第125話 分断

 で、絶え間なく降り注ぐ魔法少女たちの弾幕を見て気がついたんですが……。

 「この弾幕に紛れて足元から網を張って生き残りが居ても拘束する」はずだった札月さんが飛び移ってきてませんね。一体どうしたのでしょうか?

 《理珠さん理珠さん、札月さんがこちらに来てないんですが何か問題でも起こりました?》

 《えっと、どうやら彼女は高所恐怖症であったようで。命綱無しでのビル間200メートルの滑走には耐えられないと皆が判断し、わたくしと同じく待機という形になりましてございます。ビル内等の足場のしっかりした場所なら問題ないそうなのですが、ハーネス一つで中空に躍り出るのはとても耐えられない……と》

 あー、アレですね、ビルとか橋の上とか構造がしっかりしていて安心を感じられる場合は問題無く行動できるけどヘリとかスカイダイビングとか墜落する可能性を考えてしまう状態だと動けなくなるタイプですね。

 流石に、その状態で無理矢理襲撃に参加させるのは酷だと思うので待機で正解だったと思います。

 まあ、そもそも戦闘要員としては重要な役割ではないですからね彼女。後方でヒーラーが万全の状況で待機しているって状態の方が逆にみんな動きやすいかも知れません。


 おっと、弾幕斉射が終わりましたね。

 こういうのは、漫画なんかだと「グミ撃ち」扱いされて煙の向こうから無傷の敵が現れるところですが果たして……?

 「よくもやってくれたな、貴様らぁぁ……」

 怨嗟の声と共にあらわになった敵の被害状況は、まあ結構酷い感じになってました。

 教祖である大山田は体中あちこちに貫通痕が残る死に体、他の合一者ソロニティ達も半分は既に活動を停止しているようですね。

 偽装の概念のせいで教祖こそ倒せなかったものの、大司教アルシェヴェックは終末へ向かい残りの敵も半死半生。

 これは、俗に言う「勝ったな、風呂食って飯入ってくる」というヤツなのでは?

 一応、ザマさんが変なフラグ建てたせいで真割さんが教祖をぶち抜けなくて悔しがってますが他は概ね大成功だと思います。


 そんな風に、皆武器は構えて気を張りつつもほんの少しだけ警戒が緩んだその瞬間でした。

 「なばりの巫女ぉ!力を、星の力を我が手にっ!」

 ヤツの視線が向かうのは演台の端で無表情に佇んでいる藤由さん。

 受け慣れた命令なのか、精神感応テレパスによる操作なのか、埋め込まれた無数の純魔結晶が光を放ち思わず息を呑むほどの大量の魔力が大山田へと譲渡されます。

 まあ、これは別に警戒してたからといって防げる行動でもなかったんですが、隙を突かれたという心理的ダメージは次の動作をほんの僅かに遅らせました。

 「星の神命いのちよ、全ての命に備わる再生の星力せいりきよ!汝に忠実なる信徒の傷を癒やし給え!」

 藤由さんが血を流しながら受け渡した大量の魔力と、本人の叫んでいる通り再生の概念により大山田自身と周囲の合一者達の傷が高速で癒えていくのが見えます。

 と言っても、既に活動を停止した者はを失った扱いなのか死体のまま動いていませんね。

 さて、残りは回復して起き上がってきつつある教祖含む6人ですね。


 とはいえ、完全回復するまで眺めている必要も無いわけで……。

 「静謐セレニタス多重付与エンチャンターレ神威変性ディヴィニタス・ディジェネラートゥム絶視無影ぜっしむえい黒雷鎚くろみかづち!」

 はい、回復に使ってるその魔力、横からがっつり頂いてしまいましょう。

 そして、当然ながら一斉射の構えを解いていない魔法少女達が再度弾幕を展開しようと得物を構えました。


 「雪月院様!完全回復まではとても保ちません!我が星力せいりきを使う許可を!」

 ほほう、私に魔力を吸われて回復速度が落ちている現状と、再度斉射される耐性の整った弾幕という状況を正確に把握できているヤツが居たようですね。

 許可を訪ねておきながらも返事を貰う前に魔力を集中させて概念能力を発動させようとしている様子が見えました。

 ……ここからが逆転の一手があるとして、攻撃魔法でこちらを一掃?無理です。私達は全員窓際にバラバラに並んで攻撃を加えているので一撃で多数の魔法少女を撃破するのは難しいでしょう。よしんば広範囲系の攻撃を放てたとしても攻撃自体を消し飛ばすために右ネキがいつでも右ストレートを放てる体勢で待機しています。

 防御系の概念でしたらそもそも許可を貰う必要もなく発動させているはずですし、こちらに状態異常を掛けるタイプだったとしても魔力による状態異常であれば私の吸魂の雷刃ストームブリンガーでその魔力を吸い尽くすことで解除することが出来ます。

 

 何らかの能力を使おうとする相手に反応して弾幕がそちらに集中して居ますが、教祖の大山だが身を挺してそれを庇っています。

 これは、ちょっと発動自体を妨害するのはもう難しそうですね。

 しかし、この状況で他に相手に勝機が残る手なんて、私達を分断して各個撃破するぐらいしかありませんし、そんな能力が使える概念なんて……。

 頭に叩き込んだ、この教団が呼び出した概念の一覧を必死に思い出します。

 「……空間?」

 思いついた時には身体が勝手に動いていました。

 速度重視で無限の縛糸グレイプニールを起動し、私と大山田を結びつけます。後は直感で魔法少女達を勝手に数グループに分けて無限の縛糸グレイプニールで繋ぎ、と認識されるように急いで小細工を……。

 

 「ここを檻とし、捻れて、歪んで、バラバラに!……ぶっ跳べ!」

 視界の端で、何かを感じた初雪さんが翼を生やして外に飛び出していくのが見えました。

 問題ありません。雛ちゃんと初雪さんはソロで幹部級と戦闘になっても勝利すると信じているのでグループに組み込んでいません。

 それに、空を飛べる人が外に居てくれるなら外部との連絡や状況が悪いチームの援護に突入してもらったり色んな手が使えます。さすがの戦闘勘ですね。

 まあ、連絡だけなら私が理珠さんへ根源を通じて話しかければいい話なんですが、これから戦闘開始でしょうし、切り結んでる最中に状況報告とかはちょっと難しいですからね。

 

 と、そんな事を考えている間に周囲の空間があちこちで歪みを作り、光を放つと同時に全員がこのイベントホールから消えていました。

 一応、「ここを檻とし」と詠唱していましたし、動いている魔力量的にもこの廃ホテルの何処かに跳ばされた程度の分断だとは思いますし、味方も一緒に飛ばしていることから*いしのなかにいる*状態にはならない能力であると予想できます。

 一応コレで、消耗した魔法少女一人に複数のが合一者が襲いかかるなんて展開は回避できた……と思います。 


 「どうやら、神徒・風祭の星力せいりきは上手く言ったようだわね。正直、邪神の使徒共にここまで我らの情報が筒抜けだったとは思わなんだわ」

 ホールに残った教祖の大山だが嘆息と共に私の方へと向き直りました。

 「ましてや、神より預かりし大事な神徒達の半数を滅ぼされ、地を統べる為に先ほど呼び出したばかりの神命しんめいまでを戦力として使わねばならないなんて……」

 大山田が似合わない仕草で指を鳴らすと、空間が裂けて2人の合一者ではない概念型が現れます。

 「飛翔、御使い。外の蝙蝠を狙うと良いわ。連携なんて取らせないで、個別に始末するのが重要だわ」

 片方はまあ、飛翔なので飛ぶんでしょうけど、御使い?と私が頭に疑問符を浮かべていると概念型の背中から真っ白い羽根が2対も生えて外へと飛び出していきました。あー、天使とかそういう感じの天の御遣いって感じですか。

 ……概念型2体程度で初雪さんがどうにかなるとは思えませんが、何を思ってコイツラを差し向けたのでしょう?謎です。

 

 「こちらも、まさかあの状況からひっくり返す手札を持ってるとは思いませんでしたよ。けど、私が貴方を倒してから他の魔法少女を助けに行けばいい話ですし?何の問題にもなりませんよ?」

 まあ、分断を許してしまったのは実際痛手ではありますが、別に挽回が出来ない状態でもありません。

 何より、私がコイツを倒してしまえば藤由さんの救出が出来ますし?後は制限の無くなった皆で建物の損傷を気にせず全力で敵を倒して回るだけになります。

 6つの概念型と合体したとか聞いていますが、こちらとて3人分の根源から魔法を使えるので互角以上の戦いが出来るはずです。

 サクっと倒して皆の応援に周りましょう。


 「ふふっ、魔女ごときが神に選ばれしを倒すなどおこがましいにも程があるわ。何より、負ける気が無いからお前をここに残す様に指示を出したのだし。身の程を知るが良いわ」

 大山田の魔力が急激に膨れ上がり、身にまとっていた上位幹部用のローブが無数の金糸で彩られた豪奢な祭服へと変化します。

 ……こんなとこまで魔法少女の真似しやがるんですねコイツ等。逐一イラっとさせてきて正直不快でしょうがないです。

 

 自称神に選ばれた人間と、邪神に選ばれてしまった魔女のゾンビ。

 どちらがなのか、さあ死合うとしましょうか!


☆★☆★☆★☆


奇襲で半分削れましたが、相手もさるもの複数のグループに分断された魔法少女達。

……コレで個別に見せ場が作れます。ラドンもそうだそうだと言っています。

ということで次回からグループごとのクライマックス戦闘です。

そして、妙に余裕たっぷりな教祖は何を考えているのか。



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