第127話 死ねば良いんじゃないかしら!
ジェットコースターを2秒で駆け抜けたような激しい立ち眩みの後に目を開けると……、そこは屋上、ヘリポートの中心部……でしょうね。
残念ながら、まんまと敵の策に嵌って分断されてしまったようだけど。
「セヴンスさんがなにかやってやがったおかげで単独行動は避けられたみたいですわね」
うん、直前にセヴンスがワイヤーで魔法少女同士を繋いで、完全にバラバラになるのを防いでくれたみたい。相変わらず器用というか、咄嗟の判断力には脱帽せざるを得ないでしょうね。
ワイヤーは私と
「まあ、この際相方が貴方だって事は我慢してあげる。足を引っ張らないでよね、
「それはこっちの台詞でやがりますわよ、ヴォーパルバニー?」
で、私達のお相手はだぁれ?
「ふむ、分断して各個撃破という狙いだと思ったのでござるが、バニーガールが5人と金髪ドリルが1人、拙者の相手が6人とかバランスおかしいのではござらぬか?」
声の主はヘリポート端に建てられているアンテナの上、マフラーを靡かせ、腕を組みながらこちらを見下ろしていた。
口元を隠す黒いマフラー、首元にわずかに覗く鎖帷子、背中に背負った小ぶりで反りのないな日本刀……。
……これ、何の魔物と合一したか質問する必要すらないんじゃない?資料で見て思わず笑っちゃった概念じゃない。
薄暮の空、満月を背に佇むその姿は、純度100%の、どう見たって忍者そのものだったから。
「着地狩りは任せていいかしら?」
まあ、相手がネタキャラであっても私のやることは変わらないのよ。
未だ消えない4人の
5人で同じ場所を狙う必要は無い。私が初弾を担当して、
回避のためには跳ばざるを得ず、空中では身動きが出来ず、着地地点は金髪ドリルが狙っている。
余程の事がない限り成功するはずだったこの作戦は……。
「忍法・変わり身の術でござる」
なんて、有名すぎて解説の必要がないぐらいの忍術で失敗させられた。
私の放ったアサルトライフルの弾丸はアンテナの上に鎮座する丸太を撃ち抜いただけで終わり、忍者の姿を見失う。
でも、こういう時の相手の動きは定番通りなのでしょう?
咄嗟に銃を手放して膝にベルトで固定された鞘から大ぶりのコンバットナイフを引き抜いて背後へと振るう。
「ぬぉわ!」
間抜けな声を上げながら、それでも咄嗟に刀で防ぐ忍者。
「消えたと思ったら背後に移動、動きが読みやすすぎるのよ!」
ナイフを持つ手に力を込めて鍔迫り合いの体勢へと移行する。
さて、これで今度こそ身動きが取れなくなったでしょう?
「今ですわね。死にさらせやゴルァ!
今度こそ、地面から突き出した無数の工業用ドリルが忍者野郎の身体を貫き……。
「ふっ、残像にござる」
何こいつ!?
多分、物理法則とか無視して忍者がやれそうなことを何でもやれる能力……だと思うのだけれど、セヴンスが毎回こっそりやってるような設置や仕込みも無しに無敵回避してくるの無法すぎるでしょう!?
その後、何度目かの交錯を経てその考えは間違ってなかったと実感させられた。
「もしかしてこれ、相手の意識外から攻撃を当てない限り延々と『変わり身でござる』『残像でござる』で回避され続けるクソゲーになってない?」
「可能性はたけーですわね。地中からの
まあ、そうなっちゃうのよね。
強化変身で足りなかった火力を上げてきたのに、最初に当たる相手が理不尽な回避型とか嫌にならない?兎の
「魔力の方は大丈夫?あんまり時間がかかるようだと私も
「大丈夫だと思いますわ。クッソ教祖の偽物野郎が何の防御も回避も持ってやがりませんでしたので大して消耗していませんもの。はー、どーりでチャージが早かったわけですわー。おフ◯ック極まりないですわー」
今の状況だと火力と射程が過剰なアサルトライフルを仕舞い、サブマシンガンを二丁構えてスタンバイ。
「というか忍者の貴方。さっきから逃げてばっかりだけど火遁・劫火なんちゃらとか、風遁なんとか玉とかそういう忍術は無いの?」
止めを
だったら、相手が話したくなる話題を振るのも立派なお仕事よね。
「はぁー?あんなのは忍術じゃないでござるよ。一緒にしないでほしいのでござる」
アレ?漫画知識の忍術談義で尺を稼ごうと思ったら思っていたのと全然違う反応が返ってきてしまったのだけど……?
「そもそもでござるよ?なんとか遁の遁とは遁走の遁。つまり、逃げるための術でござる。逃げるための術を相手の真正面から使って倒せるなら遁の名が付くのはおかしいでござるよ。それは遁術ではなく殺人術でござる」
あら、そうなの?
「火遁は
なるほど、この人本職というか、下手すると本物の忍者の人なのかもね。
要人警護を担当してるSPの一部は忍者だって噂があるし、案外本物だったという説は外れてないかもしれない。
考えてみれば、変わり身や残像は概念の能力だとしても今もこうやって、地上で
これはただ概念を取得しましたってだけじゃ身につかない所だもの。
少なくとも、アレコレ会話を振ってみれば楽しそうにその術の訓練方法まで話してくれるし、それぐらい忍者が好きなことは明らかよね?
じゃあなんで、そんな概念なんかと合一しなくても忍者な人がこんなカルト教団に協力してるいるの?
丁度サブマシンガンの弾が切れた所だし、もう少し喋ってみましょうか。
まあ、あっちが乗ってくれるなら……だけどね?
「で、そんな忍者さんがどうして私達を倒そうとしているの?」
そんな、私の何気ない問いかけに足を止める忍者。
「何のために?……あれ?拙者が敵を倒さねばならぬ理由は……」
深刻な表情で頭を抱えだした忍者に、私も
「……そうだ、拙者は守らねばならんのでござる。妻と娘が無事逃げきるまで魔物を操り襲い来る貴様らを足止めせねばならんのでござる!」
え?いや、待って。この人もしかして被害者側だったりしない!?
「そう、魔物を操る、魔物を崇拝する狂人共から、妻と、娘を……」
で、教祖から引き離された上で楽しく会話しちゃったから洗脳が解けかけてしまっているのね?
濁った瞳でこちらを見返す忍者が問いかける。
「……貴様らは、本当に、本当に……、敵でござるか?」
答えられない、返す言葉が出てこない……。
少なくとも、こいつの魔力量は何人かの人間を捕食した量で間違いなくって……。
敵じゃないなんて答えてしまえば、洗脳が解けて、自分がやった事を思い出して、かなりの精神的苦痛を味わうはず。
そして、そうなった上で魔物と合一している以上は敵として倒さなければならない。
私達は安全に勝つことが出来るかも知れないけれど、本当は被害者側の人間にそんな残酷な事実を突きつけて苦しませて殺すなんて、とても正義の味方のすることではないでしょう?
かといって、敵だと宣言して戦闘続行した場合の魔力消費も無視出来なくて……。
私も恵瑠も切り札を使って、その状態で他の子を助けに回るなんて余裕はきっとそんなに残らないはず。
「はー、これだからウサギさんは優しすぎて困っちまいますわよね……。そこの忍者さん?ワタクシ達は貴方の敵でございましてよ?大切なものを守りたいんでしょう?じゃあ、戦うしかねーんですわよ!」
大見得を切って叫んだ恵瑠のパイルバンカーから青い炎が吹き出して……。
……ああ、私と彼の会話中にもう準備は整っていたのね?
加速した杭打機は背後にある何かを守るように立ちふさがった彼の胸を貫いて、再度炎を上げて止めを刺した。
「……女2人には逃げられちまいました。よくやりましたわよ、貴方」
恵瑠の言葉を聞いてから消滅するまで、その顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。
「あー!もう!最悪!ファ◯ク!死ねば良いんじゃないかしら!というかぶち殺すから!もしセヴンスが生かそうとか言いだしても絶対殺すから!」
戦闘を終えて、
「ワタクシも、必殺技を人柱なんて方法で回避されてトサカに来てますのよ?その時は全力で協力しますわ。どうしやがりますか?ヴォーパルバニー?」
はあ、下手な気遣いよね。そんな顔で差し出された手を跳ね除けられるはず無いじゃない。
「ええ、気持ちよく全力でぶち転がしましょう?
☆★☆★☆★☆
白さん一人称回。
そして、セヴンスさん出さないと悲劇起こりがち感。
まあ、セヴンスさん周りがおかしいだけで本来はこういう世界観なんすよこの作品という回。
あ、忍者さんのご家族は逃げ切りました。だからこそ忍者さんが代わりに洗脳されて使われた感じです。
次は姉妹+2名回です。
くっつけられたのは誰なのでしょうか?
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