第126話 満月の空の吸血姫

 セヴンスさんの「空間」という呟きと敵の詠唱の文言から空間を歪めての隔離や分断を嫌って外に飛び出してみたのだけれど……。

 私が飛び出した直後には皆の魔力反応は散り散り。掃除もされてない廃ホテルの一室に投げ込まれるなんて悪夢よね。どんなに汚れているかわからないんですもの。

 ガラスなんかが割れていて、腐った水とカビをふんだんに盛られたマットレスの上なんかに跳ばされていたら最悪としか言いようがないでしょう?

 合一者ソロニティ共に襲われるのは良いのかって?

 良いに決まってましてよ?倒すべき相手が逃げ隠れせずに向かってきてくれるなんてありがたいことこの上ないと思うのだけれど、いかがかしら?

 今、この瞬間みたいに。


 私の眼を持ってしても残像が残る速度で、ボロ布を纏った人型の存在が飛び込んでいらっしゃいましたわ。

 あの組織の合一者ソロニティと名乗る連中はちゃんとした服を来ていらしたと思うのだけど?それに、こんな風に高速で自由に空を飛ぶ概念は資料には載って居なかったでしょう?

 そうなると、会議より後に呼び出した概念型と見るべきかしら。

 でも残念ながら、私の遊び相手ダンスパートナーとしては不合格よ?この程度の魔物ではものの数分で踊り疲れて倒れてしまうもの。


 正面から眼にも止まらぬ速さで飛び込んでくる魔物に対してそっと血刃を構え、奇襲に備えて脱力して待機。

 だって、あまりにも嘘つきの眼をしているんですもの。

 予想通りに空を飛ぶ魔物は私の直前で鋭角に曲がり、慣性を無視した軌道で背後から貫手を放って来られましたけれど……。

 エスコートのために差し出された手を、無下にするのは失礼というものでしょう?

 人間の体なんて簡単に貫きそうな突きに対し、半歩分だけ下がって逆袈裟に細剣を振り上げれば……、満月の空に残酷に浮かぶのは魔物の右腕。

 「ごめんあそばせ?レディを誘うのには手つきが不躾でしてよ?」


 そうやって間男を追い払っていると、下方からの強烈なの束が襲いかかって来ているではありませんか。

 「この時間に点ける灯りにしては強すぎるのではなくて?」

 私を追って放たれる光線をフェイントを交えた高速軌道で回避し、招かれざる客2名が視界に入る位置にて滞空致しましたわ。

 先ほど腕を切り飛ばした魔物は……まあ、飛行の魔物とでも呼ぶとして。

 こちらの4枚の純白の翼を生やした魔物をどう呼ぶべきか……。

 「まあ、天使……とでも呼ぶしか無いのかしら?」

 何を目的としていたのかは知らないけれど、飛行可能な概念型を2体なんて用意するの大変だったでしょうに……。


 さて、相手が合一者ソロニティの方であれば舌戦の一つや二つ交えたのだけれど、この方達は物言わぬ純粋種の概念型でしょう?おしゃべりの相手にもなってくれないつまらない方たちですわ。

 でしたら、私の遊び相手ダンスパートナーを努めていただく以外に使い道が無いのですもの、精々力尽きるまで楽しませて頂かなくては勿体ないと思いません?

 よりにもよって今宵は満月。

 私、満月の日に満足できるほど踊って頂けた方は見たことがなくってよ?


 蝙蝠の羽に魔力を込め、空気が爆ぜるほどに強く羽ばたいて飛行の魔物と小走りトロットのステップを空に刻んで……。

 光線で邪魔合いの手を入れてくださる天使の魔物けんぶつきゃくには吸血蝙蝠サーバーを差し向けましょう?お嬢様、貴方から搾りたての血液ドリンクは如何ですか?って。

 満月の空は私の独壇場ダンスホール

 さあ、力尽きるまで殺し合いおどりましょう?


 そう言えば、この前の概念型集団襲撃の時に空を飛んで自ら死にに行ったおばかさんがいらっしゃったじゃない?愚かよね。私だって、こんな風に自由に飛べるようになるまで何十時間かかったことか。

 だけれど、魔物の中には今対峙している2体の様に生まれてすぐに自由に空を飛べる方がいらっしゃいますの。

 差は何処だと思いまして?


 答えは至極単純。

 人間なんて不自由な器を使っているかどうか……それだけなの。

 そもそも、合一者ソロニテイとかいう奴ら、私の基準で判断させていただくと弱体化しているとしか思えませんのよね。

 この例えを出すとあの方達は大いにお怒りになるでしょうけど、覚醒めざめた直後の魔法少女の様……。

 手に入れたばかりの力をただ振るうだけの子供と変わりませんわ。

 まあ、流石に複数の魔物と合一した上位勢は別でしょうけど?

 

 なんて、この空戦とは関係ないことを考えている間に飛行の魔物との距離が手が届きそうな距離まで近づいてきましたわ。

 空中で鋭角を描いて曲がる飛行能力には感嘆致しますけれど、結局はそれだけの相手でしたわね。

 このまま追い抜きながらの斬撃で首を飛ばしてしまうのが簡単なのだけれど、せっかくの満月ですし、もう少しだけ手の込んだ方法で決着を付けたい所でしょう?


 天使の魔物は私を遠距離から仕留めようと攻撃してきていたけれど、流石に飛行の魔物の背後数メートルで張り付いたように距離を維持していると味方撃ちフレンドリーファイアを怖がって攻めあぐねているご様子。

 ……あら?ということはあの光線、もしかして魔物に対しても普通に効果があるのかしら?

 だとしたら、2匹同時に倒せるあの方法が面白いのではなくって?


 まずは、飛行の魔物を背後から射撃してこちらに注意を引き付けますの。この時、わざと直撃させないのが肝要でしてよ。だって、当ててしまうと倒してしまうじゃない。

 こうすると、相手は飛行方向なんてどうでも良くなって、私を振り切って銃弾の脅威から逃れることだけを考えるようになるでしょう?

 そうしたら、後は単純。

 進行方向を制御しつつ、私の狙いに気が付かないように適度に銃撃を浴びせて……。


 ほら、前方不注意でしてよ?

 私から逃れようと全力で直進する飛行の魔物の正面には、衝突するぐらいなら私ごと灼き殺さんとして、全力で光線を放つべく腕を掲げる天使の魔物。

 気がついて方向を変えようと速度が緩んだ所へ更に加速して背後から血刃による一刺し。

 放たれる光線は飛行の魔物を盾にしてやり過ごして更に加速。

 伸ばした血刃が飛行の魔物越しに天使の魔物を貫いて……。

 出来上がるのは、空中にて絡み合う串刺し死体のモニュメント。

 ……うん、串刺し公に倣って見たのは良いのですけれど、別段かっこよくも気持ちよくもありませんわねコレ。


 何はともあれ、これで私は自由に動ける事になりましたし、手近な魔力反応から順番に手助けに向かえば良いのかしら?

 気軽にそんな事を考えながら廃ホテル上空へと舞い戻り、屋上への着地を試みるとそこにはバニーガールと金髪ドリルが硬い握手を交わしておられましたわ。


 あちらこちらに弾痕がひしめき、ドリルによる貫通痕の目立つ屋上ヘリポート。

 お二人共、どんな相手と戦ってらっしゃったのかしら?



☆★☆★☆★☆


初の吸血姫一人称回。

めちゃめちゃ言い回しが厨二臭いですが、頑張って中二病的なかっこよさを目指してああなってるセヴンスさんとは違い完全に素なのがまあ、はい。地の文が胃もたれします。

でも、ゲッター飛行みたいな鋭角でギュンギュン飛び回る敵を、力任せな無理矢理な軌道で飛んで追いかけるのかっこいいですよね。

御使いさんは攻撃的にはアンデッド特攻あったのでセヴンスさん相手に使ったほうが実はめんどくさかったという話。



  

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る