第115話 感覚遮断触手穴(改造系)

 足を踏み出すと同時にとベトつく生暖かいナニカに触れて、反射的に感覚遮断の魔法を展開したのじゃが……。

 なーんで、この次元は構造物全てが触手と赤黒い肉で出来ておるのじゃ?

 空間の性質としてはアレじゃな、次元の中で、魔物毎に魔力で区切った縄張りを持っておる感じじゃな。そのうえで、この壁と床と天井が全て赤黒い肉になってしまう性質はこの次元全体のルールとなっておるようじゃ。

 ……ほんとなんなんじゃこれ。恐らく、魔物の出現の最初期に地球人側がイメージした空間を魔物が反映させた状態が固定化されたものじゃと思うのじゃが。

 いっくらなんでもこんな次元を想像するとか頭おかしすぎるのじゃ。

 というか、感覚遮断しておるから良いものの体中に触れてくる触手やらが何やら液体の滴る針を突き立てるわ執拗に特定の部位を撫でさするわで鬱陶しい事この上ないのじゃ。

 ……これはアレじゃな。あちらへ帰ったら身体ごと作り直しじゃな。

 少なくとも、帰る頃には普通の人間に擬態して生活するのが困難な状態に改造されておるのは確定じゃろうし。


 んぬー。邪魔な触手をべしべしはたきながらしばらく進んでみたが地球人類の身体構造に刺激を与えるのに特化した空間というだけじゃなコレ。

 空間自体にそういう性質を持たせておることは珍しくはあるが、それだけといえばそれだけじゃし、別段作成難易度が高い固有次元という程ではないのじゃ。

 得られる知見も無さそうじゃし、後はあの最初の魔法少女の写し身と本体の様子を確認して帰るとするかの。

 ……いや、わかっとるのじゃ。どうせセヴンス達はアレじゃろ?助けられるなら助けろと言うのじゃろ?

 まあ、状態を見てめんどくさそうなら助けるのは無理そうじゃーと嘘ついて放棄してしまえばよいのじゃが……。

 どうにも、奴に真面目に願われた場合断れる気がせんのはなんでなんじゃろな。


 ……しっかし、なーんで存在を隠蔽する魔法を発動しとるのに触手は群がってくるんじゃろな?なんか身体のあちこちのサイズが変わってきておる気がするし、これ感覚遮断解除したら調査とか言ってられん状況になる気がするのじゃが。

 というか、コレ、この空間に何年も放置された地球人とかどーなっとるんじゃろな?ちゃんと人間と認識できる姿しておるんじゃろか?



 ☆★☆


 さて、魔力反応を頼りに触手を掻き分けたまにブチブチちぎりながら魔法少女と魔物の近くまで掘り進んできたわけじゃが……。

 アレはもうダメじゃなぁ。

 顔と胸元ぐらいまでは人間だと認識できるのじゃが、四肢は周囲の触壁に溶け込むように融合しておるし、そもそも胸もアレじゃな、そこに立っておる写し身と比べるとみかんと米俵じゃぞ?アレもう立ち上がれんじゃろ、重心的に。水銀の娘よりどでかいのは初めて見たのじゃ。

 表情は知性の欠片も感じられぬ程に呆けておるし、周囲の触手が蠢いても一切の反応を示しておらぬ。

 正しく、抜け殻と表現するのが正しい状態だと思うのじゃ。

 その傍らに綺麗に積まれた純魔結晶が供え物のように置いてあるのが見えるのじゃが、自然反応で非活性魔力が転化する以上の活性魔力増加が感じられぬ。

 アレはもう魔力生成機構そのものが機能不全になっておるのじゃと思う。

 魔力が無くば肉体も維持出来ぬし、早晩アレは物に変わるじゃろう。


 魔物の方も魔物の方で尽きそうな魔力を補充するために、抜け殻から搾り取るように魔力を吸っておるわ。

 恐らくじゃが、あの魔物は吸収する相手が自分自身じゃからと遠慮なく幾度も魔力を吸っておったのじゃろう。

 魔力生成能力が低下しておるから魔力を吸える量が減り、減ったからこそ更に激しく魔力を吸収しようと搾り取り、それによって更に魔力生成の効率が下がっていくと。

 仕方なくはあるが、負の連鎖というやつじゃな。


 うーむ、何度も強制的な魔力吸収を行った上に精神体たましいの構造がほぼ同一と言って良い存在からの吸収じゃろう?

 これ、魔力生成機構としての根源核が壊れれば壊れるほど魔物の方に核が構成されておらぬか?というか、肉体に付属するはずの精神体たましいそのものが魔物の方へ吸収・同化されておる可能性が高そうじゃ。

 あれじゃな、血の娘の姉妹と少し似ておるのじゃ。

 血の根源を持つ姉が精神の器としての肉体に長い事同居しておったが故に、肉体の方経由で根源が血の根源の性質を写し取ったアレじゃ。

 今回は、自らと全く同じ性質を持つ存在をラフィーネン特殊結合魔力によって作り出したという状態じゃからな。恐らく核となる純魔結晶に根源核が同化しつつある感じだと思うのじゃ。

 精神体たましいも、根源核を失った人間と定義できるか怪しい肉体から根源核を持つ少なくとも外見上は人間の身体への移行なら喜んでやるじゃろうしな。

 

 となれば、あの肉の体は放置して魔物の方を生かしてやればセヴンスも納得するじゃろ。

 ……いや待て、あの魔物、自分以外からの魔力吸収はせぬと主張しておったな。他者から魔力吸収を行うと魔物としての本能に逆らえぬとも。

 あれ?これどうすればいいのじゃ?


 10年間魔物とやらを観察しておったが、魔物が魔力を求めるのは常に飢餓感に襲われておるからじゃ。

 本来、肉の身体を持たぬはずのラフィーネン特殊結合魔力の塊がという人間の共通意識のせいで、魔力を食事として吸収するという生態になっておるんじゃが……。そもそもという生態は持たされとらんからな。

 魔力を十分に蓄えているはずの、複数人魔力保有者を捕獲した後の魔物でさえ新たな餌を探しにあちらの次元へやってくるのがその証左よな。

 

 で、魔法少女の写し身は味のないガムを噛むようなあの本体からの魔力吸収でその飢餓感をごまかしておると思うのじゃが……。

 他者から魔力を受け取ることを良しとせず、本人の魔力は減り続けており、それによって消滅する事を受け入れておる……と。

 うーむ、その上魔物の身体じゃろ?正直、無理矢理魔力を補充して生き延びさせる事自体はさして難しくもないが、ラフィーネン魔力を垂れ流しながらあの電波まみれの地球文明の中で生活するのは迷惑極まりないじゃろうし、本人も望まないと思うのじゃ。

 

 うぬぅ、となれば別の身体を用意してそちらに精神体たましいを移すのが手っ取り早いのじゃが……。

 これ、下手するとただ人間の肉体を持っただけの魔物になる可能性があってなぁ。

 肉の方の身体がまだ使えるようならあちらに精神体たましいを移して、人間としての性質を思い出させてから新しい身体へ移す感じでイケたのじゃが、現状のあの肉に精神体たましいを突っ込むとその場で発狂しかねないのじゃぁ……。

 

 あー、いや、何か、何か手はあるはずじゃ。

 というか、これでやつがれがあの娘を助けられなかった場合「偉大なる精神生命体ヴァトォーゴ様、女の子一人救えないんですか?大したこと無いんですね(笑)」とかセヴンスに言われるのが耐えられんという切実な事情も……。

 なんかこう、同じ根源を持つもの同士舐められるのが我慢ならんのじゃよな。

 

 しかし、魔物としての性質をどうにかする手が思い浮かばん限りはちょっと手詰まりじゃな。

 魔弾の娘は正直こやつの話をすると冷静な意見が出んじゃろうから、雛と相談するかのぅ……。

 魔力量から考えて、あの魔物の娘が戦闘に耐えられるのはあと2……いや、1回じゃな。1回目が瞬殺でもなければ2回目で消滅するじゃろう。

 あれ?もしかしてあまり時間無いのではないか?

 

 念の為、この空間のこの位置をマーキングして雛との相談の為に地球への門を開こうとしてふと気づく。

 なーんか、ANAというANAから粘液垂れ流しになっとるし、胸部がやたらと腫れておるし、このまま戻ったら大騒ぎされる気がするのじゃ。

 直接戻らず、一度本体のもとで新たな肉体を作り出してから顔を出す事にしようかの。


 ……念の為、感覚遮断魔法を3回ほど掛け直してやつがれは地中深く蠢く本体の元へと帰ったのじゃ。



☆★☆★☆★☆

最初の魔物が日本に出たのと、最初の魔力保有者が魔法少女だった事の合せ技で魔物の空間が触手まみれになりました。

魔法少女と触手は切っても切れない関係ですからね。

多分、キリスト教圏で最初に魔物が出てたら地獄イメージとかになったんじゃないですかね?


肉体改造系かどうかは空間の主だった魔物の趣味によります。

くすぐり系とか、拷問系とか。

まあ、大体帰ってくる頃には壊されてるのでどれでも一緒ではありますが。



 

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