作り上げた魔法のお披露目だったのに、一番見せたい相手だったセヴンスと離れ離れってどういう事なの!?

 もー、この怒りは全部敵にぶつけてやるんだから!


 ──っと魔力を盗んでいるバレまし静謐の隠密性を付与なぜ気が付かれそもどうやって抜け超能力とは回避しないと防御無視の防御他の子は無事?再生なら痛覚を初雪さん平気か藤由さんと分断を読まれ日陰藤強敵です回避──

 うん、セヴンスも戦闘を開始したみたい。

 ……セヴンスって、戦闘中の思考速度と状況認識として把握してる範囲が異常な上に、全部言語化して考える性質たちなの。だから、再臨状態で表層思考を共有しちゃうとこんな風に意味不明な思考の断片を脳内に延々と流され続ける羽目になって……。

 理珠姉様は重要そうな要素だけピックアップして戦闘の流れを読むのに利用したりするらしいんだけど、ミラにはちょっと無理。

 少なくとも、同じ敵と相対してるなら兎も角、現状だと思考のノイズにしかならなくって……。

 だから、セヴンスからの受信側だけオフにするね?

 大丈夫、垂れ流しじゃなくてちゃんとミラに宛てたメッセージは届くはずだから。


 んー、ところで私達が跳ばされてきたここって何処なの?

 「厨房……だよね?えーっと、ここがまだけいえいしてた頃のパンフには6階にバイキング形式でごはんが食べられるホールがあるって書いてあった気がする」

 ああ、うん、そんな事が書いてあった気がする。けど、それ以前に敵が居なくって……。

 「とりあえず、ホールの方へ出てみましょうか。このまま誰も居ない、暗くなっていく廃ホテルの厨房で待ちぼうけとか絶対嫌だからね?」

 敵の気配に気をつけつつ、ホールへの扉を開けてみれば……。


 「あら?あっさりと合流できてしまったけれど、コレも計算のうちなのかそうなのか。左さんはどう思う?、聞かせてもらってもよろしい?」

 「いやー、ホテル内で戦闘出来る場所もそう多くは無いですしー、咄嗟に飛ばしたらたまたま近くだっただけなんじゃないかーって思いまーす」

 魔弾先輩と右ストレートさんが所在なさげに立ち尽くしていた。

 これ、私達だけ飛ばして敵を送り込むの忘れてたとか無いよね?


 ちょっとだけ相手の間抜けさに期待したけど、やっぱりそうは行かなかったみたいで……。

 「っ!」

 「いたっ!」

 「んくっ!」

 生身の3人に三者三様にそこそこの深さの切り傷が刻まれた。

 前兆も何もなし、攻撃された気配すらなくという状況に混乱する。

 「あ、アレだね!」

 唯一無傷だったエラ姉さんが崩れかけの木製テーブルを暗がりに向かって投げつけると、それを砕いて躍り出る人影が2つ……。

 

 「ふむ、なぜ一人だけ無事なのかわからんが他3人は私の能力で倒せそうだな」

 「じゃあ、司教エヴェック様が3人、私があの車椅子の少女をお相手するということでいいです?」

 えっと、要警戒とされてたのが教祖、大司教、司教2人で、教祖はセヴンスが相手をしていて、大司教は終末しちゃったから、残りの要警戒戦力の片方がこいつだってわけね。

 司教と呼ばれたのがベリショでタトゥーだらけの女で、もう一人がスーツの上から教団のローブを引っ掛けてるひょろっとした男……。

 確か、この男の方が転移の概念持ちの合一者ソロニティだったと思う。

 隠れて先制攻撃をしかけてくる所と言い、右ストレートさんの射程外から仕掛けてきたことと言い、曲者の匂いがプンプンするよね……。

 

 何にしろ、あの見えない攻撃の正体を掴まないことには接近することすらままならない。

 えっと、セヴンス曰く「敵の攻撃が感知できない時は何はなくとも射線を切りましょう」のアドバイスに従って壁役を用意しましょうか。

 「姉さん!タワーシールド2名!」

 「ほいほーい」

 武装車椅子の装甲板として仕事をしていた大盾2枚に大して騎士を召喚して壁になってもらう。

 ミラ達がその影に駆け込むと同時に、盾がなにかに削られるような感触。

 エラ姉さんに効かなかった所を見るに、無機物には効果が薄い概念なのかな?

 

 「チッ、視認発動型だと気がつくのが早すぎるんだよ。おかげで何の盛り上がりもなくハメ技使うことになっちまったじゃないか」

 イラついたガラの悪い声と同時に、再度謎の傷を負うミラ達3人。

 うーん?盾で受けた時に衝撃や重さを感じなかったから何かを投げたりして物理的に攻撃をしているわけじゃなくて、視線を遮っているのにも関わらずミラ達に攻撃が届く……。

 攻撃の内容は刃物で斬りつけたようなを負わせるだけ。

 そして、無機物に対しては効果が薄い……と。

 ちょっと見えてきたかも。ミラの仮説が正しければ、敵はエラ姉さんに対して有効打を持たないってことになるはず。


 「多分だけど、エラ姉さんが好きに暴れるのが一番効果ありそうだと思う。行ってきてもらっても良い?あと、念の為3番から7番の血装は置いていって」

 「はいほーい。じゃあ、いってくるね?」

 車椅子の車輪が自律起動して回転を始め、両手がフリーになった姉さんが銃と魔力エネルギー ブレードを展開して突撃していく。

 「で、魔弾先輩。超能力による遠見とか透視とかを妨害することって出来ますか?」

 で、さっき隠れてるミラ達が攻撃を受けたのは超能力これのせいだと思う。

 空間の概念で光の経路を捻じ曲げたの可能性もあるけど、なんとなくアイツは精密な魔力の使用が下手そうに見えるから違う気がするしね。

 

 「私はー?何をすればー?」

 そして、自分の出番を今か今かと待ちわびる右ストレートさんには……。

 「右ストレートさんは最後の一撃担当だと思うので、もうちょっとだけ待機して欲しいです……」

 申し訳ないけど、お預けを要請。

 だって、あのパンチで床が広範囲に消滅してしまったりしたら後が大変でしょう?


 そして、5回目の攻撃を最後に、魔弾先輩が超能力を妨害できたのか攻撃が大盾の後ろには飛んでこなくなった。

 射線が通らないんだから、通すために私達には出来ないインチキをしてると仮定してみたけど大当たりだったみたい。

 「ひゃー!汚物はしょうどくだー!」

 前線では、武器を換装した姉さんが敵の周囲を周りながら熱魔力放射銃かえんほうしゃきで執拗に攻撃を仕掛けていた。

 熱魔力放射銃アレ、魔物や生物は熱を感じるし燃えてるのと同等の効果を受けるけど魔力を持たない物体には効果がないってなかなか面白い性能の武器なのよね。

 正直、ミラの騎士団にも持たせたいぐらいなんだけど現状だと姉さんがヒャッハーしてる一挺しか存在しないらしいのが残念なところ。

 敵は敵で、空間を曲げて魔力の炎をシャットアウトしたり、あの謎の攻撃を繰り出したりしてるみたいなんだけど……。

 「残念だけど姉さんには貴方の攻撃は効かないんだから!能力が防御無視で強い!なんて思ってるんだろうけど、傷という概念そのものが機械の身体と人間の肉体で全く別物なんだもの!」

 

 ミラ達を攻撃してきた概念はの概念で多分正解なんじゃないかな。

 身体強化による防御とか、装甲とか全部無視して傷そのものを作り出す能力。しかもそれを透視クレアボヤンスの超能力で射線を無視して使ってくるんだから普通に戦えばかなり厄介な相手なんだと思う。

 だけど、人間の体で負う傷と機械につく傷って全然別のイメージでしょ?

 例えて言うなら、人間ならぱっくりと皮膚が裂けて血が流れ落ちるイメージだけど、機械だとほら、硬貨で表面を引っ掻いた跡みたいな感じにならない?

 だから、姉さんにも騎士の大盾にも全然ダメージが入らないんだと思う。

 

 後はミラの騎士団も出撃させて注意を引いて、完全に右ストレートさんがノーマークになったところで満を持して突撃して敵をまとめて消滅させてもらえばミラ達の勝ちだと思う。

 なんなら、ミラの騎士団は一緒に消滅させてもらっても大した被害じゃないしね?

 なんて、これで勝つる!みたいな甘い算段をしてたんだけど、やっぱり敵はそんなに楽に勝てるほど弱い相手じゃないみたい。


 「あー、これヤバいかもですねー。血が、血がぜんっぜん止まらないでーす。鼻血以外がこんなに止まらないのは足ちょんぎった時以来かもしれませーん」

 いや、そんなヤバそうな事を全く緊張感のない声で言われても……。



☆★☆★☆★☆


傷の概念持ちは司教なのであと1つか2つ概念を食ってます。

空間の概念持ちと組んで一定の距離を維持してチクチク防御無視Dotダメージで倒す戦略みたいですが果たして?

というか、機械の体エラさん相手に攻撃が通ってないので現状だと逆にジリ貧っぽいですが。



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